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にこりと微笑んだウララにヨワはお礼を言った。我が子を愛し深く信頼している笑みだと思った。改めてユンデの幼さなど関係なく、彼の想いに真っ直ぐ向き合いたいと心を決めた。それと同時に子どもの成長を揺るぎない愛で見守るウララの眼差しがうらやましく感じた。もしも自分に子どもができたら彼女のようにそばにいてあげたい。
日時などの詳細は手紙でやり取りすると約束して、ヨワとユカシイとリンは帰ることにした。ウララが階段口からユンデに声をかけるもついに男の子は姿を見せなかった。海にも行きたくないと言うかもしれない。ヨワの心配を察したようにウララは「よく話してみます」と言った。
最後に突然の訪問になったことを謝ってヴィオレフロッグ家をあとにした。数歩進んだところでヨワは窓を見上げてみたがユンデが覗き込んでいることはなかった。
先を歩いていたリンが敷地から出ようとした時、細身の男性と行き合った。
「おや。きみたちは」
くっきりとほうれい線が浮かび上がった彫りの深い顔、波打つ髪を肩まで伸ばし後ろでゆるくひとつに結んでいる。かすかに見開いた目の水色と、日の光の元でさらに赤く見えるくせっ毛はついさっきまで会っていたユンデやウララによく似ていた。
「私はこの家の主ジャノメだが、なにか用があったのかね」
ユンデの父親だ。ヨワは前に進み出て自己紹介をした。するとジャノメはすぐ合点がいったようでひかえめな笑い声をもらした。
「そうか。きみが息子のガールフレンドか」
それを断るためのデートに誘いに来たのだ。そう言い募ろうとしたヨワの言葉を遮ってジャノメは笑みを浮かべたままうなずいた。
「わかっているよ。息子のためにわざわざ家まで来てくれてありがとう。ユンデは純粋だ。きっときみへの好意もそうだったに違いない。息子を許してくれるだろうか」




