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「海といっても砂浜で遊ぶくらいですけど」
「俺の母と弟にも声をかけるつもりです」
ユカシイとリンからの捕捉を聞いて静かにうなずいたウララは、ティーカップを置いてから口を開いた。
「お誘いはうれしく思いますが、どうして私たちまで声をかけてくれるのですか?」
ヨワはうつむいてバタークッキーを食べているユンデを見た。
「ユンデとのデートでもあるからです」
男の子は弾かれるように顔を上げた。
「ユンデは彼なりに誠実に私と向き合ってくれました。だから私もちゃんと向き合いたいと思っています。最後まで」
「ヨワとお別れしなきゃいけないの? どうして。僕がきらいだから?」
ソファーから立ち上がったユンデは服の裾をぎゅっと握り締めて訴えた。くしゃりとゆがんだ顔は今にも泣きそうであった。それを堪えて小さな体は震えていた。
「そうじゃないよユンデ。でも――」
ユンデは最後までヨワの言葉を聞かずリビングを飛び出した。二階に駆け上がる音が廊下から響きどこかの扉が勢いよく閉まる。幼い子の心を傷つけてしまったことをウララに謝った。
「いえ、ヨワさんは悪くありません。ユンデのことをそこまで思ってくださってありがたいくらいです。ぜひ最後のデートをしてやってくれませんか」
ひざの上で指同士をすり合わせウララはぽつぽつと語った。その声には笑みがにじんでいた。
「あの子、いくらガールフレンドのことを聞いても名前くらいしか教えてくれなかったんです。いつもは素直になんでも話してくれるのに、まるでヨワさんを独り占めしたいみたいでした」
無垢だからこそ真っ直ぐ届くユンデの好意にヨワははにかんだ。
「本当にヨワさんのことが大好きなんだと思います。だから、きちんとお別れすることがあの子のためになるはずです」




