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「お客様! ホワイトピジョン様!」
「私はホワイトピジョンなんかじゃない!」
自分の叫び声で我に返った。見ると店中のカップや皿が宙に浮かんでいて、ウエイトレスと客たちがヨワを凝視していた。いつの間にか握り締めていた手を包む温もりがあった。リンとユカシイがそばで手を握ってくれていた。
「だいじょうぶ。ゆっくりでいい」
リンの声にうながされヨワはそろそろと力を抜いていった。それに合わせて空飛ぶ食器たちもそっと舞い戻った。幸いにも被害はなく、ヨワは店主から注意を受け謝罪するだけで許してもらえた。
カフェを出たヨワは北門のある方角を見つめた。
「ユカシイ。私海に行く」
そう決めた理由をユカシイは悟っていた。
「先輩、無理しなくても……」
「ううん。知りたいの、本当のこと。前に進むために」
「それじゃあ母さんとスサビも誘ってにぎやかに行くか」
リンの提案にヨワはパッと明るく表情をほころばせた。
「オシャマさん! いいね。すごく楽しそう。あ、私も彼を誘おうかな」
「彼ってまさかシオサイさん!?」
大胆なユカシイの発想をヨワは笑って吹き飛ばし、いじわるな顔をした。
「彼はもちろん私の彼だよ。十年後のだけど」
ユカシイは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「忘れてたあ! 先輩まだあのもじゃ男と……! まさかまだつき合いつづけるんですか。別れないの、ねえ!」
「ちょっと待て。ヨワお前あいつとつき合ってるのか!?」
「あれ。リン知らなかったっけ?」
「聞いてない!」
ユカシイに負けじと詰め寄ってきたリンにヨワは「つき合ってるというか」と苦笑いを浮かべ、コリコ祭りのデート終盤にあったことを話した。そしてユンデの正体が変化の魔法を使ってネコのソゾロや十年後の自分に化けていたヴィオレフロッグ家の男の子であろうという推察も伝えた。




