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「まあ、ヨワが顔に出やすいってこともあると思うけど」
リンににやりと顔を覗き込まれてヨワは唇を尖らせた。
「そんなことっ、ないかわからない」
言われてみれば自分がどんな時どんな顔をしているのか意識したこともなかった。照れ笑いをもらすとユカシイとリンの頬がほころぶ。
「んもうっ! 先輩かわいい!」
両腕を広げたユカシイがいつもの調子で抱きつこうとしてきた。しかしヨワは正面から後輩を受けとめるよりも先に、背中に衝撃を受けて知らない温もりに包み込まれた。
「ヨワ!」
だが耳に飛び込んできた声は聞き覚えのあるものだった。剣の柄を掴んでいたリンも鋭く高まった空気を霧散させて目をまるくしている。
ヨワを背後から抱き締めたのは庭番のシオサイだった。振り向き声をかけるも彼は項垂れて動かない。ヨワの肩を掴む手はかすかに震えていた。
「僕はずっと、ずっと、ずっと、思い悩んでた」
「シオサイさん?」
独白のような言葉をつぶやくシオサイの手に触れた。すると彼の体はびくりと揺れて顔を上げた。ヨワを映した目にみるみる涙が溜まっていく。これにはユカシイもリンもぎょっとした。
とりあえず興奮しているシオサイをなだめるために図書館近くのカフェに入ることにした。そこのテラス席に四人で座ろうとしたのだが、シオサイがヨワとふたりにして欲しい、と言った。しかし護衛のリンもバナードの一件以来敏感になっているユカシイもその申し出を拒んだ。結局、リンとユカシイは隣のテーブルに座ることで落ち着いた。
自分の分の紅茶とシオサイのコーヒーを注文しながらヨワは緊張した。座ってからもずっと下を向いたままであるシオサイの様子はただごとではなかった。人払いをしようなんてよほどだ。だけど強引にでも居座ってくれたふたりの存在がヨワを冷静でいさせてくれる。
横目でリンを見ると彼はうなずいた。




