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そういえばあの時のバナードはヨワの浮遊の魔法にも興味を持って質問してきた。それまで何度も会っていたのになぜあの日だったのか。
「ススタケさん、彼がすべての真相を知ったのはそれほど前のことではないんだと思うの。もし庭番に裏切り者がいるなら、最近なにか変わったことがあったんじゃないかな」
「最近変わったこと……。うーん、特に思い浮かばない」
ススタケは引きつづきバナードの身辺と庭番の内部調査を進めると言った。
「バナードの目的だが、コリコの樹のクリスタルではなさそうだな」
「うん。バナードさんはカカペト山のクリスタルの在り処を知っているもの」
「だとしたらやはり、庭番自体をよく思ってないってことか」
ヨワは湖に溺れながら聞いたバナードの言葉を思い出した。「庭番なんてふざけた連中も今に消える」とバナードは忌々しそうに吐き捨てていた。そのことを話すとススタケは「確定だな」とうなずいた。驚きはなかった。元々〈ナチュラル〉にとってたとえそれがコリコの樹のためであったとしても庭番のおこないは受け入れがたいものだとわかっていた。庭番の裏切り者を通じてバナードがコリコの樹の空洞を知ったのなら黙っていられるはずがない。〈ナチュラル〉の中でも妄信的な信者であればなおさらだ。
「ごめんな、ヨワ」
突然の謝罪にヨワは目をぱちくりとさせススタケを見た。
「お前を庭番に誘わなかったら、こんなことにはならなかったかもしれない」
真っ白なシーツをなでるススタケの手のすぐそばをヨワは叩いた。
「そんなことない。庭番のみんなと出会えたから、根っこの家族って言ってもらえたから、私は諦めないでいられたの。頭が混乱して魔法が使えなかったんだけど、でも抗っていたら水音を誰かが聞きつけてくれた」




