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「だって困るよ。僕がヨワとお付き合いしたいのに!」
「本当に本気だったんだ」
「本当に本気だよ」
「私、両親ともうまくいってないのに?」
「それは今は仕方ないよ。いつか仲直りすればいいじゃん」
「竜鱗病持ちだよ?」
「そんなの関係ない。僕はヨワのやさしいところが好きなんだ!」
ここまでよく思ってくれる人との出会いはきっと人生に二度も三度もあることではない。ユンデの言葉はひとつひとつがありがたかった。リンと比べることはできない。リンはヨワのことをどう思っているのかさえわからないのだから。ヨワは誰を重ねることなくユンデと向き合っていた。
しかしこんなにうれしい言葉をかけてくれたのに、ヨワの胸は熱を帯びなかった。震えることなく一定の鼓動を刻んでいた。こんなものなのだろうか。それとも自分の心は愛にまひしているのだろうか。
ユンデの顔が近かった。彼は水色の瞳を今度はそらさなかった。
「ヨワは僕のこと好き? お付き合いしてくれる?」
ヨワはリンを思った。好きくらい伝えればよかった。
「うん、いいよ」
次の瞬間ヨワは歓声とともにユンデに抱き締められた。その直後どこからかユカシイの声が聞こえた気がしたが、ぎゅうぎゅう押しつけられる胸板に首を回すことができなかった。
ユンデはおおはしゃぎで喜んでいる。ヨワは純粋な好意だけではないことに罪悪感を抱き、微笑み返す目元が震えた。
ところがユンデが思いも寄らないことを口にした。
「じゃああと十年待ってくれる?」
「えっ、どうして」
「どうしても! 僕のこと好きなら待ってくれるよね」
ヨワは頭を抱えた。十年は長い。おそらくスオウ王とススドイ大臣はそこまで待てない。浮遊の魔法使いの世継ぎ問題を今ここでユンデに話してしまおうか。しかし責任を感じたら彼は離れるかもしれない。利用したのかとヨワを責めることもあり得る。もっとよくないのはそれを否定しきれないことだ。




