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「ヨワ、あの店が気になるの? なにか保存する?」
「保存するものは思いつかないんだけど、氷の魔法が気になって」
今日の空のようにさわやかな薄青色の生地に白い氷の結晶が描かれた服を着た男女の店員は、息がぴったり合った手際で客をさばいていた。忙しくとも笑顔の絶えないふたりだった。
結局ヨワはなにも買わず、ユンデは北区の市場近くでおさかなクッキーを買った。イスは道端のベンチまで満席で、少し人混みに疲れていたヨワは北門の橋へユンデを誘った。橋ではヨワたちのように行き場を失ったか疲れた人々が、欄干にもたれかかったりその隙間から足を宙に投げ出して座っていたりした。ヨワとユンデも空いている場所を見つけて後者にならった。
足裏をたくさん乗せた客のせいで沈みかけている湖上船が通っていく。ユンデにひとつもらっておそるおそるかじったクッキーはほんのりミルクの味がした。おさかなとは見た目だけのようだ。
「こんなにたくさん買い食いしたのははじめてだよ!」
ユンデはうれしそうに少し得意げに言った。ヨワは普段は倹約家なのかと思って感心した。そう言われてみればヨワも普段から買い物はあまりしない。ユカシイに連れ出されるコリコ祭りは楽しいが心はどこかいつも雲がかかっていた。
「私もこんなに晴れやかなコリコ祭りははじめてかもしれない」
気持ちよさそうにぶらぶらと揺れるユンデの足が視界の端に映った。
「ねえユンデ、そろそろ教えて欲しいんだけど。どうして私のことなんでも知ってるなんて言うの」
竜鱗病のことを知っているのかとはやっぱり言えなかった。
「本当になんでも知ってるからだよ。肌の病気のことも、お父さんとお母さんとあんまり仲よくないことも」
ユンデは沈んだ声で打ち明けた。ヨワが驚いて振り向くと彼はうつむいていた。




