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きっぱり言い放つとヨワは相手の反応には見向きもせず踵を返した。ユカシイに声をかけて謁見の間から出ていこうとした時、小柄な騎士がなにか言って引き止めてきた。すっかり頭に血がのぼっていたヨワは浮遊の魔法で彼を投げ飛ばし、ついでに扉も魔法で開けて乱暴に閉めた。
「やれやれ。元気な子を産んでくれそうな娘だな」
「ヨワさんを怒らせた一因は兄上にもある」
王と大臣は兄弟らしくふたりそろってため息をついた。
ヨワは大股で正門に向かっていた。すれ違い際、城の者たちはみんな身を大きく引いてヨワに道を譲った。その態度がまた気に障ったが早く城から出られると思えば便利だ。
「さっきの先輩すっごくかっこよかったです」
駆け足で横に並んだユカシイが声を弾ませた。
「あたしとの未来のためにきっぱり断ってくれるなんて感動しました」
「いや、自分のためだから。私の平和な未来のため」
正門の先にリフト乗り場が見えてきた。来る時は十分もかかったように感じたが、思ったよりも道のりが単純で短くて助かった。勢いよく飛び出してきたのはいいが、本当は案内もなく広い城内から出られるのかと心配だった。
「でもあのリンって人、ブラックボア家にしては髪の色が真っ黒でしたね」
「知らない。どうでもいい」
ヨワとユカシイがリフトに乗り込むと謁見の間での一悶着など知る由もない門番は、安全柵をしっかりと閉めてすみやかにリフトを作動させた。
太陽は東の空にすっかり昇り、清らかな朝日に照らされて城下町を包む湖はきらりきらり輝いている。南区のほうからは人々の活気に満ちた声が流れてきた。大地の市場がもうはじまっている。城に向かって一直線に連なる緑と黄色のストライプ模様のテントがわくわくと揺れていた。
世界は今日も何事もなかったようにはじまる。




