145
度々リンを突き放すヨワの言動に戸惑い悩んだが、不安定な心はかつての自分を見ているようだった。シジマの言うことは確かだと思ったのだ。
「そう。放っておけない。ヨワがなにかを諦めようとすると俺はどうにかしてやりたくて仕方なくなるんだ」
「なんだかただの世話焼き幼馴染みみたいだけど」ユカシイがぼやく。
「おい。俺今けっこういいこと言ったぞ」
「リン兄自分で言ったら台無しだよ」
リンとユカシイとスサビは顔を見合わせて笑った。
「はっはー。仲よしなのはいいことだがリン、お前なにサボってるんだ」
突然シジマの顔が目の前に現れてリンは飛び上がり看板に頭突きを食らわせた。痛みにうずくまるリンにシジマの笑い声が降りかかる。自分とてオシャマに会いに行っていたくせに、とは寸でのところで飲み込んだ。
心残りはあるが任務は放り出せない。ヨワの護衛がスサビからシジマに替わるところを見届けてリンは戻ることにした。その際にもう一度テラス席を振り返った。
まだそれほど時が経っていないのにヨワの護衛に復帰したいとは格好が悪くて言い出せなかった。それはまた近い内に言うことにしよう。今日はブラックボア家の中でも一、二を争う魔剣の使い手がそばについているのだ。なにも心配はない。
「ん?」
歩き出したリンの頭になにかがぶつかった。足下を見るとコリコの白い花が八枚の花弁をきれいにつけたまま落ちていた。珍しい。コリコの花の散り方は花弁がひとつひとつほどけていくものだ。これほどきれいな状態の花ははじめて見る。
リンはなんとなくその白い花を拾い上げた。
なにかがぶつかる鈍い音がしてヨワはメニュー表を掲げる看板に目を向けた。憮然と立っていたユカシイが消えている。ようやく去ってくれたのかとあたりを見ていると、頭を押さえたリンが看板裏から出てきた。鈍い音はリンが看板に頭をぶつけたものだったのだと察してヨワは笑みを湛えた。




