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スサビは家風にならって騎士になるべきか進路を悩んでいるが、魔剣の扱いはシジマも認める素質がある。学生だろうとそこらの小悪党よりずっと強い。達観した性格ゆえか度胸も据わっていて、実は騎士として有望株だ。そんな息子に自分の任務を押しつけたシジマの人を見る目とスサビの実力は認めるが、リンは呆れてため息をついた。
「リンが先輩の護衛に復帰すればそんな心配もなくなるわよ?」
そのため息を耳敏く聞き拾ったユカシイがにんまりと笑った。
「一度降りた任務だぞ。そんな簡単に復帰できるか」
「あら。ヨワ先輩とリンをくっつけたい王様と大臣は万々歳じゃないかしら」
リンは再び黙り込むしかなかった。満面の笑みで待ってましたと言わんばかりに両手を広げて復帰を歓迎するスオウ王とススドイ大臣の姿が目に浮かんだ。
「そもそもさ、どうしてリン兄はヨワさんの護衛をやめようって思ったの。もちろん最初は乗り気じゃなかったのも、その先の結婚とか世継ぎを成すことに抵抗があることもわかるよ。でもさ、けっこうよかったじゃん。リン兄とヨワさん」
ユカシイが身を大きく乗り出してきた。その目には興味と、言うまで逃がさない意思がありありと映っていた。見ればスサビも同じ顔をしている。
リンは西区フラーメン大学の鉱物学研究室で交わしたヨワとの会話を思い返した。「諦めなきゃ生きていけない」と言った彼女の顔をはっきりと覚えている。リンは泣かせてしまったかと焦った。そして次の瞬間には自分に失望した。
「父さんが俺とヨワは同じ傷を抱えてるって言ったんだ。だからヨワの相手に俺を選んだって。痛みをわかり合えるはずだって。でも俺は、ヨワの言葉になにも言えなかった。なんて返したらいいのか、わからなかった」




