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なにか落ち着かないものを感じてヨワから視線を外したリンを、ぐるりと目を剥いたユカシイがにらみつけてきた。
「先輩、最後までスカートにしようか迷ってたわ。タイツ前提でもこんなことははじめてよ。この心境の変化はなんなのかしら」
「あのもじゃ男が好きなんじゃないの」
ヨワのことを話しているはずなのにユカシイとスサビからの圧がリンに降り注いできた。ユカシイとスサビは初対面のはずだがリンの預かり知らぬところで意気が通じ合ったようだ。
リンはなにも言えなかった。ヨワの心変わりは確かに感じていた。コリコの幹の中で彼女と会って以来少しずつ前向きになっているようだった。それは喜ばしいことだ。理由がはっきりしていればの話だが。もしもスサビの言う通り好きな人ができたことがヨワの心を変えたのならリンは正直おもしろくない。だがユカシイから聞くヨワの様子ではそれが答えに思える。
日の光の下でユンデとともに白い花びらを浴びるヨワは笑っていた。
「じれったいわね」
リンはユカシイに腕を引っ張られ看板の裏側にしゃがみ込んだ。
「はっきりしてください。騎士の任務を抜け出してまで先輩のデートを見にきてどういうつもりなのか」
騎士の装備を身につけたままのリンを目で示してユカシイは言った。
「もうめんどくさいから父さんと護衛替えてもらえばいいのに」
「そうか、今日は父さんが……って、父さんどこだ?」
ヨワを見ていたが父シジマは周辺にいなかった。あの巨躯を見落とすはずがない。するとスサビが自分を指さした。
「出店で珍しい花を見つけたから、毎年コリコ祭りに寂しい思いをさせてる母さんにあげるんだって言って、僕に護衛任せて家帰った」
「万年新婚夫婦め」




