137
「おおっと。すまんなあ。つづけて。ほら『俺がヨワの』ん?」
「なんでもない! おかわり!」
ススタケの意地悪な声を掻き消してリンは走り出してしまった。ヨワは思わず恨みがましい視線を確信犯に送った。今のはどう見てもリンに席を外させるためにわざとやったことだ。そしてリンに聞かせたくない話といえばバナードの件だろう。
ヨワはススタケにうながされて輪から少し外れた壁際に移動した。
「で。さっきのバナードってやつの話だが、詳しく聞かせてくれないか」
港町で見かけたバナードの姿、その隣にいたもうひとりの人物、物影での会話。ヨワは見聞きした覚えている限りの情報をススタケに伝えた。バナードだけでなく、庭番のことを外で話す存在がもうひとりいたことを知りススタケは再び顔を強張らせた。
それを見てヨワは改めて確信する。バナードは庭番の仲間ではない。にも関わらず彼は封印の扉で守られ、ひと握りの人間しか知るはずのない秘密を知っている。
「裏切り者がいるのか」
仲間の輪を一瞥してススタケはつぶやいた。今考えられる中でそれが最も可能性が高い。おそらくバナードとともにいた人物が庭番の誰かなのだろう。
「ヨワはそいつを見たんだよな」
「うん。黒髪だった。肌は白」
「黒髪。まさかシオサイか」
ススタケは声だけを潜めて視線は盃やヨワに向き自然体だった。ヨワはそれほど装うことに自信がない。ススタケの大きな体に隠れるようにしてなるべく下を向いていた。
「違うと思う。その人はもっと身長が低くて、バナードさんと同じ六十代に見えた。声も少しかすれていたし。あと〈ナチュラル〉だと思うの。バナードさんは『コリコの樹のために』って言ってた。彼は〈ナチュラル〉だからきっといっしょにいた人も同じ仲間なんじゃないかな」




