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そう言ってみんなを歓迎会にうながしたススタケにヨワは驚いた。ススタケはまだバナードのことを話していない。どういうつもりだろうと彼を見つめていると、ススタケは意味深な視線をヨワに向けた。その真剣な眼差しからバナードの件を忘れているわけではないと知る。それなら彼に任せよう。そう決めたヨワの元にシオサイが盃を運んできた。ほんのり密色を帯びた酒はなみなみと注がれていた。
「これハチミツ酒ですね。おいしい」
「ユカシイ、ほどほどにしておいたほうがいいんじゃない?」
盃を傾けてユカシイはふふっと笑った。
「先輩の前でそんな機会なかったから知りませんよね。あたしお酒強いですよ。両親ゆずりなんで。先輩こそ気をつけてくださいねえ」
いつの間にか酒に弱いことを見抜かれていたヨワは苦笑った顔を盃に落とした。半分も減っていないところを見れば誰だって勘づくか。水のように酒をあおるズブロクやススタケの舌が不思議でならない。
ヨワは左隣のリンを見た。静かに盃を口に運ぶ仕草が様になっている。ゆっくりと味わってから嚥下しているところを見るとリンも酒は飲める質らしい。ふとリンの舌が唇についたハチミツ酒を舐める瞬間を見てしまい、ヨワは一気に酒が回ったかのように全身が熱くなった。
「ヨワ、顔隠してないんだな」
リンの声は酒のせいかひどくおだやかに聞こえた。それとももうヨワが酔っているのか。
「そっちのほうがいいよ」
火が灯った耳をヨワはフードで隠した。だが盃を持った右側はそうはいかない。にんまり笑みを湛えたユカシイの顔が映った。
「か、勝手に見ないで!」
ヨワは両隣にいる友人ふたりに向けて言い放った。
「そうそ。先輩の御尊顔を拝むのは高いんだから」




