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ふたをして心の奥底にしまい込んだ箱に入れた最後の残骸を手に取る。それは最も嫌悪するべきものであり、希望でもあった。
眼下に外階段を見つけた。コリコの太い幹をぐるりと迂回して作られたそれは城から伸びて別の場所に繋がっているようだった。ヨワはなにも考えず魔法でバルコニーから外階段に下りた。そこからは城下町がよく見えた。手っ取り早く城から出られる。
「ヨワ?」
声がした。だから振り返った。外階段に立つリンがいた。この先は騎士の詰め所か。なんてどうでもいいことを考えた。気がする。ヨワは階段から身を乗り出して手すりを蹴って宙に飛び出した。リンの騒がしい声に引き止められた。
うるさいよ。もうほっといて。
城下町にそっと降り立ったヨワを通行人が見ていた。城を振り返ることなくうつむいて歩き出す。このまま南門からとにかく早く街を出て、そのあとは海岸に行こうと思った。海に沿ってとにかく歩いていくのだ。そうしていつか動けなくなってなにもわからなくなる。ヨワがどこにいていつ死んだのかもわからなければ、ロハ先生やユカシイが悲しむことはない。死体を煩わせることもない。
いつかの夜に立てた計画通り。死を思うと不思議と心おだやかになれた。そんな自分が壊れていることなんてとっくに気がついていた。ちゃんと生きようと思ってもできない。出来損ないの見た目通りの変人。それが私。
ルルさえ生きていれば王が注目することなんてなかった。リンやシジマ一家と出会うこともなかった。それらの出会いはすべて間違いだ。正しくはヨワが殺されてそこからの筋書きはきっと全部ルルのために用意されたものだった。だからうまくいかない。ヨワじゃうまくいきっこない。
「ちょっと待ってくれお嬢さん」




