表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮遊の魔法使いヨワ  作者: 紺野真夜中
第4章 告白と王子
113/323

112

 とりあえず大きな机に石の標本を置いてみたが、六つまでが限界だった。室内をぐるりと見回してみるが他に暇をしている台はない。ヨワは観葉植物をどかして空いた台を大きな机の周りに並べた。やけに脚が細くて上下の先端が蔓のようにしゅるしゅると巻いた華奢な台だったが、なんとか三つの石を支えることができた。

 残るひとつは、小さな机はきっと王子の席だとわかったが行き場もないのでそこに置かせてもらった。窮屈だがノートを広げられなくもない。

 ヨワはひと仕事終え、扉を振り返った。ロハ先生が来る気配はまだない。

 ロハ先生が立つだろう大きな机の斜め後ろに、外の光がもれ出る扉があることにはすぐ気づいた。王子の部屋はバルコニーがついているとクチバから聞いている。ヨワは陽だまりに誘われるように金色のまるい取っ手を回した。

 そこは鳥たちと同じ目線の世界だった。

 手を伸ばせば届きそうなところに巨樹の枝がある。見渡す限り一面を囲まれている。ヨワは上を見て感嘆の声を上げた。きらめく太陽の光をやわらげる緑のカーテンは風に揺らめいて、少しもその表情を留めない。枝は黒い影となって思うままに走り、陽光とのコントラストがいっそうその存在感を引き立てていた。

「鳥の声が近い」

 姿は見えずとも春を喜ぶ鳥のさえずりがあちこちから降り注いでいた。

「ねえきみ」

 男性の声に突然話しかけられヨワの肩が跳ね上がった。

「ちょうどよかった。なにか飲み物を持ってきてくれない? アップルティーかマスカットティーがいいかな」

 慌てて振り返るとバルコニーには先客がいた。真っ白なイスに足を組んで腰かけ、小さな本に視線を落とす少年だった。ヨワはぎくりと息を呑んだ。ゆるくウェーブのかかった密色の髪がスオウ王ととてもよく似ている。なかなか返事をしないヨワに焦れて持ち上がった目は緑色だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ