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「場が乱れましたが本題に戻りましょう」
額にかかるひと房の前髪さえ揺らさぬ静かな声だった。けして大きくも鋭くもないのにピンとまっすぐに張りつめた大臣の声は心に刺さった。
「ヨワさん。魔法とは勉学のように誰でも教われば身につくものではなく、血によってのみ継承されることはあなたも重々承知ですね。そしてホワイトピジョン家は代々浮遊の魔法を継承する我が国唯一の家系。その正統なる跡取りにして最後の次世代への担い手があなたの妹さんでした。いくら家を離れていても、それくらいの事情は察せますね?」
ヨワの母シトネは、義妹のルルを身ごもった時すでに四十二歳という高齢で出産は厳しい状況だった。今年で六十一歳になる女性に世継ぎを生むことはとうてい望めない。母方の叔母、父方の叔父、それぞれの夫婦の間にも子どもができた話は聞かなかった。あとは祖母がふたりいるのみ。ホワイトピジョン家には若い夫婦がひと組もいなかった。義妹のルルが最後の望みだったことをヨワもよく知っていた。
「しかし名家の務めなど聞いたことがありません。魔法は必ずしも受け継がれるものではないのでしょう。弱まったり、まったく発現しなかったりして失われた魔法はいくつもあると聞きます。どうして私があの家を継がなければならないのですか」
ヨワがそう訴えるとスオウ王とススドイ大臣は驚いた顔をした。どうしてそんな顔をするのかヨワにはまったくわからない。
「そうか。あなたはホワイトピジョンの務めさえ教えてもらえなかったんですね」
「えっ」
大臣の言葉に悲しみと寂しさが湧き起こった。そしてすぐにそんな感情を抱いた自分に失望した。中学校を十八歳で卒業し成人の仲間入りをするとともに、ヨワは家名を失った。




