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「それだ! お前が消極的だからリンを拒んだんだろ。それであいつは自信をなくしてふてくされた」
ロハ先生の個室の前で足を止めたヨワはクチバを振り返った。根底の事情やリンの気持ちはともかく大雑把な説明としては当たっている気がして、なかなかトリ頭の彼も侮れない。
リンはここまで来ると最初からなにも言わずに扉を開けてくれたものだが、クチバは気づく素振りもなかった。両手がふさがっていても扉を開けられる便利な魔法が使えてよかったと思いながら、ヨワはロハ先生の個室に踏み入った。
「そりゃあいつ童貞だし女とつき合ったことあんのかも怪しいからよ。がっついてるところあるかもしんねえけど、男ってだいたいあん時は獣だし。夢みたいな幻想はいったん置いて、あいつのこと受け入れてやってくれよ」
ヨワは魔法でぴしゃりと扉を閉めた。
「ここは学び舎ですよ」
衝撃は部屋全体を揺るがし、棚の上に置いてあった紙束が崩落した。机にかじりついて眠っていたロハ先生は文字通り紙束に叩き起こされ、危うく不本意な二度寝をするところだった。
「ロハ先生おはようございます。たまには片づけをしないといつか怪我しますよ」
「本当にそうだね。気をつけるよ。あ、朝食ありがとう」
「この女コワイ」
朝食は連絡事項や予定を確認する時間でもあった。ヨワは机の対面にあるイスに腰かけ、クチバは積み重なった本に構うことなく尻を乗せた。行儀の悪さを指摘するヨワにきょとんとした目を返すクチバは、頬いっぱいにカレーパンにかじりついた。そのまま二口、三口であっという間に平らげてしまう。徹夜で護衛をしていたのかと思うとヨワは強く言えなかった。
クチバを微笑みで許したロハ先生はヨワに一枚の紙を差し出した。コリコ祭りに向けて大学でおこなわれる準備についてのお知らせだった。




