表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮遊の魔法使いヨワ  作者: 紺野真夜中
第4章 告白と王子
105/323

104


 どんなに最悪な気分でも月曜日はやってくる。なんにもやる気が起きずぼんやりと本を眺めては居眠りをくり返していた廃人も、社会の一員に戻らなくてはならない日だ。ヨワは整容もそこそこにブルドッグみたいな顔をローブのフードと口布で隠した。土曜の夕方から一度も手をつけなかった扉前の標本に向けて浮遊の魔法をかけた。黒い光沢を放つオスミウムの結晶は音もなく道をあけた。

 大学教授助手の仕事内容は師事する相手によって様々だった。使用人と勘違いしてこき使う教授もいる中、ロハ先生はよくも悪くも放任主義だ。そもそもベンガラとハジキから頼まれなければ助手を取る予定もなかっただろう。加えてうなずきはしたもののヨワがあまり鉱物学に興味を持っていないことをロハ先生ははじめから見抜いていた。助手として最低限の線である講義の出席だけを守らせて、他はなにも指示しなかった。五年が経過した今でもだ。

 ロハ先生はヨワから尋ねなければ資料集めも配布物の制作も取材先への連絡もすべて自分でやってしまう。これにはヨワも戸惑い苦労させられた。ロハ先生は居場所を作ってくれただけでなく仕事も与えてくれて、ヨワの生活に安定をもたらしたのだ。その恩人になにも返さないというのは心が許さなかった。ヨワの口癖は「なにか手伝えることはありませんか」となり、ロハ先生につきまとって注意深く観察した。そうして先生の一日の動きを知り、一年の行事を頭に入れて、口癖を出さなくとも前もって行動できるようになるまで三年もかかった。

 変則的なことはいつだって起こるが、培ったものは情報だけではない。互いに芽生えた信頼で補えないものはない。時に寄りかかり寄りかかられるロハ先生の隣は心地いい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ