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国籍も年齢も関係なく一日中騒いでコリコの花を愛でる。その行事が来週の日曜に迫っていた。出店や催し物を企画している商人や農家はもうずっと前から準備をはじめていただろうし、家庭では飾りつけやごちそうの計画が立てられていることだろう。ヨワの元には月曜にでも祭り前日の大学の飾りつけ分担表が届くはずだ。
そうか。もうそんな時期なのか。ヨワの胸にふと懐かしさがよみがえった。
学生だった頃、同級生たちがなんとなくそわそわしはじめるのもちょうどコリコ祭りの一週間前くらいだった。昼休みや放課後になるといつもならすぐに教室から散っていくものなのに、多くの生徒が居残っていた。かと思えば男女がくっついて廊下に出ていく。またある時は別々に出ていったはずの男女が腕を組んで戻ってきた。
コリコ祭りはひとりかユカシイと過ごすと決まっていたヨワさえもふわふわさせる特有の空気。それがユンデから漂っていた。
「ねえヨワ、僕といっしょにコリコ祭りに行こうよ」
「えっと、それはみんなで行こうってこと?」
「違うよ。僕とふたりでデートしてくださいってことだよ」
鈍いんだから、と笑うユンデがなにを考えているのか理解できなかった。突然やって来て初対面の異性にデートを申し込むなどヨワには考えもつかない。たとえユンデと学生時代から友人だったとしても、わざわざ自分に声をかける利点などない。顔を半分も隠した女と歩いたところで後ろ指をさされるだけだ。
「どういうことなの。からかっているの?」
リンに剣を向けられても怯まなかったユンデが顔を強張らせた。
「そんなつもりじゃないよ。だって僕は、僕は……」
ベストの裾を握り込みユンデはうつむいた。
「ヨワのことが好きなんだ」




