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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:序章【運命的な出会い】
5/48

昨夜の真実と、その正体

 次の日。

 俺は迅凱仙へと向かっていた。

 昨日はあのあと、ハスキー先輩たちを手伝って片付けをして、麓まで送ってもらったのだ。

 昨日、あんなことがあったことにも関わらず、俺は平然とレストランへと向かっている。

 いやまあ、確かに襲われて命の危険も感じたと言えば感じたが、それは仕方がないことなのではないだろうかと思うのだ。

 俺たち人間がこれまで別の生物にしてきたことを考えると、当然の報いであると言わざる終えない。

 人間のかってな思い込みや思想、それらが他の生物を苦しめ、時には滅ぼしている。

 そんなものたちの一部である以上、別の生物にいつ如何なる場合でも殺されてしまうのは当然だろう。

 言うならば、自室に侵入してきたハエや蚊をなんの躊躇もなく殺してしまうことと変わりないのだ。

 さて、そんな無駄話を考えているとあっという間に迅凱仙に辿り着いたぞ。

 

 「あ、迅雷~おはよ~」

 

 昨日、暴走した客に殴られ気絶していた狐シェフ彼岸が店前でちょうど掃除をしていた。

 彼のほほには絆創膏が貼られ、少し腫れていた。

 

 「彼岸くん。 昨日は大丈夫だった?」

 「う、うん……まだちょっと痛むけど……まあなんとか大丈夫」

 「そうか……ごめんね……俺のせいで」

 「いやいや。 まあ、仕方がないことだったんだよ。 でもそのお陰で、紅葉が看病してくれたから……」

 

 と、彼岸は少し頬を赤めテレた。

 看病してくれた……だけだよな?

 その反応は、なんか初夜……いや、なんでもない。

 

 「あ、そうそう。 昨日後片付け手伝ってくれたんでしょ? ありがとうね」

 「いや。 あれくらいなら別に構わないさ」

 「それでね、オーナーが迅雷に話があるって言ってたな……」

 「オーナーって……雷オーナーが?」

 

 とそんな話をしていると、店から噂をしていた虎獣人にしてこの迅凱仙のオーナーである雷オーナーが出てきたのだ。

 

 「おや、迅雷殿ではありませんか」

 「これはこれは、オーナーさん」

 「昨日はありがとうございました。 あと、申し訳ございませんでした。 あのようなゴタゴタになってしまったことを」

 「いや、仕方がないことでしたよ。 獣人は人間が嫌い、ってことを知りながらも図々しくお店の方に上がらせてもらっていた俺の方こそ申し訳ないですよ」

 「そう言っていただけるのは恐縮のあまりです……」

 

 雷オーナーはそう言い優しく微笑んだ。

 なんというか流石は店の管理をしている者だと言うほどに、すごく落ち着いた雰囲気で思わずこちらも笑顔になってしまうほどだ。

 

 「さてと……迅雷殿。本日は少しお願いがあってね」

 「え?なんでしょうか? 」

 「折り入って相談なんだが……君、うちで働いてくれないかな?」

 「え?」

 

 突然のことで思わず驚いてしまった。

 そして、雷オーナーの言葉を聞いていた彼岸も驚いていた。

 

 「どうかね?」

 「い、いや……なんでそうなったんですか?」

 「ふむ……いやまあ、働くというより……ここに匿ってあげるというべきなのかな」

 「匿う???」

 「実はね、昨日あのあと……」

 

 と、雷オーナーは昨日の俺が帰った後の話をし始めるのだった。

 

 【~回想~】

 

 昨日、迅雷殿が店の片付けを終え、帰宅した頃……昨日の団体のお客様である傭兵部隊【イフリート】の全員の酔いが覚めました。

 全員最初は自分達に何があったのかは覚えておりませんでしたが、迅雷殿が居たことは覚えておいででした。

 再び店内を探ろうとしましたが、1人酷く怯えた獣人殿がおりまして……。

 彼が皆を説得したお陰で、見事見事に文字通り彼らは尻尾を巻いて急ぎ森を後にしました。

 その直後でした……。

 1台のヘリコプターがこの広場に着陸致しまして、中から武装した兵士と眼帯をした白い猫が降りてきたのでございます。

 仕方がなく私が1人で対応いたしました。

 

 「よう……」

 「ようこそ、迅凱仙へ……と言いたいところですが、お客様方。 この広場は駐車禁止ですし、ヘリコプターでの立ち入りは禁止……」

 

 と言いかけたところで、私の首もとにはナイフが突きつけられていたんだ。

 

 「黙れ……」

 「おや……お客様。 手癖が悪いようで……そんな物騒なものはこの場に必要ありません」

 「!!」

 

 私は突きつけられていたナイフを奪い取ってへし折りました。

 それを見て白い猫以外は非常に驚いておりましたね。

 

 「流石だな……」

 「いえいえ。 現役を退いている身であるので、全盛期には遠く及びませんよ」

 「謙遜するな。 かつて、伝説とまで言われた最強最悪の殺し屋【冷血の狩狗(ザ・ナイトメア)】の師匠なのだからな……」

 

 冷血の狩狗(ザ・ナイトメア)の名を聞いて、流石の兵士たちも同様を隠せませんでした。

 あー、迅雷殿は冷血の狩狗についてはなにも知りませんよね。

 冷血の狩狗と言うのは、獣人たちや人間たちの裏社会において、その昔存在したと言われている伝説の殺し屋です。

 裏社会でこの名を知らない者は居ないとされておりますが、ある日を境にこの業界から姿を消します。

 とはいっても死んだわけではありません。

 彼はとある人物を守るために裏社会から姿を消したのです。

 まあそれはまた別の話なのですがね。

 

 「それで……なんのご用でしょうか?ファング殿」

 

 私はあの白い猫の事は知っておりました。

 なにせ彼は冷血の狩狗の同僚であった者ですからね。

 

 「単刀直入に言う……冷血の狩狗を我々に差し出しなさい」

 「嫌ですね……彼は彼が選んだ人生があるのですから……また闇へと引き戻させるわけにはいきません」

 「ほう……断ると言うのか。 我々に逆らうとどうなるか……」

 「どうなりますか?」

 「死、あるのみだ……と言いたいところだが、なにせ相手が悪い。 ここは穏便に済ませるために……」

 「なーにが穏便に済ませるためにだよ、ファング……」

 

 そう言って暗がりの森から複数人を引きずり現れた人物がおりました。

 引きずられている方々はなにやら迷彩柄を着ているようで、どうやら陽動作戦をしていたようでした。

 

 「お前、うちの従業員を人質に取って俺を連れ戻そうとしたみたいだな……相変わらず手口が変わってないな……ファング」

 「よお、久しぶりだな……冷血の狩狗 」

 

 ポイッと冷血の狩狗はファング殿の前に引きずっていたものたちを放り投げました。

 安心してください。

 殺してはいません。

 気を失っているだけです。 

 

 「おやおや、乱暴ですよ……」

 「仕方ねーじゃねーかよ、オーナー。 こいつら、紅葉たちを拐おうとしやがったんだからよ……」

 「それはそれは……私の部下に手を出そうとしたと言うことですか……ねぇ、ファング殿……」

 

 私はファング殿に向かって笑顔を致しました。

 しかし、直後兵士たちが泡を吹いてバタバタと倒れていきました。

 何故でしょうかね。

 

 「オーナー。 殺気出てるよ」

 「おっといけませんねぇ……ついつい、いらっとしてしまった……私としたことが面目ない」

 

 そう私と冷血の狩狗は笑っておりましたが、ファング殿は手の震えや汗が止まらないご様子でした。

 まるで化け物を見るみたいな顔で私の方を見ておりました。

 失礼な方ですよね。

 はははっ。


 さてさて、私の笑顔で倒れてしまった兵士たちはさておき、今にも逃げ出したさそうな白猫獣人のファング殿は、ここで私たちに取引を持ち出してきたのです。

 

 「まず先に……先程は悪かった。今後 貴様のところの従業員であれば、手は出さないと約束しよう。まあ、貴様と冷血の狩狗だけは別だがな。 そして、それを他の連中にも周知させようじゃないか」

 「おや、ではそれは命を懸けて誓うと言うことで宜しいのですかな?」

 「ああ……誓う。 もし破ったものがいれば、俺が責任をもってそいつを殺すことを約束しよう」

 「だそうですよオーナー。 どうします?」

 

 私は少し考えましたが、すぐに結論は出ました。

 私的には、ここで働く者たちの保証がされているのであれば……。

 

 「いいでしょう。 では約束しなさい。 今後、私と冷血の狩狗以外の従業員には一切の手をださないと……そして万が一破ったものがいたら、そいつを貴方の手で始末をつけると」

 「ああ、誓おう」

 「では次です。 貴方は、冷血の狩狗を寄越せと言いました。 それはなぜですか? 訳を説明していただきましょうか」

 「……」

 「どうしました? 答えなさい」

 「わかった。 答える。 答えるから……冷血の狩狗が理性を失わないように押さえつけてくれ。 理性が飛んでこちらを攻撃されるのは流石にごめんだからね」

 「いいでしょう。 じゃあ、こちらへ……」

 

 私は冷血の狩狗の手を軽く握った。

 これでよしっと。

 

 「これで良いですか?」

 「それで拘束しているのか?」

 「ご安心ください。 この状態からでも弟子を取り押さえること程度な容易ですので」

 「そ、そうか……じゃあ言うぞ」

 

 ゴクリ、とファング殿は生唾を飲み込み、再び口を開きました。

 

 「俺が冷血の狩狗を連れ出そうとした理由……それは、水無月(みなづき)が生きてることが分かったからだ」

 

 その瞬間、冷血の狩狗は目を真っ赤に充血させ暴れようとしました。

 しかし、彼は既に私の領域に入っており、更には身体の一部が触れている状態だったので、瞬時に三角絞めで地に拘束しました。

 

 「いけませんよ、バカ弟子。 いくら貴方の怨敵である水無月博士が生きていることを知ったくらいで動揺してはいけません」

 「ぁぁぁぁぁぁ!!みぃぃぃなぁぁぁづぅぅぅぅきぃぃぃぃ!!あいつは、確かに俺の手で殺したはずなのにぃぃぃぃなぜぇ生きてるぅぅぅ!!」

 

 冷血の狩狗はジタバタと暴れまわりますが、何てことはありません。

 私は既に彼を拘束していますので、彼は地面を抉るくらいの力しかありません。

 

 「そうだ。 確かにお前があの時……楓博士(かえではかせ)を死なせてしまった時に、確かに水無月も一緒に死んだ……はずだった」

 「か、かえでぇぇぇぇぇうぅぅぅぅぅ……うわぁぁぁぁぁ!!」

 「うるさい」

 

 ボカッと私は冷血の狩狗の頭を殴って彼を気絶させました。

 やれやれ、水無月博士の話が出れば怒り狂い、楓くんの話をすれば泣きわめくとは、まだまだ精神的に情緒不安定なバカ弟子でございました。

 

 「それで……水無月博士は、なぜ生きていたと?」

 「あの研究施設で楓博士が作っていた遺伝子技術を応用して死の間際に別の生命として生まれ変わっていたようなのです」

 「なるほど……楓くんが命を懸けて消し去ろうとした研究技術が外部に漏れてしまっていたのか」

 「はい。 なので、彼が今どんな姿をしているのかは正直なところまだ掴めてはいません……しかし、分かっていることは奴は必ず冷血の狩狗を求めることです。 自身の最高傑作として、気持ち悪いほどに執着していた冷血の狩狗をね……」

 「それで、冷血の狩狗を差し出せと言ったわけか……」

 「はい。 ここにいる兵士たちは、あの研究施設から逃げ出せた者たちです。 故に皆、水無月を憎んでおります。 あいつだけは、絶対に許せません」

 「ふむ……では、私も1枚噛ませてもらおうかな」

 

 私は胸ポケットから、注文を取る用にいつも入れている紙を取り出し、さらさらっと文字を書いた。

 そして、それをファング殿に渡したのだ。

 

 「な、なんですか?これは」

 「私が知っている情報屋たちの居場所と紹介状だよ。 その紙のメモを見せれば協力してくれるはずさ」

 「あ、ありがとう……ございます」

 「それと……申し訳ないがね、冷血の狩狗は君たちに連れていかれるわけにはいかない。 彼は大切な任務の途中なのだからね」

 「大切な任務?」

 「ああ……彼の亡き友に託された大切な任務さ……。 だからすまんね。 用があれば私が出向くので、気軽に声をかけてくれ」

 「え、あ……はい!!」

 

 こうして白猫獣人ファング殿は、仲間を引き連れて引き去っていったのだった。

 

 【~回想終了~】

 

 「迅雷くん。 先程名前を出した水無月というのはね、冷血の狩狗に取っては永遠に切り離せない闇なのだよ。 幼い彼を実験施設で人体実験を行った張本人……そして、彼の親友であった楓くんを殺した者でもある。 そんな奴等から君を守るためには、君にはここで暫く従業員として働いて貰う方が安全なのだよ」

 「ひとつ、いいですか?雷オーナー」

 

 と、俺は雷オーナーに問う。

 雷オーナーは、それに頷きこちらをじっと見ている。

 

 「水無月という人物や昨日あった出来事は把握しました……が、それと俺が匿われる理由が繋がらないのですが……」

 「あぁ、そうか。 そうだった。 まだ説明に足りない箇所があった」

 

 雷オーナーはポンっと、手を叩いた。

 なんだか、仕草がかわいいな。

 

 「先程説明した水無月……恐らく、数日のうちに君を拉致しに来るはずだ」

 「え?なんで?」

 「水無月は、冷血の狩狗を狂ったように愛している……だが、逆にそれは他の者への嫉妬心を増長させてしまう傾向があってな。 かつて冷血の狩狗に関わった人間は皆、水無月によって拉致されている。 恐らく、水無月にとっては冷血の狩狗を汚されたと思ったんだろうね」

 「……というか、そもそも冷血の狩狗って誰なんですか? 俺、そんな人に会ったことあるのかな……」

 「いやいや。 君は彼に会ったことあるよ。 話によると、ブラッシングや二日酔いの時の介抱もしてくれたと聞いているよ」

 「二日酔い……って、それじゃあまさか……」

 「そうだね。君たちがハスキー先輩と呼んでいる人物……彼こそが冷血の狩狗なのだよ」

 

 そう雷オーナーが言うと、森に強風が吹き荒れた。

 不気味なまでに木々たちはざわめいており、葉の擦れる雑音が広場にこだましていたのだった。

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