時空魔王の復活
雷オーナー。
ショタケモが好きな虎の獣人。
レストラン迅凱仙のオーナー。
世界的な富裕層。
己の時間の概念を破壊し、肉体の年齢を止めている。
超人的な力を持つチート。
天野教授が苦手。
かつて獣人陰陽師だった経験あり。
かつて諜報員だった経験あり。
かつて魔法使いだった経験あり。
そして……かつて、魔王だった者。
―――――
「グァァァァァァァァァァァァァ」
そう叫ぶ雷オーナーは宙に浮かび上がっている。
その周りは、まるで空間が捻れ異空間でも出現させるようなまでに光も影も何もかもが歪んでしまっている。
「これは一体……」
「やれやれ……」
と、石化していたお父さんはそれを解除して悠然と立っていた。
「油断したとはいえ……やれやれ、私の力まで少し奪っていくとは……」
「お父さん……あれは一体……」
「ふむ、説明してやりたいが……事態は急ぐ……皆の者、時間を止められたくなければ私の周りに集まれ」
そう言うお父さんの元に、この場にいた全員が付き従う。
そして、お父さんは白衣から試験管を取り出し、液体を俺たちの周りにこぼし円形を組む。
「絶対神域」
すると、液体は輝きを増し、巨大な結界を形成した。
「さあみんな出てくるよ……奴が……」
「奴?」
雷オーナーの服はみるみると黒く染められ、そして見開いた目は真っ赤に染まってしまっていた。
「汝……我を封じたもの……」
「久しいね、魔王インフィニティ……まさか、封じきれてなかったものが断片として残っているだなんて」
「我は不滅なり……我は……」
「雷オーナー!! どうしたの? しっかりしてください!!」
紅葉がそう叫ぶと、ギロリと雷オーナーは紅葉を睨む。
そして、次の瞬間こちらに衝撃波が飛んできたのだ。
しかし、お父さんが事前に貼っていてくれた結界のお陰でダメージはない。
「我の真名を気安く呼ぶな……狼風情が……」
「雷……オーナー……?」
「みんな、結界から絶対に出るなよ」
そう言ってお父さんは平然と結界から出た。
「出たな……人間」
「やれやれ、天野翔琉だっての……というか、初めて出会ったときもそう言ったよね、雷くん」
「だから……気安く呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
衝撃波が雷オーナーから放たれるが、お父さんは微塵も気にせず手であしらっている。
「やれやれ、仕置きが足りなかったようで……これはこれは、躾の必要があるようだね……」
「魔王たる、我に躾だと……笑わせるな人間」
「さてと……ご託はいいや……始める?」
「よかろう……天野翔琉よ」
そう言って二人の姿は消えていった。
あとに残されたのは俺たちと、結界だけだった。
「む?お、終わったのか?」
「ふむ、では……」
と、分家の爺さんたちが結界から出た瞬間、彼らはピタリと止まった。
まるで時間が止められたかのように。
「きゃぁぁぁぁ!!お爺様!!」
銀杏もついつい驚いて出てしまい、その身は止まってしまう。
一体どうなっているんだ?
「時空魔王インフィニティ……それが、雷オーナーの正体さ」
そう言って立ち上がるのは、白猫ザクロだった。
「ふぅ……やれやれ、シロンたち少しは手加減してくれよな」
「ザクロぉぉぉぉぉぉ!!」
と、シロンさんは殴りかかろうとしたが、ハスキー先輩と彼岸がそれを止める。
「あの……ザクロさん……でしたよね?」
と、紅葉はザクロに問う。
「雷オーナー……いいえ、時空魔王インフィニティとは?」
「ああ……時空魔王インフィニティ……その名の通り、時間と空間を支配する魔の王の事さ。 無限の力を持っているからインフィニティ……そう呼ばれていたらしい……」
「無限の力……」
「そう、その力は概念さえも破壊することが出来るほどの力だったと言うよ」
雷オーナーは自らの肉体の時間に関する概念を破壊して時間を止めている。
それに、雷オーナーは明鏡止水という時間に関する技を使える。
次々と時空に関する要素が紐付いてくる。
「ザクロ、てめぇを倒したときに出た黒い塊……あれは」
「あれは、魔王の封じられし魂の一つ。 時空魔王インフィニティは危険な存在……ある日僕はそんな魔王の魂を発見してね。 自らの肉体に封じ込めておいたのさ。 元の主の元に帰らないように……ってね」
ザクロはちらちらとシロンの方を見ている。
次の瞬間シロンに抱きついた。
「いやぁぁぁ、流石僕の弟♪ 僕を打ち倒せるだなんて、もう大好き♪ シロン♪ シロン♪」
ゴツン、と頭にたんこぶが出来るほどにシロンさんに殴られたザクロはゴホン、と軽く咳払いをして再び会話を続ける。
「その魔王インフィニティなんだけどね……まさか、雷さんだったとは……驚いた」
「ハスキー先輩は知ってた?」
「いや……今思えば俺も師匠の事についてあまり知らなかった……というか、その過去なんてのは師匠は話してくれなかったしな」
そうだ、俺たちは知らなかったのだ。
雷オーナーの過去についてなんて……。
なにがあったのか、どんなことをしてきたのか……。
身近にこんなに居たのに……なにも知らなかったんだ。
――――
雷オーナーとお父さん……天野翔琉は古くからの知り合いだという。
お父さんもお父さんで謎が多いから、一概に俺もすべて知っているわけではない。
が、今はそれより……。
「なあ、なんでこの人たちは結界から出たら時間が止まったように固まったんだ?」
「うむ……それは簡単。 本当に時間が止められているんだよ」
と、ザクロは語る。
「時空魔王インフィニティが恐れられたのは、奴が放つ特殊な空間にも由来してね……全ての時間を永久に止めてしまう……その証拠に……」
と、ザクロは自身の持っていた鏡を結界の外に投げる。
結界から出た瞬間、鏡は宙に固まってしまう。
それは重力のあるこの星では考えられない現象だった。
「これと同じことが、恐らく世界中で起こっている。 それこそ、時空魔王インフィニティが恐れられた理由の一つ……永久停止時間だ」
「じゃあ、吹雪さんやユリウスさんたちも……」
「停止してるね……今動けるのは、この特殊な結界内にいる僕たちだけだろうね」
と、ザクロは言う。
ガクッと思わずシロンや彼岸は肩を落としてしまう。
「そんな……そんな……」
「次元が違いすぎる……」
だけど、俺は諦めない。
こんな時でも……絶対に。
「ザクロさん……魔王の魂を再封印出来れば、俺たちの雷オーナーは戻ってこれますか?」
「……可能だと思うよ」
「「!!」」
そのザクロの一言に、落ちかけていた士気は蘇った。
絶望だけじゃない……希望が必ずある。
そう願うしかないのだ。
ゼロじゃない。
少しでも可能性があるなら、俺たちは……動くしかないのだ。
こんなところでじっともしていられないだろうしね。
「しかし、再封印となると……ここにいる僕とシロン、それから狐陰陽師くんと、獅子の魔導師……あと一人、強力な術者がいないと……」
「くっ……外にいる吹雪さんは停止しているし……どうすれば……」
と、俺たちは悩んでいた。
すると、足音が聞こえた。
コツコツコツ……それは、確かに足音だった。
「ば、ばかな……この停止空間内を動けるだなんて……何者!?」
と、ザクロが見た先には中学生位のスラッとした姿の女の子が立っていた。
見ると、白っぽいワンピースにリボンを付けた見るも可愛らしい女の子。
「あら、呼ばれたと思って来ましたのに……」
「ディル先生?」
と、シロンはその人物に言う。
そして俺はその人物をこう呼んだ。
「お母さん……?」
「あら、迅雷ちゃん……久しぶりぃ~♪」
そう言って結界内に入ってくるなり、俺にキスをしてくるのだった。
「初めまして、ディル=トキヨミと申します。 天野翔琉の妻にして、天野迅雷の母親……そしてそして、シロン学長の魔法学校で教師をしております♪」
場の雰囲気に似合わないようなふんわりとした挨拶だった。
というか、本当に……。
「ディルの姉貴!! 久しぶり」
「あら、レオ。 久しぶり♪ 相変わらず昔差し上げた魔銃レグルスを大事に使っていてくれて嬉しいわ♪」
「ディル先生、なぜここに?」
「シロン学長が、業務投げ出して出掛けたもんだから、じゃんけ……職員会議で私が迎えにいくことになったんですよ」
えっえっえっ??
なにこれ、みんな知り合いなの?
「あら、どうしたの? 迅雷ちゃん。 口がぽっかりと開いちゃって……餌を欲しがってる鯉みたいな格好して」
「もっといい例えはなかったの!!」
相変わらず変な例えをする母親だよ。
まったく……。
「それで、お義母様……どのようにしてここに……」
「さりげなく紅葉もお義母様って呼ぶな!!」
「あら、あなたが翔琉から聞いてた迅雷と付き合ってる紅葉くんね。 いいもふもふ加減で素晴らしいわね♪」
「ちょっ……お義母様そこは……ひゃん!!」
「何しとるんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
母親はマイペースである。
故にこんな危機的状況でもこんな感じになってしまうのだった。
「楓くん、久しぶりね」
「お久しぶりですディルさん」
「えっ?楓博士とも知り合いなの?」
「そうよ。 翔琉と私と楓くんで良く議論したものよ……宇宙の再形成に必要な運動エネルギーを会得する法則を定義とした……」
「あー、それ以上は言わなくていいよ」
誰もわからないやつだろ、それ。
マイペース過ぎるって。
「さてと……どうやら、蘇っちゃった訳ね……魔王インフィニティ……いいえ、雷くん」
「はい……いえ、それよりディル先生は、なぜこの状況下でも動けるのですか?」
「おや、シロン学長……忘れた? 私の得意魔法」
「あっ……そうだった」
シロンはポンッと手を叩いてなるほど、という表情をした。
「私は時空間魔法の使い手……時が止まろうが空間が凍結させられようが、私の前では無効化されるわ」
「そうだったそうだった……」
「んで、翔琉と雷くんは?」
と、ディルはキョロキョロと周りを見回し、先程まで雷オーナーが浮いていた辺りの空間をじっと見つめる。
そして、そこを手早く掴みビリっと空間を剥がすのだった。
「なるほど……ここね……」
「ディル先生……その先には何が……」
「魔王城……とでも言う場所よ。 時空魔王のかつての居城……恐らく雷くんは無意識にそこに向かう扉を開いて、翔琉はそれを追いながらバトルし続けてるって感じかしらね」
と言い、じーっと空間内を覗いている。
が、直ぐ様くるっと振り向くと再び結界内に入ってくる。
「ふむ、この先は私じゃ進むには無理みたい……時空間の他に色々あって進めないわ」
「そ、そうですか……」
「そうね……迅雷ちゃん。 いってらっしゃい」
「えっ?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」




