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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:秋月一族編
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めでたしでは終わらない

「痛てて……あれ、ここは?」

 

 そう言ってひょっこりと紅葉は目を覚ました。

 そして、俺を見るなり飛び付いてきたのだ。

 

 「わーい、迅雷♪」

 「紅葉……良かった無事で」

 「迅雷、もしかして僕を追いかけて来てくれたの? えへへ、嬉しい……」

 「いや、俺だけじゃここまでこれなかったよ……みんなのお陰だ。 」

 

 そう言って俺は彼岸や雷オーナー、そして楓博士を見る。

 

 「あっ……お兄ちゃん?」

 「やれやれ、紅葉……夢の世界じゃなくてこうして再び触れることができて……嬉しい限りだ」

 

 そう言って、幼い姿をした紅葉の兄はそっと彼に寄り添う。

 

 「迅雷がお前の自称許嫁にギャンブルで勝ったお陰で、すべてが丸くおさまりそうだ……かっこよかったぞ、迅雷。 お前にも見せてやりたかったよ」

 「そんなに!!? うぇ……貴重なシーン逃したぁぁ!!」

 「いや、見なくていいよ……恥ずかしい」

 

 と、俺は照れてしまう。

 そんなところに、とことこと秤は寄り添ってくる。

 

 「お久しぶりです紅葉様……とはいっても記憶はないと思いますが、私は秤と申します」

 「あなたも白神さんと同じくお兄ちゃんの……」

 「はい。 私たちは宗家に仕える使用人。 故に長らく宗家のものが居なかったので、代理の分家に言い様に扱われてきました。 しかし、迅雷様がこの勝負に勝たれて、我々もようやく自由を得られました……迅雷様、本当にありがとうございます」

 

 ペコリ、と俺と紅葉たちの前で秤は頭を下げた。

 そして、直ぐに顔を上げるとその顔はスッキリとしたような笑顔だった。

 

 「ふぇぇぇ、ようやくお勤め終われた……」

 

 と、その場にドカリと座り込んだ。

 

 「やれやれ、ギャンブルの審判とはまたきつかったな……」

 「あ、よかったらブラッシングとマッサージしましょうか? 得意なんで」

 「えっ? ありがとうございます、迅雷様♪」

 「様はつけなくていいですよ、迅雷でいいです」

 「いいえ、これから新しい主となったからには様をつけますよ」

 「えっ?」

 

 と、俺は秤の身体を揉みほぐしブラッシングをかけながらクエッションマークが頭の上に浮かんでいた。

 

 「それってどういう……」

 「いえいえ、今回銀杏様がベットしたのは秋月一族に関する権利……つまりは実質今一番秋月一族で偉いのは貴方なのですよ……迅雷様」

 「でも、宗家って紅葉なんだし紅葉が命を下すのが……」

 「いえいえ、紅葉様とお付き合いしている迅雷様……あなたはその時点で宗家の者と言っても過言ではない」

 「それに、お前……楓の生まれ変わりなんだってな」

 

 そう言って扉からハスキー先輩と白神が互いの身体を支え合いながら歩いてきた。

 

 「ハスキー先輩に、白神さん?」

 「おうよ、迅雷は楓の生まれ変わりだぜ。 迅凱仙メンバーと、そこにいるクローンに憑依してる楓博士本人がそう言ってるんだからな」

 「ナイト、狼牙!! ひどいけが……彼岸さん、治していただけますか?」

 「勿論」

 「すまない、こちらもお願いするぜ」

 

 そう言って今度はレオがシロンとザクロを担いで現れた。

 

 「よいしょっと……ふう、ここまで運ぶの疲れたぜ」

 「レオ、お疲れ様」

 「さあて、迅雷……報酬を……」

 「秤さん、紅葉の目を少しだけ隠して貰える?」

 「はい」

 「紅葉、目を閉じて……」

 

 そう言って紅葉が目を閉じている間に俺は、レオと約束していたことをした。

 

 「んんっ……!!」

 「はぁ……ふう、御馳走様♪」

 「ありがとうね、レオ。 助けに戻ってくれて……」

 「あれはだって迅雷が……っ!! んぐ//」

 「……ふぅ……だから、これはお礼を上乗せした分ね」

 

 そう言うとレオは鼻血を吹いて倒れてしまったのだった。

 ありゃりゃ、刺激が強かったかな。

 

 「彼岸、レオも重傷みたい」

 「了解よ~」

 

 と、レオを彼岸が回復の術式を施している空間内へ置き、再び紅葉の元に俺は戻る。

 

 「秤さん、それから紅葉もういいよ」

 「迅雷……本当に助けに来てくれてありがとうね」

 「いいって……これくらい恋仲なら当たり前でしょ」

 「う、うん//」

 

 そんなのほほんと雰囲気の最中、外の爆音はまだ続いていた。

 

 「あ、そうだ……吹雪さんたちに足止めをお願いしてたんだった」

 「でしたら、私めが警備の皆様に連絡しておきます」

 

 秤さんはそう言ってスマートフォンを懐から取り出し、電話をし始めた。

 そのお陰で爆音は止んだ。

 

 「はい、これで一件落着……」


――――――


「んなわけないですわよぉぉぉぉぉ!!」

 

 息を切らしながら立ち上がる銀杏、そしてその周りに付き従う分家の重役たちがこちらを睨み付けていた。

 

 「こんな勝負無効よ無効!! 私は紅葉様の許嫁!!フィアンセですわ!! こんな、こんな人間ごときに……」

 「やれやれ、分家の小娘風情が……賭けを持ちかけながら無効にしようとは、どこまで秋月の恥なのやら」

 「お黙り、秤!! お前はクビよクビ!! 白神、お前もよ!!」

 「ああ、そのつもりだ。 なにより、冷血の狩狗やそこの楓から聞いた話……お前らから聞かされた顛末と違いすぎててな……こっちから願い下げだっつーの」

 「むきぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 まるで猿のように叫ぶ銀杏。

 これでは駄々を捏ねている子供のようだ。

 いい歳した感じなのに……残念きわまりない。

 

 「諦めろ、お前は負けたんだ」

 「いいえ……人間ごときに……この私が負けただなんて……そんなの……認めませんわ!!」

 

 ぶん、と銀杏は隠し持っていた小刀を俺の方に向かって投げつけた。

 誰もが反応が遅れ、俺にその小刀は突き刺さったに見えた。

 しかし、指でぱっちりと挟み込んで寸前に止められていた。

 

 「やれやれ、秋月一族ってのは相変わらず物騒だね……」

 「あ、あなたは……」

 

 と、白衣を身にまとった男が立っていた。

 というより、お父さんが来ていた。

 

 「天野教授!!」

 「やっほぉ~秋月の分家の小僧ども。 やれやれ、老けたね」

 

 その言葉に重役たちは、その身を低くしてひれ伏していた。

 

 「ちょっと、お爺様方!! こんな人間ごときに……!!」

 「「黙らんか小娘!!」」

 

 ビクッと重役たちの声に思わず銀杏はたじろいでしまう。

 

 「な、なによ……この人間が……」

 「このお方は、天野翔琉教授……秋月一族宗家が仕えているお方じゃ!! つまりは、我々より遥かに上の存在じゃ」

 「やれやれ、仕えているだなんて滅相な。 僕はお友だちとして親好を深めようぜって宗家の当主に言ったら急に仕えるっていい初めて、以後そうなってるだけだって」

 

 お父さん、だからあなた何者なんだよって。

 獣人世界でも頂点に立つ貴族を仕えさせてるって……。

 

 「やれやれ、息子が世話になったようで……何よりだ」

 

 と、キャッチした小刀をバキッと片手で砕いてポロポロと地面に落とす。

 その光景に雷オーナーが一番ビクビクとしていた。

 

 「あの人間が……天野教授のご子息!!」

 「そう、天野迅雷……それが俺の名前だ」

 

 なんだ知ってるのかと思ってたのに。

 案外知らなかったのかな?

 下調べが足りないな。

 

 「さてどうする? これ以上、ぐだぐだ勝負するって言うなら、僕参戦しちゃおうかな♪」

 

 てへっと、天野教授は舌をペロッと出してにこりと笑っている。

 しかしそれだけで、重役たちの心をへし折るには充分だったようだ。

 もう、戦意喪失している。

 

 「さてさて、めでたしめでたしっと……!!」

 

 そういいかけた天野教授は、ピクッと指を動かした。

 そして、次の瞬間教授の周りに魔方陣が出現した。


「コノトキヲマッテイタ……」

 

 そう言って現れたのは、黒い塊だった。

 

 「あれは、ザクロから抜け出たやつじゃ……」

 「そうか……お前、あの白猫に寄生していたのか……どうりで見つからないわけだ……」

 「フハハハハハ、モウオソイ……アマノカケル……オマエガウバッタチカラ、ワガニクタイニモドソウ」

 

 そう言って魔方陣が光輝くと、天野教授……いや、お父さんの身体が石のように固まってしまった。

 

 その瞬間、雷オーナーに黒い塊は流れ込んでいった。

 

 「グゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 苦しみの雄叫びと、禍々しいオーラを放ちながら雷オーナーは上空に浮かび上がった。

 

 「なんだ……一体、なにが始まるって言うんだ!!」

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