楓の反撃
紅葉が連れていかれた。
前回のあらすじはこの一言に限る。
不覚にも、雷オーナーも彼岸もレオもなにもできず、みすみす取り逃がしてしまった。
「迅雷、今傷を癒すからね」
と、彼岸は俺の肩に手を当てて陰陽術で怪我を治してくれる。
次第に痛みが引いていくのも、傷口が塞がっていくのも分かる。
だけど、この心の痛みは癒せなかった。
「俺のせいで紅葉が……」
「いいえ、迅雷……私のせいです。 交渉なんて生ぬるい考えじゃなく、脅すべきでした」
「あの呪術士……相当の手練れだな」
「だね。 精神系の魔法を使えるレオが止められたんだから……余程の……」
「それより、紅葉を連れ戻さなきゃ」
傷の癒えた俺は直ぐ様追い掛けようとするが、彼岸たちに静止される。
「ダメだよ迅雷。 いくら、迅雷でも無謀に秋月一族の屋敷に向かったら捕まるよ」
「だとするなら、どうすれば……」
「おう、お前らどうしたんだ?」
そう言ってハスキー先輩と楓くんが現れる。
「あれ?楓くん寝たんじゃ……」
「ふむ……失敗した……誤算だったよ」
「あれ?口調……」
「あー、ごめんごめん。 今、楓くんの身体を借りてるんだよ、楓博士の僕がね」
と言い、ぴょんとハスキー先輩から飛び降りる。
「前に吹雪に他の人物に一時的に憑依できないかと願ったら、生まれ変わりかクローンならば自由に往き来できると言われてね……一時的に楓くんの身体を借りてる」
「じゃあ、今の楓くんはいつもの楓くんではなく楓博士ってことでいいんだな?」
「そうだよ」
「うわーん、楓……ぎゃふん」
「おだまり、ナイト」
そう言って楓博士は、その小さな身体を駆使して、ハスキー先輩を足蹴にする。
そして、倒れたハスキー先輩にずかりと座り込む。
ハスキー先輩はなんだか嬉しそうだ。
尻に敷かれるのがそんなに嬉しいのやら。
「紅葉に秋月一族宗家を継がせるわけにはいかない……というより、秋月一族の分家を暴走させるわけにはいかないからね」
「楓博士……それは、どういう?」
「分家の連中は、秋月という名を使って散々独裁政治を行ってきた掃き溜めだ。 だからこそ、僕はこれまで脅して抑制していたのだが……僕の死が知れ渡ってしまった以上は……」
と、博士は顔を下げてしょんぼりとしていた。
「紅葉が秋月一族を継ぐということは、分家のあの女と結婚し、分家に権力が行ってしまう……それだけは避けなければならないんだよ」
「じゃあ、紅葉を連れ戻せば万事解決?」
「いや、それだけじゃ……あとは、また何個か脅しとかないと……」
ニヤリと怪しく微笑む楓博士は、楓くんの姿とはいえゾッとした。
しかし、雷オーナーとハスキー先輩はその悪そうな顔に牽かれたらしく、興奮していた。
こんな時まで……変態どもめ。
「そして、助っ人を呼ばなきゃね……」
「助っ人?」
そう言うと、楓博士は楓くんがいつも持ち歩いている子供用のスマートフォンを取り出してどこかに電話をかける。
「もしもし? 僕……楓。 そうそう、今入れ替わって貰ってる……うん、うん……そうそう。 いや、助けてもらいたくてね……報酬? ふーん、僕に報酬求めるんだ……へぇ……」
なにやら、電話先の人を脅しているようだ。
「え、引き受ける? 引き受けさせてくださいでしょ? うん……わーい、ありがとう♪ んじゃあ、すぐ来てね~♪ はーい」
ピッと電話を切った途端に、吹雪さんとシロンさん、そしてシバさんが現れた。
「「「はぁ……はぁ……き、来ました……」」」
「うむ、ご苦労様」
ぴょん、とハスキー先輩から飛び降りると楓博士は三人にとことこと歩いて寄る。
「秋月一族の屋敷に潜入するために、僕の友達呼んだよ~」
「楓……呼び出すなら普通に呼んでよ」
「はぁ…はぁ…全員をここに転移させるの辛い……」
「楓殿……我が主よ……ご命令とあらばどこまでも」
「そして、あともう一人……」
「もう一人??」
と、俺たちが考えていると、ガチャリと扉を開けて現れたのは、ICPOの刑事である雨宮ユリウスだった。
「楓博士、申し訳ありません。 数秒遅れてしまいました」
「いえいえ、大丈夫ですよ。 さあて、これで役者は揃ったわけだ……」
と、楓博士はにこりと微笑んでいる。
「さあ、諸君!! 秋月一族の屋敷に行って、紅葉を助けるよ!!」
小さい身体から発せられた、声は俺たちを勇気づけ、そして立ち上がらせるきっかけとなったのだった。
―――――
その頃……某大学のパソコンの前でメールを読んでいる教授がいた。
「ふむ……なるほど……了解したよ、楓くん」
そう言って、椅子にかけていた白衣を着直しとあるところへと向かう。
それは、楓博士にとって、いざとなったときの保険であった。
自分が慕い、そして一番強いと思うこの人物ならばもしもの時に対応できると思って……。
―――――
秋月一族の屋敷。
それは、獣人の警察本部と最高裁判所が近くにある場所にまるで国会議事堂のように建てられている建物である。
建物の造りは、和風で、言うならば武家屋敷に近いと言える。
そんな建物の守りは厳重で、建物内には侵入者トラップは勿論、周りを警察が常に警備しており、不用意に近づくだけで逮捕されてしまうというレベルの守りだ。
「ほいさね、ここが秋月一族の屋敷だよ」
と、楓博士たちと目の前まで俺たちはやって来ていた。
時間的に深夜時間。
屋敷はライトアップされ、警備も昼間以上に厳しくなっていた。
「楓博士……本当にこの時間に侵入するのがいいの?」
「うん、そうだよ。 僕も紅葉を連れ出して逃げたときもこのくらいの時間だったからね……」
と、懐かしそうに語っていた。
「雨宮くん、君は警察の警備担当者に秋月紅葉様から見取り図を見せろと言われたと言って、今日の警備配置を貰ってきてくれ」
「分かりました」
「吹雪、君は上空から天候を少し荒らしてくれ。 そうだな……雨と霧……がベストかな」
「了解したよ」
「シバ、君は建物に潜入と同時に囮になってくれ。 そこは、吹雪と雨宮くんと協力して出来るだけ時間を稼いでくれ」
「御意……主の意思ならばお任せあれ」
「他のみんなは見取り図が手に入り次第、僕についてきて。 スピードが早いナイトが僕と迅雷を……雷さんは彼岸とレオを連れてきて。 シロンは魔法で身を隠しながら少し遅れて突入してくれ」
「「了解」」
楓博士の指示は的確だった。
これは時代が時代なら、軍師とかに向いてそう。
そして作戦が開始されたのだった。
まず、予想通り……ユリウスは地図を入手することに成功する。
その見取り図は、楓博士が予想していた通りの見取り図だったらしい。
そして、吹雪さんが上空にふわりと舞い、天候を変える。
急な豪雨と濃霧。
警備は一時的に解除された。
「よし、いまだ」
そう言って、楓博士と俺たちは屋敷へと侵入する。
そして、雨と霧が晴れたとき、シバと吹雪、そして雨宮ユリウスは屋敷の前から堂々と侵入しようとし、警備を見事に集中させることに成功していた。
「ふむ……ここまでは、計算通り。 あとは、この先だな……」
と、屋敷の扉を開くと、執事たちがさずらりとならび、その中央に黒いフードを被った白猫と、忍服を着た白神が待ち構えていた。
「うふふっ♪ 僕の予想通り♪ やっぱり来たね、子ネズミちゃん♪」
「……来たな」
「ふむ、ここも計算通りだ。 そして、やあ狼牙。 この姿なら、もう僕が誰か分かるよね?」
「ええ……楓様……お懐かしゅうございます……」
と、黒いフードを被った白猫以外は執事たちも涙を溢していた。
「みんな久しぶり。 殺されちゃってどうにか魂だけは転生できてこうして他の者の身体を借りて動けてるだけだが……僕は君たちのことを片時も忘れたことはなかったよ」
そう楓が言うと、白神たちは涙でいっぱいになり、その場に這いつくばるようにしてボロボロと涙を溢していた。
「さあ、みんな……その場をどいて、紅葉の元に……」
「そんなことさせるわけないじゃーん」
そう言ってフードを被った白猫は、楓博士の前に立ちふさがる。
「死人はさっさと、あの世に帰れ……」
「……シロン、今だよ」
楓博士の合図と共に、白猫は壁に弾き飛ばされた。
そして同時に、怒り狂ったシロンさんが姿を現すのだった。
「ザクロぉぉぉぉぉぉぉぉ!!呪術士の白猫って聞いたときもしやと思ったが……やはりお前か!!」
「にゃん♪ シロン♪ 久々♪ ザクロお兄ちゃんはこんなに元気だよ♪」
激昂するシロンに対して、ザクロは玩具でも見ているような嬉しそうな表情に変わる。
「じゃあ、白神くん。 冷血の狩狗は任せたよ」
そう言ってシロンとザクロは魔法と呪いの掛け合いを始めた。
白神は冷血の狩狗という単語を聞いて、先程の涙姿とは相まって、激昂した表情になっていた。
「冷血の狩狗だとぉぉぉぉ……どいつだ?」
「あー、俺だけど?」
と、緑色のマフラーに黒い仕事服姿のハスキー先輩は前に出た。
その瞬間、白神は姿を消し、クナイでハスキー先輩に攻撃をしかけた。
「お前が……俺の楓を殺した殺し屋か!!」
「俺の楓?」
ピクリと反応したハスキー先輩は、マフラーでクナイを叩き落とす。
「楓は俺のものだ」
「違うね、幼なじみの俺のものだ!!」
「なんだと……殺すぞ狼」
「殺ってみろよ、狗!!」
こうして、ハスキー先輩と白神は戦闘を開始してしまったのだった。
「ふむ、これも計画通りっと……よし、今のうちに先に進むよ」
と、楓博士は戦う四人を避けて奥の部屋へと進む。
待っててね、紅葉。
助けてあげるからね!!




