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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:秋月一族編
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獣人貴族【秋月一族】来襲

物語というのは、誰かが現れなければ進まない。

 と言うのが定説だ。

 実際俺もそう思う。

 新しい展開には、新キャラ。

 新しいステージには、新しいボスキャラ。

 新しい物語には、新しい世界観。

 人間は新しいものが好きだ。

 だからこそ、古き者を善きとはしない。

 古いしきたり、古い存在、古い建物、古い言い伝え、古い密約……とか。

 誰もが羨む金持ちでも、そんなしきたりとかに縛られている。

 でも、いずれは薄れ行くものだ。

 そうあって欲しいと願ったのだ。

 今日……この時に。

 

 「紅葉様……お迎えにあがりましたわよ」

 

 この女が……秋月銀杏(あきつきいちょう)が現れるまでは。

 

 「まったく、こんなみすぼらしいレストランでシェフだなんて……秋月一族の宗家の者がすることでは無くてよ」

 「お前は……誰だ……」

 

 こうなってしまったのは、遡ること一時間前のことである。



「ふう……今日は、あと一組でおしまいだよね?」

 「そうだね……少し時間あるから、休もうか」

 

 団体客も帰り、あと一組で本日の迅凱仙の仕事は終わりだった。

 俺と彼岸、そして紅葉は皿洗いを終えて少し休んでいた。

 

 「しかし、海の幸も出し初めて、うちもすっかり人気だよね」

 「秘境感ゼロだな」

 「あっ!!みんな休んでる!! ズルい!!」

 

 と、食材を倉庫にしまいに行っていたレオが戻ってきて俺たちに愚痴愚痴と文句を言う。

 

 「ごめんごめん、レオ」

 「あっふぅ♪」

 

 俺が優しく頭を撫でると、レオは頬を赤めて嬉しそうにしている。

 それを見ると紅葉がイラッとした顔でレオを睨み付けているが、俺がにこりと微笑むと途端にデレッとする。

 そんな相変わらずな迅凱仙のメンバーだった。

 ちなみに、ハスキー先輩は楓くんを寝かしつけに行っている。

 今日も忙しかったのに、ホールを一人で回せてたから大変だったろうに。

 

 「そう言えば、今日の最後のお客さん……予約してきたとき変だったんだよな……」

 

 と彼岸は言う。

 

 「なんか、紅葉シェフはいらっしゃいますか?って紅葉のことばかり聞いてきたし」

 「紅葉の料理のファンなのかな?」

 「新手のストーカー?」

 「やめてやめて!! 僕には迅雷がいるんだから……!!」

 

 と、ついついノロケてしまった紅葉の顔は真っ赤になってしまっていた。

 そして、俺も。

 

 「やめろやめろ!! ノロケるな!!」

 

 そう言ってレオはバンバンとテーブルを叩く。

 まあまあ……そう言わずに。

 

 「でも、確かに……少し警戒した方がいいかな?」

 「なにも起きねぇって。 だいたい、このレストランの従業員は強いやつばかりだぞ」

 

 確かに……。

 武道の達人、伝説の殺し屋、最強の陰陽師、ショタ好きのチート、星の魔導師……強いやつばかりだ。

 

 「じゃあ大丈夫だよね……ははっ」

 

 でも、俺は胸騒ぎがしていた。

 何でだろう……紅葉が遠くに行ってしまうような……そんな気がしたんだ。

 

 カランコロン、と扉が開く音がする。

 本日最後のお客さんが来たのかな?

 

 「いらっしゃいませ、ようこそ迅凱仙へ」

 「はい、どうも」

 

 そこには、凛々しい格好をした黒い狼獣人が立っていた。

 

 「えっと、お客様は本日ご予約の……」

 「ふんふん……この匂い……間違いないな」

 

 そう言って狼獣人は俺を押しのいて店内へ入る。

 

 「紅葉様ぁぁぁ!!ここにいるのか!!」

 

 獣人が店内に響き渡るほどに叫ぶと、ひょっこりと紅葉は現れた。

 

 「えっと……はい、僕が紅葉ですけど……様って……」

 「あ、紅葉様ぁぁぁ!!」

 「わぁぁぁ!!」

 

 黒い狼獣人は、紅葉を見た途端に彼を抱き上げて跳び跳ねている。

 とてもじゃないが、そんなことしそうにない顔つきの狼獣人だったので全員が息を飲んで驚いたものだ。

 

 「えっと、あなたはいったい……」

 「おや、私のことは楓様からお聞きになっていないので?」

 「えっ……? いや?」

 

 と、ちらりと俺の方を紅葉は見る。

 やれやれ……ここは、楓に交代するか。

 

 「はいはい、楓ですよ……って、狼牙?」

 「あーん?人間……何故てめぇが俺の名を……」

 「あはは♪ 狼牙じゃん、久しぶり♪ もう、おねしょしてない? だめだよ、昔みたいにタンスの中におねしょした布団片付けたら」

 「そ、それを知るのは……でも……えっ?」

 「やれやれ、事態を収集するために出てきたけど、どうやら混乱させてしまったようだね……ではでは、まずは彼について説明しよう。 彼の名前は白神狼牙(しらかみろうが)。 秋月一族の隠密部隊の隊長……そして、僕の幼なじみさ」

 「秋月一族……だって!!」

 

 と、彼岸とレオは目を見開いて驚いていた。

 

 「秋月一族っていえば……獣人の世界ではその名を知らない大貴族じゃないか……」

 「世界の資産の3分の1を所持しているとか……警察組織のトップを簡単に動かせるとか……そんなレベルの一族だぞ」

 「そして、紅葉……そして僕……楓はそんな秋月一族の宗家……つまりは、一族の頂点に立つことを許された身分だったのさ」

 「……高校を出てから楓様の行方は常に探してきた。 が、楓様に大学でお会いした際に、内密にと……俺は宗家の楓様の命を受け、紅葉様のこと……そして楓様のことを分家に隠してきました……というか、やはりあなたは……俺の楓様……」

 「ごめんね、狼牙……僕は一度死んでしまって……新たに、この迅雷として再びこの世に生を受けたんだ。 だから僕は、狼牙が知る楓であって、楓ではないんだよ」

 「それでも……俺は……」

 

 と、黒い狼獣人……狼牙がなにかをいいかけたところで再び扉が開かれる。

『秋月一族が分家……秋月銀杏様のおなぁぁぁぁりぃぃぃぃぃ』

 

 赤い絨毯が急にずらっとこちらに敷かれ、黒い燕尾服を着た執事集団がまるで騎士のようにずらりと並ぶ。

 そこをつかつかと、見るからに高そうなハイヒールを履いた白い女の狼獣人【銀杏】がこれまた高そうな服を着て歩いてくる。

 

 「やだ……こんな汚いレストラン初めて見た……」

 

 第一声で、俺たちはこの女に対して殺意を覚えたことだ。

 しかし、俺は第二声にも怒りを覚えた。

 それが冒頭に繋がる物語……そして新たなる展開の幕開けだった。



獣人の世界で知らないものはいない、秋月一族という貴族。

 紅葉はそんな一族の宗家……つまりは、家長を継げる家柄に生まれた者らしい。

 それはすなわち、兄である楓が生きていたらそんな事はなかったのかもしれない。

 でも残念ながら、秋月一族宗家の長男である楓は既に死に、彼の両親も既に死んでいる。

 故に、秋月一族宗家の血筋で残っているのは次男である紅葉のみ……という話だった。

 

 「秋月一族の調査網を掻い潜るとは、流石は楓博士……伊達に秋月一族分家を脅し続けた男ですわね」

 

 と、銀杏は言う。

 なんでも楓は、秋月一族にとって不利となる情報を持っており、その事実を公にすると分家の者たちを脅していたらしい。

 そして何より、秋月一族宗家直属の隠密部隊の隊長である白神は楓の幼なじみ。

 宗家の命に従い、楓を愛する彼にとって楓に手を出そうとする分家は敵でしかなかった。

 実際、分家の何人かは楓を殺そうとしたらしいが、影ながら動く忍により全て阻止され、企んだ分家の何人かは始末されたという。

 

 「でも、つい先日……料亭【狗狼】で楓博士に似た獣人が働いていると耳にしてね……調べてみたら、楓博士は既に亡くなっていた……つまり、楓博士の呪縛は分家には効かなくなった」

 「だから、紅葉を迎えに来たと?」

 「その通りよ……人間。 宗家の後継人である紅葉様は、秋月一族家長となって貰わなくては……そして、古くからの決まりである分家の者と結婚して新たな秋月の血を持つものを生まれさせる義務があるのよ」

 

 義務……それは、さながら拘束される者に対して良いように思わせるような言葉だ。

 

 「ダメです……紅葉は連れていかせません。 例え、そんな大貴族だろうと……」

 「ふふっ……狐くん。 あなたのような凡人にこの交渉は破れないわよ……」

 「では、私が交渉致しましょう」

 

 スタッフルームから、スッと現れたのは迅凱仙のオーナーである雷オーナーだ。

 

 「あら、これはこれは……大物……」

 「私のところのシェフを勝手に連れていくことは許しませんよ……例え秋月一族でもね」

 「あらあら、雷殿。 勝手に……とは言ってませんわ。 紅葉様が望んで来るのですよ」


その瞬間、俺の喉元に鋭いナイフが突き付けられた。

 それは、銀杏がすらりと寄り添い、然り気無くそしておしとやかにしなやかに……殺気を見せずに行った事だった。

 

 「あなたが紅葉様とお付き合いしている迅雷とかいう人間ね」

 「じ、迅ら……」

 「動かないでくれるかしら?」

 

 銀杏がそう言うと、燕尾服を着た執事たちはずらりと彼女の周りを取り囲んでいる。

 それをどかそうと雷オーナーたちは動こうとするが、ピタリと止まって動けない。

 よくよく見ると、銀杏の後ろに黒いフードを被った者が、雷オーナーたちになにかをしている。

 だが、なにかをしていると言うことしか分からなかった。

 

 「ねえ、迅雷さん。 ここで紅葉さんとのお付き合いをお止めにしてくださるかしら?」

 「な、なにを……」

 「あらあら……じゃないと、許嫁である私を差し置いて紅葉様の愛を独占しているあなたをここで私は殺さなきゃいけないの」

 「断る……紅葉は俺の……ぎゃぁぁぁぁぁ」

 

 銀杏は、唐突に俺の肩にナイフを深々と突き刺した。

 

 「ほら、早く早く……」

 「あっ……ぐぅ……」

 

 ぐりぐりとナイフで俺の肩を抉ってくる。

 その痛みは殺すと言うより、なぶって声を出させることを目的としていたようだ。

 

 「ねぇ、迅雷さん……紅葉さんと別れて」

 「こ、断る……紅葉は俺の……ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ぐちゃぐちゃと生々しい音がする。

 肉を貪る獣の食事のような音……実態は、俺の肩の肉を抉る音である。

 けど俺はギロリと銀杏を睨み付けハッキリと言う。

 

 「紅葉とは別れません!!」

 「ふふっ……じゃあ……死ね……」

 

 そう言って銀杏はナイフを抜き、俺の顔目掛けて振り下ろそうとする。

 その瞬間紅葉は叫んだ。

 

 「やめろ!!」

 

 ピタリ、と銀杏のナイフは止まる。

 そして、紅葉は言葉を続ける。

 

 「もうやめてくれ……僕のせいで迅雷がこれ以上傷つけられるのは嫌だ……」

 「あら、紅葉様……じゃあ?」

 「分かった……お前たちと行くよ……それでみんなに危害が加わらないなら……」

 「やったぁ♪ 愛してるわ、紅葉様♪」

 

 そう言ってナイフを投げ捨てて、銀杏は紅葉に抱きよった。

 そして、紅葉は銀杏に連れられレストランから出ていった。

 

 「あっ、そうそう。 呪術士さん……あと、よろしくね♪」

 

 と、黒いフードの者に言い残し、銀杏たちはレストランから出てった。

 そして黒いフードの者は、ばさりとその素顔を晒す。

 それは白い猫だった。

 黄色い包帯で右目を隠し、赤い目をした猫……。


「にゃはは♪ だってさ……んじゃ、君たちを呪い殺してやろうかね♪」

 

 そう言って呪術士は俺に札を貼ろうとした。

 しかし、その札は即座にチリとなって燃え尽きたのだ。

 

 「へぇ……君、僕の呪いを……」

 「えっ?」

 「じゃあ他の連中に……って、まあいっか……この札高いし……んじゃ、バイバーイ♪」

 

 そう言って呪術士もレストランを後にした。

 こうして、紅葉は秋月一族の元へと戻ってしまったのだった。

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