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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:水無月編
30/48

回想禄~【天海の陰陽師END】


 あれから数日経った。

 もう、何度同じ事を繰り返したことだろうか。

 凌辱されま自分の身体を何度見直したことだろうか。

 だけどもう、どうでもよかった。

 

 嫌だ。

 もう……嫌だ。

 誰か……僕を……。

 

 違う……チガウ……。

 こんなの、僕じゃない。

 僕じゃないんだ……。

 

誰でもいい……僕を……殺してくれ。


「彼岸くん!!」

 

 扉をぶち破ってやって来た、小さな獣人はそう叫んだ。

 いつものようなのほほんとした雰囲気がなく……怒りに満ちた顔をしていた。

 

 「こ、紅葉くん……!?」

 

 その姿を見て、ハッとなり落ちていた意識が復活した。

 というか、え?

 なんで、紅葉くんが……。

 

 「彼岸くん……!!」

 

 紅葉くんは、僕の姿を見て目を丸くしていた。

 まあ、人間に凌辱やら拷問やら友達ってどんな状況だよってなるからな……。

 

 「あなたが、水無月家の執事長【影】ですね?」

 「あはっ♪ そういう君は、遺伝子工学の天才【楓】博士の忘れ形見……紅葉くんじゃないか♪ ほら、君も混ざろうぜ……!!」

 

 紅葉くんは、問答無用に影に向かって銃を構えた。

 

 「そんな事……了承すると?」

 「物騒な子供だな……おじさんたちにそんなものを向けるだなんて、君にもお仕置きが必要だな……」

 

 影が目をやると、一人の男が紅葉にゆっくりと近づいていく。

 体格差的には、紅葉には勝ち目がない。

 

 「紅葉くん!!逃げ……!!ひゃん!!」

 「おだまり、狐くん」

 

 肉棒を深々と突き刺し、影は僕の顔を紅葉に向ける。

 

 「ほら、君のお友だちがどうなるか……楽しまなきゃ……」

 

 涙が止まらなかった。

 こんな時、自分は紅葉くんになにもできないのか……そう思っていた。

 けど、その心配は次の瞬間無用だと悟った。

 

 「穢らわしい手で触れるな!!」

 

 紅葉は、手に持っていた銃を撃ったのだ。

 だが、それは実弾など入っていない。

 水鉄砲だった。

 だが、その水鉄砲の水は男の目に入り、一瞬やつは眩んだ。

 その隙を狙って紅葉が思い切り蹴り飛ばすと、体格差では考えられないほどに男は吹き飛び、壁にめり込んだのだ。

 

 「なっ……」

 

 影や男たち、そして僕さえも驚きを隠せなかった。

 目の前の事象に、目の前の光景に。

 

 「さて、影さん。 彼岸くんを返してください」

 「生意気なガキが……お前ら、やっちまえ!!」

 

 すっかりと余裕をなくした影は、僕を投げ捨て紅葉の方に集中していた。

 男たちが紅葉に向かって大勢で襲いかかっているが、紅葉に未だ触れることすら叶わず、蹴られ殴り飛ばされていた。

 

 「ふう……君たち、弱すぎ……」

 

 服に汚れすらない紅葉は、めり込まれている男たちに目をやっている。

 が、すぐさま影を睨み付けた。

 

 「お、お前……何者なんだよ……」

 「もう一度しか言わない。 彼岸くんを返せ……」

 「はん?ガキが……いい気になるなよ……」

 

 そう言っておそらく影は僕を人質に取ろうとしたのだろう。

 けど、僕はもう既にやつの近くにはいなかった。

 だって、雷さんが鎖を引きちぎって助けてくれたのだから。

 

 「なっ!? いつの間に……!?」

 「全く、紅葉は……友達のことになると、熱くなっちゃうんだから」

 

 雷さんはバキン、と僕の腕や足、首につけられた拘束を手で外していき、裸になっていた僕に、タオルを巻き付ける。

 

 「雷さん……どうしてここが?」

 「なあに、紅葉が推理しただけさ……彼岸くんが最後に立ち寄った寺から病院までの距離、時間、足跡の深さなどなど……そしたら、ここにたどり着いただけさ」

 「うう……」

 「さあ、紅葉。 もういいよ。 殺さない程度に、ぶっ飛ばしてあげなさいな」

 

 そう雷さんが言うと、紅葉は深呼吸をして拳を前に構える。

 

 「ねぇ、雷さん……なんで紅葉くん、あんなに強いの?」

 「あぁ……それは簡単。 紅葉くんは私が直々に鍛え上げ、そして今となっては私より強い……ただそれだけの話だよ」

 「雷さんより、強い!?」

 

 あのチートな雷さんが自らよりも強いと述べた。

 それが何を意味するのか……といえば、この僕の知る中の人物で今もっとも強い人物が紅葉になったということだ。

 つまりは、最強が認めた真の最強……それが、紅葉なのだ。

 

 「後悔して、懺悔しろ影!!」

 

 そう言って思い切り跳躍した紅葉から繰り出された拳によって、影は文字通り吹き飛んだ。

 そして、まるでエジプト文明の壁画ののように壁にめり込んでそのまま気絶してしまったのだった。

 

 「僕の友達に手を出すやつは、許さない!!」

 

 いつもはかわいいと思っていた紅葉だったが、今日はすごく格好よかった。

 僕はその姿に安心したのか、そのまま目を閉じて気を失ってしまったのだった。


後日。

 僕は病院で目が覚めた。

 薬品の匂いが鼻につき目が覚めると、僕のベッドに顔を埋めている紅葉くんがいた。

 そして、部屋の入り口付近の椅子には冷血の狩狗と雷さん、そして吹雪師匠が座りながら眠っていた。

 ズキッと身体はまだ痛む。

 

 「紅葉くん……」

 

 僕は眠っている紅葉くんの頭を撫でた。

 やっぱり毛並みがよく、なにより寝顔はとても可愛いと思った。

 

 「にゅ~?」

 

 と、僕が触ったことで目覚めた紅葉くんは眠そうな目を擦り、大きなあくびをしている。

 そして、僕が起きていることに気づいた。

 

 「わ、わぁ~彼岸くん!!」

 「おっと!!」

 

 ガバッと勢いよく紅葉くんは僕に抱きついてきた。

 そして、身体に顔を擦り付け涙を浮かべていた。

 

 「よかった、目覚めてくれた~」

 「紅葉くん……僕はいったい……」

 「心配したんだよ。 あのあと、気を失ったと思ったら高熱出ちゃって、なにより衰弱死しそうに危険だったから、急いで緊急処置してもらって……」

 「そうだったんだ……ありがとう」

 

 えへへっと、僕は紅葉くんの頭を撫でた。

 彼は本当に太陽のような明るい笑顔を僕に見せる。

 正直、眩しいくらいだ。

 あぁ……尊い。

 

 「あ、待ってて。 お医者さん呼んでくるね!!」

 

 そう言ってトコトコと病室から出て行った。

 雷さんや冷血の狩狗さん、そして吹雪師匠もどうやらその音で目が覚めたようで、3人ともビクッと身体を震わせ目を開いた。

 タイミングが一緒で思わず笑ってしまった。 

 

 「みなさん、おはようございます」

 

 僕は笑顔でそう言うのだ。

 吹雪師匠は、身体を震わせ涙をこぼしながら僕の方に駆け寄ってきた。

 

 「ごめんね彼岸……私が……私がしっかりしないといけなかったのに……ごめんね……ごめんね……」

 「いいんですよ。 だって、師匠は辛い思いをしたんですから……仕方ないじゃないですか」

 「あぁ……ごめんね彼岸……」

 

 僕は吹雪師匠にぎゅっと抱き寄せられる。

 なんか、こうされるのも久しいな。

 

 「でも、よかった……本当に……」

 「師匠……」

 

 ガラガラっと扉を開けて、紅葉くんが現れた。

 

 「彼岸くん、先生連れてきたよ」

 

 そう言って扉をくぐる先生とナースを見た瞬間僕は目を見開いた。

 そして狂ったように叫んだ。

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ベッドからあわてふためき、吹雪師匠をぶっ飛ばして、反対側に降りて身を丸くして怯えていた。

 だって、先生とナースは人間だったのだ。

 あの男の……影たちの所業がフラッシュバックされた。

 言うところ、これこそが僕が人間がダメになった瞬間だったのだ。

 こうして、人間嫌いな僕は完成したのだった。


 【時は進み、迅凱仙へ】

 

 レストランでの業務と言うのは、僕にとってはリハビリのようなものだった。

 なにせ、対人恐怖症な上にコミュニケーション能力まで一時期落ちてしまっていたからね。

 いつか、獣人陰陽師の頂点に君臨することになるわけな僕としては、きちんと治すものを治しておかないと。

 まあ、人間嫌いについては、あいつだけだが、昔よりはまともになったと思う。

 

 「おーい、彼岸くん。 ブラッシングするよ♪」

 

 くしを持ちながら嬉しそうにそう言う人間……天野迅雷(あまのじんらい)

 このレストランの新参者である。

 最初はもちろん人間だったから、苦手だった。

 けど、こいつは少し違った空気を感じた。

 普通の人間とは違うなにか……。

 だからこそ、僕は少しずつ心を開いた。

 今ではこの通り。

 

 「あー、やっぱり凄いね。 毛の生え変わりって凄いね……」

 「あ~そこそこ……気持ちいい……」

 

 尻尾の先からくしを通され、快感を覚える。

 昔のあの性的な快感ではなく、単に心地よさがあった。

 

 「彼岸くんの毛並みもきれいだよね。 艶々してるもん」

 「えへへ……まあ、手入れしてるからな」

 

 正直、冷血の狩狗……おっと、この時間軸ではハスキー先輩か。

 ハスキー先輩が羨ましい。

 水洗いするだけで、あそこまでの艶が出るのは正直おかしい。

 

 「彼岸くんはここが好きだよね?」

 「あぁ~いい♪」

 

 耳元付近をくしで優しく撫でられるのが僕のお気に入りだ。

 あー、幸せ。

 

 「はい、おしまい」

 「え~もっと、もっと!!」

 「でも、そろそろ業務に戻らないと、紅葉に怒られちゃうよ」

 「うぅ……」

 

 流石に紅葉に怒られるのは嫌だ。

 なにせ、知っているからな。

 あいつが怒ったときの怖さを……。

 

 「おーい、みんな。 休憩がてらお茶しようぜぇ~」

 

 厨房からハスキー先輩が、色とりどりのフルーツケーキを見繕って現れた。

 そして、紅葉がお茶を入れているのが見えた。

 

 「「はーい」 」

 

 僕と迅雷は声を揃えてテーブルへと向かう。

 今日も平和な迅凱仙だった。

 

 「あれ?雷オーナーは?」

 「あー、さっき紅葉のアルバム本持って自室に籠りに行ったよ。 なんでも、写真が劣化しない内にデータとして永遠に保管する~って言ってたな……」

 「あの野郎!!」

 

 紅葉は急いで雷オーナーの部屋に向かって走っていった。

 あーあ。

 

 「まあ、いつものことだから気にせず食べようぜ」

 

 そう言ってハスキー先輩は切り分けたケーキを僕たちの前に置いた。

 そして僕たちは、午後の休憩を楽しんだのだった。


 そして物語は南極の時間軸へと進む……。

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