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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:序章【運命的な出会い】
3/48

優しい朝食

 前回までのあらすじ。

 狼シェフこと紅葉、そしてハスキー先輩はブラッシングの心地よさに堕ちてしまった。

 男たちが最後に放った言葉は世界を動かす。

 「俺のもふもふか?欲しけりゃくれてやる……探せぇ!! この世のもふもふを全て置いてきた」

 天野迅雷は次なるもふもふを求めて旅にでる。

 時代はまさに、大もふもふ時代!!

 って、なんだよ大もふもふ時代って。

 そして、この始まり方は完全にワンピー○のパクりじゃねーかよ。

 ダメダメ。

 やめなさいよ作者。

 ……さて、本当の前回までのあらすじ。

 狼シェフこと紅葉による官能的な料理を楽しんだ、天野迅雷、ハスキー先輩、彼岸は食後の休憩をしていた。

 そこに紅葉がブラシを持ち込み、天野迅雷によるブラッシング作業が始まる。

 一方、彼岸は未だに天野迅雷が怖く動けなかったが、ブラッシング好きな彼としては、紅葉、ハスキー先輩を骨抜きにするテクニックを持っている彼のブラッシングを是非にも受けたい。

 果たして彼岸は、ブラッシングを受けることができるのか。

 的な感じで書いてはみるものの……。

 実は今、彼岸のブラッシングをしているんだよね。

 ハスキー先輩が腰から崩れ落ちていった直後、とことこっと彼岸は俺の元にやって来て、ブラシをじっと見つめていた。

 

 「……彼岸くん?」

 「ブラッシング……して」

 「……いいのかい?」

 「……うん……」

 

 そんなこんなで今、まさにブラッシングなう、なのですよ。

 はい。

 

 「彼岸くんの毛並みも、きれいだね……ブラシを入れる度に、艶が出てるように見えるよ」

 「でしょ!! この毛並み維持するの意外と大変なんだよ」

 

 唐突にお喋りになった彼岸は、ブラッシングをする度に尻尾をふりふりと歓喜のままに振り回している。

 

 「あー、耳の裏もきちんと手入れされてて、さわり心地が……」

 「あっ……///」

 

 変な声出さないでくれ。

 まるで、エッチな事してるみたいに捉えられるじゃないか。

 誰かに。 

 

 「そういえば、彼岸くんはどうして人間が嫌いなの? 昔なにかされたのかい?」

 「……」

 

 俺のこの質問をすると、彼岸の尻尾は先程の勢いが完全に無くなり、だらんとぶら下がってしまった。

 そして、耳も垂れ下がり、若干すすり泣くような声も聞こえた。

 

 「あ、ごめん!! 言いたくないなら言わなくていいよ!! ただ、彼岸くんがどんな人間にどんなことをされたのかは俺は分からないけど……俺は彼岸くんに酷いことをすることは絶対しないよって言いたかった……だけ……」

 

 彼岸は、俺の方をくるりと向いて、顔を腹部に押し付け泣いていた。

 背中に回された彼の手はぎゅっと強く服を掴み、彼の涙は服を伝わり俺の肌に当たる。

 俺はどうしていいか分からなかった。

 だから、俺は彼の頭を優しく撫で続けた。

 子供を寝かしつけるように、慰めるように、優しく……優しく。

 

 

 すやすやと寝息を立て、彼岸は寝てしまっていた。

 紅葉は、彼岸を布団に寝かせてくると言って俺から引き剥がし、お姫様抱っこのように持ち上げると、厨房脇にあるスタッフルームの方へと入っていった。

 一方、ハスキー先輩はといえば……。

 

 「うぃ~迅雷、なんでるか~ひ」

 

 いつの間にか泥酔していた。

 手には日本酒の瓶を持っており、まるでジュースを飲むかのようにぐびぐびと飲んでいる。

 

 「ハスキー先輩、二日酔いだったはずなのに、大丈夫なんですか?」

 「らいじょーぶらいじょーぶ……こうみれて、れーんれんのんれらいらら」

 「いや、それ完全に泥酔してるじゃねーかよ!!」

 

 ハスキー先輩は、おもむろに日本酒をぐびぐび飲みながら俺のところにやって来て……ごろんと目の前で寝転んだ。

 

 「あー、床涼しい~」

 「もう自由人すぎ!!」

 「おい、迅雷~膝枕してくれぇ~♪」

 「嫌ですよ……」

 「代わりと言ってはなんだが、彼岸の過去を少しだけ……俺の知る限り話してやるからよぉ~」

 

 そう言われてしまったら、俺がとるべき行動は1つだけだった。

 近くにあったソファーまでハスキー先輩を連れていき、そこで膝枕をした。

 ハスキー先輩の足は少しソファーをはみ出してしまうが、別段彼はそれを気にしていなかった。

 

 「あ~心地よい~」

 「酒臭いよ、ハスキー先輩……」

 「なんらよ~これが、大人の香りってやつらぜ~」

 「そう言うものなのかな……」

 「そうだぜ~あひゃひゃひゃひゃ~」

 

 泥酔したハスキー先輩は、ぐびぐびと酒を寝転んだまま飲んでいる。

 若干口から飲みきれなかった酒が零れて、それは俺の膝に流れ落ちる。

 このままだと服が酒に浸される。

 

 「あ、ほらハスキー先輩。 彼岸くんの話は?」

 「ん?」

 「ん?じゃなくて!! 彼岸くんの話をしてくれるんじゃなかったの?」

 「あれ?そんな話したっけ?」

 「したっけ……じゃないよ!! 膝枕したら、話してくれるって言ってたじゃん」

 「んー忘れちゃった~♪」

 「はぁ?」

 

 じゃあ、膝枕もおしまいだな。

 よいしょ……よい……よ……。

 って、あれ?

 ハスキー先輩の頭が持ち上がらない。

 というか、ハスキー先輩は俺の身体を片手で押さえつけていた。

 

 「ダメだぜ迅雷。 膝枕をやめようとしちゃ」

 「じゃあ彼岸くんのこと話してよ……」

 「ふっふっふっ……おじさんのもふもふに免じて許してくれよ」

 「説得になってない!!」

 「ええい、こうなったら……こうじゃ!!」

 

 ハスキー先輩は、一気に酒を口に含み、そして俺をソファーに寝転がせ、馬乗りになった。

 

 「ハスキー先輩、なにを……」

 「……」

 

 ジーっと俺の目を見つめたハスキー先輩は、次の瞬間俺の口を彼の口で防いだ。

 

 「ん!!んんん!!」

 

 じたばた暴れようにも、ハスキー先輩の方が力は強く、まったく抵抗できない。

 そして、ハスキー先輩の口から酒が俺の方へ流し込まれる。

 歯と下で必死に抵抗するが、ハスキー先輩は酒と共に彼の長い舌を入れてきた。

 次第に、自然と舌は俺の口の中へと入れられ、酒は流れを増して俺の中へと入っていく。

 全て流し込まれたあと、ハスキー先輩は口を俺から離した。

 甘さ、そして喉が焼けるような感触に襲われた直後、俺の意識はボーッとし始める。

 身体が熱い……。

 

 「ぷはっ……それが、大人の味だぜ迅雷」

 「ゲホッゲホッ……うう……頭がくらくらする~」

 「迅雷、お前酒に弱いんだな……まあいいや、それじゃあおじさんがこのあとたーっぷりと楽しいことをしてあげぴゅ!!」

 

 ゴチン!!

 と、強烈な音が鳴り響き、馬乗りになっていたハスキー先輩はぐらっと倒れ、床に堕ちていった。

 その後ろには、フライパンを振りかざした紅葉の姿が見えた。

 直後、俺は凄まじい眠気に襲われ意識を失ってしまた。

 酒って怖いな……。


 俺が次に目を覚ましたのは次の日の朝だった。

 目が覚めると、紅葉が俺の服の袖を掴みながらすやすやと寝ており、ハスキー先輩は壁際にロープでぐるぐる巻きで縛られていた。

 俺はとりあえずその事は見なかったことにした。

 なんというか、昨日……あんなことをされてしまった反動だろうか。

 ハスキー先輩の顔をまともに見れない。

 それに昨日飲まされた酒の影響で頭がぼーっとする。

 

 「はぁ……飲まされた……」

 

 ため息混じりにそう言うと、吐いた息がまだ若干酒の臭いが残っていた。

 とりあえず、顔とか洗わないとな。

 そう思い、紅葉を起こそうとさするが、深い眠りのようですやすやと寝息を立てよだれを垂らしている。

 

 「紅葉、紅葉?」

 「んー、むにゃむにゃ……まてまて肉の妖精さん……むにゃむにゃ……」

 「夢見てるのか?」

 「肉の妖精さん、僕を……むにゃむにゃ……シーチキンに……」

 「いや、シーチキンって魚だから……」

 

 ダメだこれは。

 しばらく起きないな。

 とりあえず俺は紅葉の手を外し、外へと向かう。

 ここはどうやらスタッフの休憩室だったようで、近くにあった扉を開けるとレストランのホールに出ることができた。

 ホールに出た瞬間に、とてもいい匂いがした。

 ふと、厨房の方を見てみると、黄色い耳をピョコンと立たせた彼岸が料理をしていた。

 料理に夢中になっているようで、こちらには気づいていないようだ。

 

 「ひ……」

 

 俺は彼岸に声をかけようとしたが、やめた。

 あんなにも集中しているやつに声をかけて集中を切らしてしまうのは何故か勿体ない気がしたからだ。

 彼岸の調理は進んでいく。

 クーラーボックスから新鮮な魚を取り出し、ものみごとに三枚に下ろしていく。

 そして、できた切り身を軽く墨と藁で燻し、たたきを作っている。

 この燻している間に、更に調理は進む。

 取り出したのは、昨日紅葉が出してくれたチャーシューの残りだった。

 この残りをサイコロ状に切り分け、ボウルの中にいれていたキャベツなどの葉葉野菜、その上に乗せられていたポテトサラダの上に入れる。

 肉から出た汁が、ポテトサラダの表面に淡く移り、飴色状になっていく。

 それが完了するやいなや、奥にある鍋の様子を彼は見に行く。

 ふたを開けると、海産物特有の匂いと共に、貝類のだしの香りがホール内に広がる。

 なんというか、優しい匂いだ。

 

 「よし、そろそろだな……」

 

 そう言って焼きっぱなしで放置していたたたきを火から取り出し、氷水に入れる。

 すぐさま取り出し、木のまな板の上で一枚一枚丁寧にさばいていく。

 さながら曲芸のような美しさ、そして精確さを合わせた技術だった。

 さばかれた魚たちも歓喜のままに色合いを鮮やかに輝かせていった。

 皿の上に宝石のような淡い光を放つ魚たちは並べられ、さらにその彩りを輝かせる生姜やわさびがかけられた。

 思わずあの魚を口にしたときのことを想像してしまい、よだれが出てきた。

 と言ったところで、彼岸と目があってしまった。

 俺はじっと彼を見つめ、彼もまた俺をじっと見つめて固まっていた。

 

 「あ……えっと、おはよう……」

 「……」

 「えっと……」

 「……おはよう、迅雷くん」

 

 彼岸は昨日に比べ、だいぶ優しい顔をしていた。

 怯えている様子は無く、これが普段の彼岸の姿なのだろう。

 

 「昨日は大丈夫だった? ハスキー先輩が無理矢理酒飲ませたから、頭ぐらぐらしない?」

 「あー、まあするかな……」

 「えっとね、そっちに洗面所とかあるから使って。 顔洗ったりしてる間に朝食をテーブルに並べとくから」

 

 そう言って彼岸は俺に真っ白いタオルを渡した。

 勿論、投げつけることなどはせず、ちゃんと手渡しだ。

 俺は彼岸からタオルを受け取り、彼が指定した洗面所で顔をばしゃばしゃと洗う。

 貰ったタオルは、顔をつける度にお日様の匂いがした。

 でも、ハスキー先輩の毛並みの心地よさには敵わないなこれ。

 顔を洗って少しスッキリした俺は、ホールへと再び出てくる。

 ホールの窓際の1席に、ずらりと料理が並べられていた。

 そしてその前に彼岸は座っていた。

 

 「あ、迅雷。 こっちこっち」

 

 少し照れ臭そうにこちらに向かって彼は手を振った。

 俺も何故か照れ臭そうにしながら、席へと向かう。

 

 「さあさあ、食べて食べて♪」

 

 そう嬉しそうに彼は料理を提供する。

 しかし、どれもこれも美しいと形容するほどの輝きを放っていた。

 

 「じゃあ、いただきます」

 

 まずは、これからでしょ。

 しじみの入った味噌汁。

 

 「……はぁ……美味しい……」

 

 心の底から温まるような優しい味付けだ。

 

 「それは、しじみと海藻の味噌汁だよ。 厳選した大豆から作られた特製の味噌と鰹だしで味を整え、しじみと海藻類を使った品さ。 昨日、迅雷は無理矢理とはいえ酒を飲まされたからね。 肝臓を労ってあげなきゃなって思ったから作ってみたんだ」

 「うん、しじみもちゃんと砂抜きされてて美味しいし、なにより心が温まるような優しさが溢れてる……そんな味がするよ♪」

 

 えへへっと彼岸は照れ臭そうにしている。

 

 「じゃあ、次は……サラダかな~」

 

 先程見ていたボウルから別の皿へと取り分けられたポテトサラダ。

 官能的なまでな香り、そしてチャーシューの艶やかさは未だに健在だ。

 

 「……んん、うまい!!」

 「そのポテトサラダにはね、枝豆とカボチャを練り込んでいるんだ。 この二つには、肝臓の解毒を助ける作用があってね……ビタミンも豊富だし、ヘルシーだから朝にはもってこいなのさ。 そして上にかかっているのは、紅葉が作ったチャーシューの残りさ。 まあ、これには説明入らないよね」

 「でもなんでポテトサラダにかけたんだ?」

 「うーん……まあ、これ見ればわかるかな?」

 

 そう言って彼岸はポテトサラダを指差した。

 断面にちりばめられたチャーシューには、ゼリー状のものがくっついていた。

 これは?

 

 「これは煮こごりと言ってね。 コラーゲンを多く含んだ食べ物が冷え固まるとできるものさ。 紅葉は、あのチャーシューを作ったときに鶏の手羽先も一緒に煮込んでいてな。 手羽先からは多くの煮こごりを作れる。だから朝チャーシューをだしたら冷え固まってたんだよね。 コラーゲンは肌にも優しい成分だから、ほっぺたぷるぷるになるぞ」

 

 なるほど……これは煮こごりか。

 この煮こごり、しっかりとチャーシューの味が残っており、ポテトサラダを食べてるはずなのに、濃厚な肉の香りが口の中を突き抜ける。

 

 「これも美味しい♪ 凄いね、彼岸」

 「えへへ♪ それじゃあ、メインディッシュ……【鰹のたたき】召し上がれ」

 

 そう言って俺の前にスッと出された料理は、テーブルに乗っていた料理の中で一番美しさを放っていた品だった。

 宝石のような赤い身に、刻まれた生姜、そしてすりおろされたニンニクとわさびが乗せられおり、その上からポン酢のような酸味が香るタレがかけられていた。

 俺はまずは、生姜を乗せて一枚口に運ぶ。

 

 「ん!!」

 

 いやぁ……俺は驚いた。

 ここまで衝撃的な旨さの鰹のたたきをこれまで食べてこなかったこと……そして知らなかったことを呪うほどに、この味は凄まじい旨さだった。

 

 「じゃあ、それに合わせてご飯も食べてみなよ」

 

 白米が山盛りに積もれた茶碗を手にし、俺は白い宝石を赤い宝石の味が残る口へと入れる。

 

 「ん!!うまい!!」

 

 俺はもう夢中になって食べた。

 優しい味噌汁、考えられたポテトサラダ、宝石のような美しさを魅せる鰹のたたき……。

 どれもこれも夢中になって食べた。

 それを眺める彼岸の顔は嬉しそうだった。

 昨日の怯えていた彼岸より、俺はこっちの嬉しそうに笑ってくれる彼岸の方が好きだ。

 こうしてこの朝をきっかけに俺は彼岸と仲良くなったんだ。 

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