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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:水無月編
29/48

回想禄~【天海の陰陽師その11】

水無月夫妻による紅葉くん拉致、そして神社襲撃事件から1か月後。

 今日、僕はとある病院に来ていた。

 獣人も診てくれる大型の病院施設だ。

 

 「あら?今日もお見舞い?」

 「はい、そうです」

 「毎日、偉いわね」 

 

 すっかりと看護婦さんにも顔を覚えられる程に僕はここに来ていた。

 そして、いつものように大きい病室に入っていく。

 

 「皆さん、来ましたよ♪」

 

 僕は無邪気に明るく振る舞った。

 

 「ほら、皆さん来たんですから挨拶くらいしてくださいよね」

 

 必死になって話題を作る。

 

 「あ、そう言えばあとで吹雪様も来ますよ!! 皆さん、久しぶりですよね?」

 

 だが、兄弟子たちや三将たちからは返事はない。

 まるで屍のようだった。

 水無月女史による【不倶戴天の舞】で身体に無理矢理大量の怨霊を詰められ、そして僕によって無理矢理浄化された結果……兄弟子たちと三将【獄炎】【珊瑚】は廃人となってしまった。

 目は虚ろで、意識があるようには思えないほどの生気しか出していないが、一応彼らは起きてはいる。

 しかしながら、心が度重なる負荷により壊れてしまっているのだ。

 故に、彼らはこんな廃人になってしまっている。

 返事もしない会釈もなし。

 一日中ボーッと虚空を眺めているだけだ。

 だからこそ、僕は明るくしたかった。

 だって、結局はこれを……この状況を作ってしまったのは僕のせいでもあるのだから。

 罪を背負うだなんて、かっこいいことをあの時は思っていたけど……いざ、背負ってみると重い。

 重すぎる。

 僕はずるいんだ。

 無責任なことを思って、無責任に破邪の法を使ってみんなをこんなことにしてしまったのだからね。

 水無月が悪い……きっと、みんなそう言ってはくれるかもしれない。

 でも、僕はそう思えないんだ。

 もっと違う方法で救えたのじゃないのかとか、考えれば考えるほどに悪循環だった。

 

 「では、僕はもう行きますね……」

 

 そう言って僕は病室を後にするのだった。

 そして、毎回のように部屋を出る度に込み上げてくる涙を我慢し、僕はゆっくりとロビーへと向かった。

 陰陽術で、心が回復できたら良かったのに……。

 そう思った事もあった。

 でも、無理なんだよ。

 陰陽術で、廃人を正常までに戻すことはできない。

 心を操る術はあれど、心を治す術はない……。

 だからこそ、僕の心も傷付き、兄弟子たちは元に戻らない。

 心は心でしか癒せない。

 そして、あとは自分自身の力で乗り越えなくてはならない。

 そう言うものなのだ。

 

 「彼岸!!」

 「あ、吹雪様……」

 

 すっかり痩せ細った吹雪様だが、力強い歩みでこちらにやってきた。

 

 「大丈夫? 辛そうよ」

 「まあ、いつもの事ですよ。 師匠の辛さに比べたらまだましです……」

 

 吹雪様は、あの事件の直後……彼らと同様に廃人状態に落ちかけた。

 もちろん、彼女は邪気を流し込まれた訳でもなく、それに伴って受けた浄化による作用という訳でもない。

 単なる気落ちだ。

 神聖な御山を汚されてしまった弱さ、水無月に屈服した油断、そして最愛の弟子たちが廃人になってしまったという現実。

 不幸という不幸が、何倍にも何十倍にもなって彼女に重くのし掛かった。

 一時期は本当にヤバかった。

 錯乱し、自殺しようとまでしたほどに……。

 でも、僕や紅葉くんたちが懸命に彼女に語りかけ、話し、聞くという事をした結果、どうにかここまで戻すことが出来たのだ。

 

 「ありがとう……あなたたちのお陰でだいぶ楽になれたわ。 みんなは……やっぱり、あいかわらず?」

 「えぇ……でも、師匠が行くとみんな絶対に喜びますので、早く行って上げてください」

 「彼岸は、どこに……」

 「いつものように、御山の浄化作業をしてから、雷さんたちが用意してくれた仮住まいに戻ります」

 「分かったわ。 気を付けてね」

 

 そう言うと、そそくさと吹雪様は兄弟子たちの病室へと再び歩み始めたのだった。

 そんな吹雪様に背を向け、僕もまたせっせと歩むのだった。

 

 

 水無月女史によって汚された御山は、その主たる霊力が弱まり、霊山としての機能を果たせずにいる。

 本来ならば、複数人でやる自然物の浄化作業を、僕は毎日毎日こつこつと1人で行っている。

 

 「邪気を祓いたまえ……邪気を祓いたまえ……」

 

 破邪の法は、あの戦闘以降僕は発動できなくなっていた。

 いや、発動は出来るが発動しようとしていない……と言うのが正しいのだろうな。

 一種のトラウマ的状態になってしまっているのだ。

 あんなにも発動させたがっていた術を、僕は今発動させたくないだなんて……なんか、皮肉だな。

 

 「ふぅ……今日は、こんなところかな」

 

 癒しの儀式を終え、僕は山を降りる。

 長い長い階段を、一段ずつてくてくと歩いて降りて行く。

 

 「ふぅ……帰ったら、また紅葉くんが料理作ってくれてるんだろうな……ふふっ。 楽しみ」

 

 紅葉くんの料理はとても旨い。

 これは後に出来るレストラン【迅凱仙(じんがいせん)】でも人気の出るほどの腕前だ。

 この1ヶ月、吹雪様があそこまで立ち直れたのは、ひとえに紅葉くんが頑張って暖かい料理を吹雪様に作り続けたというのもあるだろう。

 あんな、心温まる優しい料理は中々味わえないからね。

 

 「うん、早く帰ろう♪」

 

 そう思って僕の足取りは少しだけ早くなった。

 階段をどんどん下る下る。

 あっという間に階段を全て降りきった僕は小走りで仮住まいへと向かう。

 

 「紅葉くんの料理♪りょう……うっ!!」

 

 それは、唐突だった。

 不意に放たれた拳が僕の腹に入れられ、あまりの激痛に僕はその場で気を失ってしまうのだ。

 だ、誰だ……。

 誰が……こんな……こと……を……。




意識が覚醒すると、そこは白い空間だった。

 というより、白い部屋と言うべきなのだろう。

 辺り一面真っ白。

 かといって、雪やらでおおわれているわけでもない。

 空調は常に一定な部屋だ。

 

 「……!!」

 

 そして、僕はそんな部屋で鎖に繋がれていた。

 足枷、手枷……おっと、ご丁寧に首輪まで。

 更に言うと、服まで脱がされてしまっている。

 普段術で使用している札なんかも、全て取り上げられてしまっている……と言うことになるな。

 

 「まあ、札無くても術くらい……?」

 

 あれ?

 そういえば、身体に宿っている霊力が感じられない。

 なぜだ?

 

 『無駄ですよ、狐の少年』

 

 文字通り足掻いている僕に、よそよそしく言葉がかけられる。

 だが、言葉の主はいない。

 ということは、どこかにスピーカーでも……あった。

 天井にスピーカーがあった。

 白いから、見にくい。

 

 「誰だお前は」

 『ふふっ……おや失敬。 私は【影】。 水無月家の執事長をさせて頂いております』

 「水無月!?」

 

 何時いても、水無月という名は狂ったイメージしか頭に流れてこない。

 あの怪物になった男や、その妻でも……。

 クレイジーにして狂気の産物なのだ。

 

 『はい。 水無月家はあなた方のお陰さまですっかりと壊滅状態になってしまい、執事長の私としては泣くしかありません。失業です。 エーンエーン』

 

 淡々と、最後の泣き場については棒読みに近い喋り方だった。

 この人にとっては、そんな水無月家の壊滅なんてどうでもいい……そんな印象を僕に与えた。

 

 『さてさて、狐の少年くん。

 そんな水無月家の壊滅を祝って……少しパーティーをしようじゃないか』

 

 あー、もう壊滅を祝ってって言っちゃったよ。

 この人もあの人たちのことを狂ってるって思ってたのかな?

 

 「パーティー?」

 『ええ、君のおしおきパーティーです』

 

 あ、前言撤回。

 この人、クレイジーだ。

 

 「おしおきパーティー??」

 

 この単語から、恐らくこのあと何をされるのか僕は分かっていた。

 が、あえて聞き返した。

 

 『おやおや、狐の少年くん。 君はこれから、たーっぷり痛め付けて汚されるんですよ。 その獣人陰陽師としての聖なる肉体を術からもなく、惜しげもなく……ね』

 「嫌だね。 その前に僕は……」

 

 逃げる……と言いたいところだが、やはり霊力が感じられない。

 これじゃあ術が使えない。

 

 『無駄ですよ。 あなたの不思議な力は、水無月様が陰陽師たちから取り上げた鎖の効果で無効化しておりますからね』

 「霊力を封じる鎖……」

 

 だから、僕の霊力は……。

 って、そうなると……!!

 

 「嫌だ!! やめろ、なんで僕なんだ!! あんたが一人でやってればいいじゃないか!!」

 『いいえ……あなた様でないとダメなのですよ。 狐の少年。 水無月様を倒された、水無月家を壊滅に追い込んだあなた様を捧げることで、水無月家の壊滅という事件は終わらせられるのですよ♪ 云わば、起承転結でいうと結ですね。 狐の少年くんは最後に犯され汚され奴隷になりました……めでたしめでたし……とね』

 「嫌だ!! やめろ!!」

 『もう遅い……』


そこからの僕は地獄だった……。

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