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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:水無月編
21/48

回想禄~【天海の陰陽師その3】

 その夜。

 冷血の狩狗や雷閻様……おっと、雷さんって呼べって言われたんだった。

 雷さんたちは、吹雪師匠たちや兄弟子たちと交流を深めている。

 というより、飲み会をしている。

 この御山で作られた御神酒は格別にうまい……とのこと。

 いや、本来は客とはいえここまでしないけど。

 なにせ、生き神のような人が現れたことだしな。

 吹雪様や、獄炎や珊瑚もそこまで止めはしなかったしね。

 え?僕?

 僕はお酒を飲める年齢じゃないし、他の子達はもう寝てしまっているからね。

 一人寂しく、本殿の外れで月を見ながら団子でも食べてるのさ。

 

 「今夜は満月か」

 

 月の光は霊力を高めると言われている。

 神秘的な夜の恩恵の光は、邪を照らす光となりうるからな。

 

 「それにしても、いい月だ」

 「あの……すみません」

 「ん?……!!」

 

 団子を頬張りながら声の方を振り向くものではないな。

 そこにいたのは頬を少し赤めた紅葉くんだったのだから。

 少し恥ずかしい気持ちになってしまった。

 だから噎せた。

 

 「ゲホッゲホッ……」

 「あ、すみません。 僕が突然声をかけてしまったせいですよね……」

 「だ、大丈夫大丈夫。 えっと、紅葉くんだったよね?」

 「はい。 僕の名前は紅葉です。 えっと、すみません……トイレはどこですか?」

 「あー……んじゃ、案内するよ」

 

 これが僕と紅葉の初めての会話だなんて、他人には自慢できないな。

 通路を奥に行って、角にっと。

 

 「ほら、着いたよ」

 「ありがとうございます……!!」

 

 漏れると言わんばかりに、紅葉は急いでトイレへ入っていった。

 ここはトイレというより、(かわや)と表現すべきだったかな。

 まあ、どっちにしても変わんねぇってな。

 数分もたたないうちに、紅葉くんはトイレから出てきた。

 彼が道に迷ってしまうかもしれないから、と僕は一応待っててあげたんだ。

  

 「ふぅ……ありがとうございました」

 「あぁ、いいって」

 「えっと……あなたのお名前は……」

 「おっと、これは失礼した。 僕の名前は彼岸だ。 よろしくね」

 「はい。 よろしくお願いします」

 

 ペコリ、と紅葉くんは頭を下げる。

 いやはや、こんな小さな子がしっかりしてるなと感心してしまいそうになるけど、一応僕たち同い年なんだよな。

 

 「紅葉くん。 こんな遅くだし、今日はもう寝た方がいいんじゃないのかい?」

 「それがですね。 お昼寝しすぎてしまったせいでちょっとまだ寝られないのです」

 「あぁ……」

 

 確かに。

 ずーっと寝てたもんな。

 

 「それじゃあ、一緒に月でも見ながら団子でも食わないかい?」

 「あ、ではではご相伴にあずかります」

 

 ずいぶんと難しい言葉を知っているのだと、僕はただただ感心するばかりだった。

 

 

 そんなこんなで、僕は紅葉くんと一緒に団子を食べながら月を眺めているのだった。

 ここは場所を移して僕のお社さ。

 うん?

 あぁ、僕や他の三将には、神社内で別に屋敷を設けられていてね。

 とはいっても、歴代の三将たちから代々受け継いでいるだけのことだが。

 まあ、自由に開放しているから誰でも気軽に入れるんだ。

 だけど、今回いるここは違うよ。

 ここは、そんな屋敷の中でも僕と吹雪様しか知らない秘密の庭でね。

 たまに一人になりたいときとかは、ここに来ることがあるんだ。

 日本庭園のような作りで、蓮の花の咲く池があるのだ。

 流石にこの素晴らしい景色は独り占めしたい。

 けど、吹雪様は全ての施設の構造を把握しているので、吹雪様だけにはバレてしまったんだけどね。

 

 「うわぁ、綺麗だ~♪」

 

 無邪気にそう感想を述べる彼岸は、可愛いと思った。

 というか、可愛い。

 

 「僕の秘密の庭なんだよ~。 紅葉くん、誰にも言っちゃダメだからね」

 「うん!! わかった♪」

 

 ヤバい、可愛い。

 この満面の笑み。

 超可愛い。

 

 「彼岸くんは、獣人陰陽師なのですか?」

 「そうだよ。 僕は獣人陰陽師だよ」

 

 団子を食べながら、僕たちはお互いのことについて話し合っていた。

 なんと言うか、紅葉くんはすごく気さくで親しみやすい子だった。

 

 「僕はね、雷おじさんとナイトさんに保護して貰ってるんだ」

 「ナイトさん? あぁ、冷血の狩狗(ザ・ナイトメア)さんのことか……」

 「うん。 お兄ちゃんがまだ生きてたときにね、怖い人がお兄ちゃんと僕を狙ってたんだって。 それで雷おじさんは僕を、お兄ちゃんはナイトさんが守ってたんだけど……でも、お兄ちゃんはその怖い人に殺されちゃったんだって」

 「冷血の狩狗でも守れなかったとは……相手はそんなに恐ろしいやつだったのか」

 「うん。 とっても恐ろしい人だって雷おじさんは言ってたよ」

 

 あの雷閻でさえも、恐ろしいと表現するやつとは……。

 

 「でも、そんな相手からボロボロに血まみれになってまで、ナイトさんはお兄ちゃんを守ろうとしてくれたんだ。 お兄ちゃんが死んだあと、ナイトさんはお兄ちゃんのお墓の前で延々と泣いてたから……お兄ちゃん……グスッ……」

 

 紅葉くんはいつの間にか涙を溢していた。

 ポロポロと、でも鳴き声は出していない。

 僕は単純に凄いと思った。

 僕と同い年で、兄を亡くし、それについて語ることもそうだが、それでも涙を堪えようとするその精神力に。

 

 「泣かないで、紅葉くん」

 「うん……グスッ。 もう泣かないって決めたのに」

 「いいんだよ。 辛いときは泣いても。 少なくとも、僕は紅葉くんが泣いてても笑ったりしないよ。 むしろ、笑ってるやつらは許さない」

 「彼岸くん……」

 「そう言えば、冷血の狩狗さんから聞いたけど、紅葉くんって9歳なんでしょ?」

 「うん……そうだけど……」

 「僕と同い年だね♪」

 「え、そうなの?」

 「うん♪」

 

 そう僕が言ったのが、よほど嬉しかったのか、尻尾がフリフリと小気味良く揺れ始める。

 もう、可愛いなこの野郎。

 

 「紅葉くん。 僕と友達になろうよ。 同い年だし、暫くは君はここに滞在するんだしさ」

 「うん♪ いいよ♪」

 

 もう涙を拭いて、ここまで明るい表情になる紅葉くんを僕は強いと思った。

 兄の死を受け入れ、他人にも明るく見せる彼の事を。

 

 「ねぇ、彼岸くん……」

 「なんだい、紅葉くん」

 「眠くなってきちゃった」

 

 ふぁぁ……と、大きなあくびをしている紅葉くんだった。

 まあ、涙を出さないようにする、そして他人に気をつかうというのは、体力的にも相当な消費となってしまうのだろうな。

 

 「うん。 じゃあ、ここで寝泊まるかい」

 「うにゅ……そうす……る……」

 

 コテン、と紅葉くんは僕にもたれかかってすやすやと眠ってしまった。

 もう、やだこの子。

 可愛すぎるって。

 

 「ははっ……やれやれ」

 

 僕は紅葉くんを抱き上げ、布団に運んであげた。

 そしてそのまま一緒にすやすやと眠るはずだった。

 でも僕は眠れなかった。

 だって、紅葉くんが抱き枕のように僕に抱きついてしまって、心臓がドキドキしてしまったからだ。

 なんだこの展開は。

 ここは天国なのかよ……。

 そんな感じで僕は紅葉くんと友達になったのだった。 

  

  一夜明けた。

 全く眠れなかった。

 それもそうだ。

 こんな可愛い生き物に抱きつかれて、おちおちと眠ってられるか。

 しかし、紅葉くんの毛並みは綺麗でもふもふしてるな。

 それにいい匂いもするし。

 

 「ふにゅ~お兄ちゃん……むにゃむにゃ……」

 

 そして寝言がお兄ちゃんという……可愛い。

 同い年だけど、この子のお兄ちゃんになってあげたい位の可愛いさ。

 

 「癒しだな……」

 「ふにゃにゃ……むにゃ? ふぁぁぁぁ……あ、彼岸くんおはよう」

 

 眠そうに紅葉くんはそう言ったが、瞬間現状を把握して顔を赤めていた。

 

 「ご、ごめん彼岸くん!! 僕、寝るときにいつも雷さんに抱きついて寝てたから、ついつい癖で」

 「いやちょっとその発言は待って、大分待って」

 

 まだ。

 まだ、お兄ちゃんに抱きついて寝てたからなら分かるけど、雷さん??

 犯罪の匂いがしてきた。

 

 「ん? ナイトさんにも抱きついて寝てるけど……」

 「あ、そうなのね。 抱きついて寝るってことが癖なのね」

 

 そう言うことか。

 あの紅葉くんを抱っこしていた雷さんの顔がどうにも頭から離れなかったからな。

 てっきり失礼だとは思うけど、変態だと思ってしまったからな。

 

 「なんか、なにかに抱きついて寝るとすごく安心できるんだよね」

 「そうなのか。 じゃあ、お兄さんが生きてた頃はお兄さんに抱きついて……」

 「いいや。 お兄ちゃんが生きてたときは、お兄ちゃんは僕を服の中に入れて……」

 「どんな兄弟なんだよ」

 

 仲良しが行きすぎてる気がするぞ。

 てか、服の中にいれるって……。

 

 「ん?いやほら、肌と肌を直接当てた方が温かくて寝やすいってお兄ちゃんが……」

 「お兄さん、なにしてるんだよ……」

 

 吹雪様が語っていた程に本当に凄い人なのか、紅葉くんのお兄さん。

 いや、ある意味凄い人だけど……。

 

 「彼岸くんもやってみる?」

 「やらねぇよ!!」

 「え~。 雷さんはやってくれたのにぃ…」

 「やったんかい!!」

 「ナイトさんもやってくれたよ」

 「やったんかい!!」

 「ナイトさんはお兄ちゃんとおんなじ感じだったけど、雷さんは変だったな……なんか、下の方で固いものが当たってて」

 「朝からとんでもねぇ話だ」

 

 雷さん……あなた、本当に変態なんですね。

 

 

 さて、朝御飯を食べる前に湯浴みをしてこようと紅葉くんを誘って社内(やしろない)の浴場に来ていた。

 なにせ、昨日は風呂も入る前に寝てしまったからね。

 

 「うわぁ♪ すごく大きい‼」

 

 紅葉くんは少し興奮していた。

 まあ、確かに桧のこんなに大きな風呂は無いだろうからね。

 

 「彼岸くん、洗いあっこしようよ♪」

 「うぇ?! まあ、いいけど……」

 

 僕と紅葉くんは互いに石鹸を泡立たせ、互いの身体を洗う。

 しかし、僕の泡立ちに比べて紅葉くんは凄い泡の量だ。

 どんだけ泡立ちのいい毛並みなんだよ。

 

 「ほらほら、彼岸くん……ちゃんと、尻尾も」

 「あぁ……い、や……やめ……」

 「ここが気持ちいいのかな?」

 「ひ、ひぃ……ぁぁ……」

 

 なんでこんなに尻尾洗うのうまいんだよ、この子は。

 気持ちよすぎて、変な声出たわ。

 くそ……負けてられるか。

 

 「じゃあ、紅葉くんも尻尾を綺麗にしようね」

 「うん、お願い♪」

 「んー、やっぱり凄い毛並みいいねぇ……」

 「でしょ♪ お兄ちゃんとおんなじ毛並みなんだ♪ まあ、ナイトさんには負けちゃうけど」

 「へぇ……」

 「んっ……」

 「紅葉くんは、ここが好きなのかな?」

 「あひゃひゃ!! くすぐったいよ」

 「こうしてやるぅ~」

 「あははは♪」

 

 そんな楽しそうな声が浴槽中に広がるのだった。

 可愛いげのあるシーンだろ?

 ある意味サービスシーンってやつだ。

 雷さんが飛んできそうな感じな光景ではあるけどな。

 

 「さあて、身体も洗ったことだし……湯船にいくか」

 「わーい、温泉温泉♪」

 「それーい♪」

 

 と、僕と紅葉くんはザバーン、と湯船に向かってダイブした。

 普段、兄弟子に見られると絶対怒られるけど、今はいないし。

 同い年の紅葉くんもノリがいいし、最高だな。

 

 「はぁ~いいお湯だ~」

 「でしょ。 ここの風呂場は全部天然の温泉だから、身体の疲れも取れるさ」

 「ありがとうね、彼岸くん。 色々としてくれてさ」

 「いいって。 だって、友達じゃん」

 

 そう僕が言うと、紅葉くんは照れ臭そうにしていた。

 そして、僕もいった台詞を思い返し恥ずかしくなって顔が赤くなっていた。

 うわぁ、あんな臭い台詞吐いてたのかよ。

 

 「えへへ……あ、そう言えば」

 「ん?どうしたんだい、紅葉くん」

 「雷おじさんとナイトさんにここにいるって言ってなかったな……」

 「あぁ、そう言えば……僕も吹雪様たちに紅葉くん連れてこっちに来ること言うの忘れてた」

 「うん……騒ぎになってなきゃいいんだけどね」

 「前になにかあったの?」

 「うん。 雷おじさんとナイトさんで前に服を買いにいったことがあるんだよね」

 「へぇ……なんか可愛いね」

 「なんか、入店したら専属のスタッフが何人か常についてくるようなお店だったんだけどね」

 

 いや、それ……セレブたちが愛用するショップなんじゃ……。

 ってことは、すごく高い場所なんじゃないか、そこ。

 

 「そこでね、僕迷子になっちゃってさ」

 「あらら……」

 「とりあえず迷子になった自覚はあったから、近くのベンチに座ってたんだ。 困ったときは下手に動かない方がいいってね」

 「しっかりしてるな……」

 

 いや、しっかりしてたらそもそも迷子にならないのか。

 

 「んでね、おじさんたちを待ってたらなんかお店がテロにあっちゃってさ……」

 「急展開!!」

 「でもほら、おじさんとナイトさん、強いからテロリストたちをぶっ倒したんだけど……」

 「事件解決じゃん」

 「その勢いで店のスタッフも倒しちゃったんだよ」

 「なんで?」

 「『私の天使が迷い混むとはなんたる暴虐!! こんな迷路みたいな店なんかぶち壊してやる』って叫んでて、それでおじさんを見つけられたんだ」

 「おい、待て待て待て待て……え、雷さんってそんなにぶっとんでるの?」

 「僕が絡むと見境が無くなっちゃうみたい……まあ、ナイトさんもなんだけどね」

 「ってことは、今って危険なんじゃ……」

 

 といった話をしてたら、外から大声が聞こえる。

 

 「おぉぉぉぉぉい!! 紅葉!! どこだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「返事しろ、紅葉ぉぉぉぉ!!」

 「あ、雷おじさんとナイトさんの声だ」

 

 いやいやいや。

 そんな可愛い反応しないでよ。

 この声はどうみても、怒鳴り声だって。

 

 「雷おじさん!! ここだよぉここぉ!!」

 

 と、紅葉くんは声を出すが……そんな普通の声量で聞こえるのか?

 なんて思っていると、勢いよく浴場の扉は開かれた。

 最初にやって来たのは冷血の狩狗さんだった。

 浴場だが、服を着たまま入ってきちゃったよ。

 

 「いた、紅葉!!……って、彼岸くんも?」

 「おはようございます、冷血の狩狗さん。 申し訳ないです。 紅葉くんがここにいることを連絡しておくのを忘れておりましたゆえ」

 「いや、無事ならいいんだ。 あぁ、紅葉……心配したんだぞ」

 「ナイトさん、ごめんなさい……でも、昨日の夜は楽しかったよ♪ 彼岸くんにお団子を貰って一緒にお月見してたんだ♪」

 「あぁ、そうか……うん。 無事ならいいんだ」

 

 冷血の狩狗はそう言うと、自身が濡れてしまうことを構わずに、湯船にいた紅葉を抱き寄せた。

 本当に心配していたんだな……。

 なんか、悪いことしちゃった。

 

 「おお、いたいた……探したよ、紅葉……」

 

 ここで雷さん登場。

 だが、なにやら様子がおかしい。

 僕と紅葉くんの姿を見て、ふるふると身体を震わせている。

 なんだ?

 

 「マ……」

 「マ?」

 「マーベラスゥ!! なんだここは、ショタワールドなのか?天使たちなのか?天国なのか?ここは!!」

 「「「えぇ……」」」

 

 ドン引き……。

 

 「おじさん、おじさん……生きててよかった……さぁ、天使たち……おじさんの元に……ぎゃん!!」

 「やめなさいよ、師匠」

 

 冷血の狩狗は近くにあった桶を、雷さんの顔に投げつけ倒した。

 そのまま雷さんは鼻血を出して倒れた。

 その間に僕と紅葉くんは冷血の狩狗に連れられ浴場を脱出したのだった。

 なんというか、危機一髪だったな……。

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