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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:序章【運命的な出会い】
2/48

泣き虫狐の受難

 皆さんどうも。

 語り部の天野迅雷(あまのじんらい)です。

 先日は、獣人たちの隠れレストランである【迅凱仙(じんがいせん)】に行って来ました。

 そのあと、狼シェフこと紅葉に麓の村に送って貰うのと、とある指輪を貰いました。

 この指輪は、普段結界が張られている迅凱仙に入るために必要な通行証のようなものらしいです。

 あ、ちなみにこの指輪は他人に譲渡出来ないおまじないがかけられているそうです。

 もしも、俺が任意に他人に譲渡しようとすると、俺の迅凱仙の記憶と共に消滅するらしいのです。

 でも、正直に言ってそれは困ります。

 だって、あの官能的な料理を2度と食べれなくなる……そして、紅葉やハスキー先輩たちに会えなくなるのは嫌だしね。

 さてさて、本日はというと、俺は再び迅凱仙に来ています。

 しかし、指輪を付けてると、森に入って徒歩5分くらいの場所に迅凱仙があるとは……。

 序盤でさ迷っていた俺のキャラ設定がぶれてしまいそう。

 まあ、それはひとまず置いときましょう。

 今日来たのは他でもなく、紅葉が料理を作ってくれるから、というのです。

 

 「紅葉の料理、楽しみだな♪」

 

 いつものようにガラリとしたレストランのとある席に俺は座っている。

 ハスキー先輩は、二日酔いらしく近くにあるソファーでうなだれていた。

 紅葉に聞いたところ、ハスキー先輩の一回の飲酒量は、だいたい3升以上らしい。

 いやいや、流石に飲み過ぎだろうって。

 

 「ふんふん♪」

 

 厨房から紅葉の楽しそうな鼻唄が聞こえてくる。

 いったい何が出てくるのか、楽しみだな。

 その時、レストランの扉が開き、お客が来たベルの音が店内に鳴り響く。

 

 「ただいまなのです」

 

 そう言って扉を潜ってきたのは、黄色い毛並みと青色のネクタイを首からぶら下げコック服を着る狐の獣人だった。

 店内を見回した狐獣人と俺は思わず目が合う。

 が、その直後。

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 人間がいるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 と、狐獣人は厨房の方へと駆けていった。

 途中、色んな物にぶつかったようで食器が割れる音や、金属食器が床に落ちる音、そして狼シェフが叫ぶ音が聞こえた。

 そして、頭を殴られる音も。

 直後、紅葉に首根っこを掴まれた狐獣人が厨房から引き摺り出された。

 

 「うわっ!! いや、いや……人間怖いよぉ…… 」

 「大丈夫だって。 迅雷はいいやつだよ」

 「人間嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 「うるさい」

 

 ゴチンと狐獣人は紅葉に頭を殴られる。

 痛そうに頭を撫でながら、半べそをかいている狐獣人はそのまま紅葉にずるずると引きずられ、俺の近くまでやって来た。

 

 「迅雷、こいつは僕の同期の彼岸(ひがん)。 こいつもシェフでね。腕は確かだが……極度の人見知りの性格なんだよ。特に人間に対してはね……」

 「ああ、そうなんだ。 よろしくね彼岸くん。 俺の名前は迅雷だよ」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ人間が喋ったぁぁぁぁぁ」

 

 いやいや……そこに驚くのかよ。

 どこか的はずれな気がするな……この狐シェフ。

 

 「ごめんごめん、さあ紅葉。 挨拶も済んだんだから解放してあげなよ。 別段俺は彼を怖がらせたい訳じゃないのだから」

 「いや、それなんだけどね? こいつ極度の人見知りな上に極度のドジっ子でな。 犬も歩けば棒に当たる、猿も木から落ちるのレベルを軽く通り越してて、正直調理中の厨房にあまり入れたくないのだよ……だから、ちょっとここで大人しくしてて欲しいんだよね」

 「あ、じゃあハスキー先輩の近くにいればいいじゃん。 そうすれば、俺の近くにいなくて済むじゃん?」

 「いや……それがね……」

 

 紅葉が試しにハスキー先輩の近くに彼岸を連れていこうとすると、まるで岩のようにガッチリと固まってしまう。

 テコの原理でも動かせないのではないかというほどに、テーブルにしっかりとしがみついてしまっている。

 

 「前にハスキー先輩が酔った勢いで色々やっちゃってから、仕事してるとき以外のハスキー先輩には近寄らなくなっちゃったんだよね……ハスキー先輩、仕事中は物凄く頼りになる人だからさ……」

 「も、もう……甘噛みされるの嫌だ……全身の毛繕いされるの嫌だ……うう……」

 

 あーあ。

 トラウマになってるんだね。

 確かにハスキー先輩、俺がやって来た初日も酔って、紅葉が止めてなかったら俺は何されてたんだろう。

 甘噛みさせろとは言ってたから、噛まれるのは確定だとして……ってなに考えてるんだ俺は。

 

 「うーん、しゃーないな。 じゃあ、彼岸くんが怖がらないように、店内の端っこに座るから、彼岸くんはその反対側の隅っこにいればいいさ。 それなら、問題ないよね?」

 「あー、それは名案!! 彼岸、それでいいかい?」

 「うぅ……まあ、まだそれなら……でも、絶対に近付かないでよ!! 絶対にだよ!!」

 

 彼岸はそう言うと、紅葉を引き連れ店内の端の方へとそそくさと向かっていった。

 それにしても、何故彼岸は人間が怖いんだろう。

 何かされたのかな?


 厨房からリズミカルに聞こえる調理の音と、お腹を空かせる香しい匂いがするなか、テーブルが並ぶ広いこの空間は異様なまでの気まずさがあった。

 人間、人間嫌いの狐、二日酔いの犬。

 どうやったらこんなカオスな状況が生まれるのだろうか。

 狐シェフ彼岸は、俺の方を終始警戒しながらじっと睨んでいた。

 俺が水を飲む動作をすることさえにもびびって毛と尻尾を逆立てる程の厳重な警戒体勢だ。

 一方。ハスキー先輩の方はといえば、昨日の酒が抜けきれていないようで、こちらは終始ソファーでうなだれている。

 時々吐きそうに嗚咽をしているが、吐くことはなく再びうなだれる。

 こんな堂々巡りが繰り返されているこの空間にいると気が参ってしまいそうだ。

 

 「……人間怖い……」

 「なあ、どうして人間が怖い……」

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!話しかけてくるな!!」

 

 だめだ。

 彼岸とコミュニケーション取ろうとしても、彼自身の心が完全に拒否してしまってるから無理だ。

 

 「う、ううん……」

 「ハスキー先輩?」

 

 いつの間にか起き上がっていたハスキー先輩は、俺の近くまでやって来た。

 そして、俺が飲みかけていた水をごくごくと飲み干して、そのまま俺に寄りかかってきた。

 

 「うわっ、ハスキー先輩。 酒臭い」

 「昨日、紅葉に気絶させられたあと復活して直ぐ様飲み直したからな……うう……」

 「ちょ、ハスキー先輩。 頼むから、吐かないでよ!!」

 

 俺の胸元に顔を押し付け、ハスキー先輩は苦しそうな声をだす。

 普段はうるさいほどに動いているであろう尻尾も、今日はだらんと垂れ下がっている。

 見かねた俺は、ハスキー先輩の頭をそっと撫でる。

 すごい……この肌触り。

 さらっとした中に、もふもふがきちんと反映されている。

 凄く心地よい毛並みだ。

 

 「ぁあ~それ、気持ちいい……」

 「そうか。 なら、これもかな?」

 

 俺はハスキー先輩のほっぺたにある毛をわしゃわしゃっと撫でてみた。

 よほど気持ちよいのか、ハスキー先輩の顔つきはでろーんとだらしなくなっていた。

 

 「あひゃぁ~。 迅雷、テクニシャン~」

 「ハスキー先輩の毛並み凄くいいね……これ手入れとか大変じゃないの?」

 「いんや、普通に身体洗うくらいしかしてねーぞ~。 ブラッシングは毛が生え変わる時期ぐらいにしかやらねーしな~」

 「ふーん……わしゃわしゃわしゃ」

 「あ、あ……そこそこ♪」

 

 耳元を撫で回わし、かき回すとハスキー先輩は先程まで二日酔いであったということすら忘れ、ただただ心地よい気分に浸っていた。

 そして、そんな様子を店内の端から羨ましそうな目で彼岸は見ていた。

 俺がハスキー先輩の顔や耳を撫でる度に、「羨ましい……」「気持ち良さそうだな……」という小言をぼやいていた。

 

 「彼岸……ほら、今こそ迅雷に馴れるチャンスだよ」

 

 いつの間にか厨房から出てきていた紅葉は、彼岸の前に立ってそう言っていた。

 

 「あれ? 紅葉、料理は?」

 「もう終わったよ~。 これから出すから皆で食べようよ」

 「う、うん……で、でもね……人間は……」

 「分かってる……お前が昔、何をされたのかも……でも、そいつらと迅雷は別物だ。 もしも迅雷がお前に昔みたいな危害を加えるなら、その時は僕が守ってやるから……な?」

 「紅葉……」

 

 彼岸は彼の服の袖を引っ張り、今にも泣きそうな顔で彼を見つめていた。

 無二の友の言葉が強く響いたらしく、彼は嬉しかったのだ。

 だからあれは、嬉し泣きなのだろう。

 

 「ハスキー先輩。 そろそろ、紅葉が料理持ってきてくれるみたいですよ」

 「おお。 そうか。 あいつの料理は二日酔いにいいからな……よいしょっと」

 「ハスキー先輩?」

 「ん?なんだ?」

 「なんで俺の後ろに座るの?そして何故、二人羽織みたいな体勢で後ろから抱きついてるんだよ」

 「お前が撫でてくれたお陰でだいぶ二日酔い良くなったから……お礼?」

 「お礼ってなにが……うわっぷ」

 

 後ろを振り向くと、すぐ目の前にハスキー先輩のもふもふがあり、俺の顔を覆った。

 あー……太陽で干された布団みたいな感触と匂いがする。

 

 「気持ちいいだろ?」

 「もふもふ……最高です……」

 

 この感触は料理とはまた違って中毒になりそうだ。


 俺がハスキー先輩のもふもふを堪能していると、官能的な香りが店内に立ち込める。

 思わずよだれが出てしまう。

 この匂いはなんだ?

 

 「みんな~できたよ♪」

 

 料理台車を押し、彼岸を引きずりながら紅葉は俺とハスキー先輩の方へと向かってきた。

 台車に乗った皿は、蓋がされており、先程した官能的な香りが少しだけ漏れだしていた。

 いやまて……この状態ですでに際立った香りってことは、実物があの蓋が解放されたときに放つであろう香りの爆弾の威力は計り知れない。

 

 「さあさあ、みんなで食べるよ♪」

 

 紅葉が蓋を開けた瞬間、俺の鼻には香ばしい肉の匂いが突き抜けた。

 焼肉の匂いではない、ステーキとも言いがたいし、唐揚げでもない。

 なんなんだこれは。

 

 「本日の料理は、鶏肉のムニエルと鶏チャーシューの燻製焼きだよ~」

 

 蓋が開けられ公開された皿の上には、緑色に敷き詰められたキャベツの千切りの上に、バターの香ばしい香りと夕暮れ時の空の色合いに似た衣を羽織る鶏肉、そしてその隣に鎮座するのは、黄金色に染め上げられ、切り口から溢れたであろう肉汁が満遍なく塗りたくられた鶏肉のチャーシューだった。

 だが、単なるチャーシューではない。

 燻製したと言っていた。

 だからか、ここまでの香ばしい香りが引き立てられているのか。

 

 「んじゃみんな、食べよっか♪」

 

 紅葉はそう言って、自身が調理した料理を手際良く全員に配った。

 皿の上に取り分けられた肉は、まるで芸術品のような盛り付けがなされていた。

 そして、切り口から溢れでる肉汁と、鶏肉のチャーシューの香ばしい匂いが空腹感を俺たちに与える。

 紅葉以外の者は、すっかり皿に目を奪われてしまう。

 先程までもふもふを堪能していた俺や、もふもふを提供してくれたハスキー先輩、俺やハスキー先輩を怖がっていた彼岸でさえきちんと各椅子に座り、料理を見つめていたのだ。

 

 「じゃあ、みんな召し上がれ♪」

 

 紅葉の合図と共に俺たちはしっかりといただきますを言ってから、料理を堪能した。

 俺はまず、鶏肉のムニエルから……。

 ナイフとフォークを使って一口サイズに切るのだが、切った途端に香ばしいバターの香り、そしてその香りが引き立てられる肉の香りがした。

 必死にでるよだれを抑えながら、フォークでそれを口に頬張る。

 一噛みする度に、口の中を官能的な味と香りが支配する。

 

 「「おいひい!!」」

 

 俺やハスキー先輩、彼岸はもの見事に声を揃えて言う。

 そして、再び肉を口へと運び夢中になって食を楽しむ。

 

 「良かった~♪ 鶏肉のムニエルはね、使用する鶏肉に下味だけを軽くつけて5日間寝かせて熟成させたんだ。 だから、香りも去ることながら味わいに深みも出るしね。 それに軽く小麦粉をまぶしてバターでカリッと焼き上げると、より肉の味が引き立てられて、美味しくなるんだよ♪」

 「紅葉、凄く美味しいよこれ♪ 初めて食べたってレベルの新しい味わいだよ……」

 「あー、この肉食ったらワインが欲しくなるぜ」

 「ハスキー先輩、二日酔いだったのでは?」

 

 皿のムニエルはきれいに無くなった。

 さて、次は……鶏肉のチャーシューだな。

 チャーシューは、初めから切り分けられており、変にナイフを入れる必要はない。

 しかしながら、フォークを差し込んで分かるのだが、この肉の柔らかさと来たらびっくりする。

 その肉を口の中へと運び、一噛みすると……肉汁と燻製の香りが口の中で合わさって旨さが爆発した。

 

 「「ん、んいひん」」

 

 全員、口を開けたくなかった。

 開ければ、この旨い香りを逃がしてしまうからな。

 

 「鶏肉のチャーシューはね、まず表面を軽く焼いてから、リンゴチップを使って燻したんだ。 そのあとに、特製のタレに浸して、数時間放置したものだよ。 燻すことで肉に、香りをコーティングしてからタレに入れてるから、タレの匂いと燻製肉の香りがうまく調和して香り深いものができたんだ♪ そして、表面を最初に焼き上げてくことによって中心部はゆっくりと加熱されるから、肉は程よく柔らかくなるってわけ。 肉の中心部分は鶏肉本来の味わい、肉の外側は燻製と特製のタレによる2段階の味の変化。 さしずめ、3段階の味の変化が楽しめる料理になってるよ」

 「う、うまひぃ」

 「ん~♪」

 「最高……」

 

 狼シェフこと、紅葉の料理に全員が酔いしれていた。

 こんな味の世界を知ってしまったら……もう戻れない。

 ここの料理は、恐ろしく中毒性が高いものばかりだと俺は思いながら、肉の味を堪能するのだった。


 すっかりと紅葉の作った料理に酔いしれてしまって、いつの間にか日が暮れていた。

 赤い木漏れ日が、店内のテーブルを赤く彩っていた。

 紅葉とハスキー先輩は、後片付けをしてくるとのことで、食器を持って厨房の方にいる。

 今ここにいるのは、人間である俺と、人間嫌いで臆病な狐シェフ彼岸だけだ。

 彼岸は、相も変わらず部屋の隅っこでこちらを警戒しながら椅子の影に隠れてチラチラと見ている。

 時折、尻尾をふりふりとばたつかせているが、なんの合図なのだろうか。

 

 「ほい、お待たせ~食器の片付け終わったよ~」

 

 紅葉は、陽気に厨房から出てきた。

 そんな彼の手には、一本のくしが握られていた。

 あれは、髪とかを手入れするものというよりかは、動物の毛並みを整えることに特化した少し大きめのブラシだ。

 

 「ねぇ、迅雷。 このブラシを使って、ちょっと僕の顔をブラッシングしてくれないかな」

 「え?ここで?」

 「あー、大丈夫大丈夫。 あとで抜けた毛は掃除するから、料理には入らないよ♪」

 「まあ……ならいいや……」

 

 俺は紅葉からブラシを受けとり、彼を自分が座っていた椅子に座らせる。

 そして彼の後ろに回って、俺は紅葉の毛をブラッシングし始める。

 流石は調理場に立つだけあって、そこまで目立った毛玉は現れず、単に彼の毛が整えられていっているだけであった。

 だが、紅葉はそれが気持ち良いらしく、顔が緩んでいた。

 

 「あー……すごい……気持ちいい……やっぱり、迅雷ってブラッシングというか撫でるの上手いんだね~」

 「まあ犬とか猫とか飼ってた時期があったから、それなりにな~」

 「そうなん……あ~そこそこ~♪」

 

 紅葉は首もとが気持ち良いらしい。

 どれ、少し集中して攻めてみるか。

 

 「ほら、紅葉……ここだろ?」

 「あぁ……そ、そこ……う、うぁぁぁ……」

 「こうしてやる~」

 「あぁぁぁぁん///」

 「もっと欲しいか?」

 「も、もっと……もっと激しく……」

 「ん?聞こえないな……」

 「あ、う……」

 「聞こえないから、止めちゃおっかな……」

 「も、もっと……もっと、首もとを撫でてください!!」

 「よし、ほらご褒美だ」

 「ぁぁぁぁぁぁああああ♪」

 「お前らAVかよ!!」

 

 ハスキー先輩のツッコミが入ったところで我に返った俺は、静かにブラシを置いた。

 紅葉は、何故か服がはだけており、肩がちらりとはみ出て、少し頬を赤めていた。

 

 「も、もう……じ、迅雷ったら……テクニシャン……」

 「やめろ!悪のりはもう俺やめたんだから、お前もやめろ!!」

 

 紅葉はノリが凄く良くて、たまにこういう感じな事をすると、後にハスキー先輩から聞いた。

 それにしても、展開が……本当に、R-18指定になってしまいそうな展開だったぞこれ。

 ナイス、ハスキー先輩。

 

 「よっしゃ、んじゃ紅葉の次は俺の番だな」

 

 と、ハスキー先輩は近くから椅子を持ってきて、どかりと座り込んだ。

 なんだか、床屋みたいだ。

 またちょっと悪のりしてみるか。

 

 「お客さん……本日はどこをブラッシングで?」

 「んー、そうね~じゃあ、尻尾を頼む」

 

 ハスキー先輩はそういうと、椅子の隙間からはみ出ていた尻尾をこちらの方に垂らした。

 俺はブラシを取り、尻尾を撫でようと、まずは軽く尻尾を掴んだ。

 すると、ハスキー先輩は思わず声を漏らしてしまう。

 

 「んっ……///」

 「は、ハスキー先輩……大丈夫?痛かった?」

 「い、いや……大丈夫だ。 続けてくれ」

 

 ハスキー先輩は、顔を手で抑えていた。

 なんで顔を隠すんだろう。

 まあいいや。

 

 「はい、ブラッシング開始~」

 

 俺はハスキー先輩の尻尾の付け根からゆっくりとなぞるようにブラシを入れていく。

 その度にハスキー先輩は、ビクッと身体を震わせていた。

 しかし、ハスキー先輩の毛並みは本当に綺麗だな。

 滑らかで心地よい肌触りだ。

 

 「じ……迅雷……も、もうそろそろ……やめに……」

 「待って、まだ裏側が残ってるから……」

 

 と、俺はハスキー先輩の尻尾の裏側にブラシを入れた。

 そのとたん、ハスキー先輩はなんというか歓喜の叫び声を上げた。

 でもなんでだ?

 なんでこんな恥ずかしそうないやらしい声を出すのだろうか。

 全身を身震いさせ、ハスキー先輩は腰から崩れ落ちていったのだった。

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