極地に交わる希望と絶望
前回までのあらすじ。
白魔導師シロンによって、ハスキー先輩たちの居場所がわかった。
それは、極地【南極大陸】であった。
おわり。
と、いうことで……やって来ました南極大陸。
「寒い……」
身を震わせ、何重にも着こんだ上着をぎゅっと押さえる。
息が凍る……そんなレベルの寒さに完全に俺はやられていた。
「うん、ちょっと寒いね」
とか言いつつ、紅葉は簡単なダッフルコートを羽織っている程度だった。
そのレベルで済むのが羨ましい。
「ふふっ♪ そうね♪」
吹雪さんに至っては、神託用の服しか着ていない。
流石はホッキョクギツネの獣人。
寒さには強いってか。
「というか……雷オーナーにシロンさん。 なにしてるんですか?」
そう紅葉が目をやる先には、毛布にくるまって震えているシロンさんと雷オーナーがいるのだった。
というか、ここ……外なんですけど。
「だ、だって寒いじゃん」
「我々猫科に寒さは天敵です」
確かに、尻尾の先まで凍ってしまいそうな勢いで二人は寒がっている。
「あははは。 情けないわね、シロン」
「皮下脂肪多いデブは黙ってろ」
「あんたをここで雪像にしようかしら?」
あぁ……なんかまた喧嘩始まりそう。
そんなときこそ紅葉くんからの一言。
「オーロラ見れるかな~」
あ、喧嘩の方にご興味ないようです。
「それにしても、こんなところに本当にハスキー先輩いるのかな?」
「紅葉……お兄ちゃんの魔法を疑うのかい?」
「いや、シロンお兄ちゃんの魔法の凄さは知ってるよ。 でもさ、ふと思ったんだよね……明らかに、誘われてるんじゃないかな~って」
確かに……南極大陸には人間は住んでいない。
唯一いるとすれば、獣人たち……特に、冬に強い種のものたちがごく少数滞在しているだけだと言う。
「まあ、誘われててもなんにせよ……水無月とは戦う事になるのだから……どこでもかわら……ハクチョン!!」
シロンさんはぶるぶると震えている。
いやぁ、本当に寒い。
「というか、シロンさん。 魔法でどうにかならないんですか?」
「……!!」
その手があった……と言わん顔をシロンさんはしていた。
なんか、ちょっと抜けたところあるな……。
「耐寒を付加」
シロンさんが手を振りかざすと、俺たちの体は淡い赤色に包まれる。
お、おおお!!
「すごい……寒くない!!」
あんなにも寒かった環境から、いきなり変わるとビックリしてしまう。
「シロンさん、暖かいよ♪」
「まあ、外気の寒さは変わっていないけどね。 僕たちの身体に寒さに対する力を付加しただけさ」
「付加?」
「付加とは、魔法の一種でね。 対象物に通常とは違う力を与える力なのさ」
すごい、よくラノベとかで見るやつだ。
まさか、現実に存在するとは……。
「まあ、でも……寒いし~、迅雷くんちょっと……」
そう言ってシロンさんは手招きをしている。
なんだろ?
と、迂闊に近づいた俺の腕を掴んでシロンさんは、ぐるりと自分の首元に巻き付けたのだ。
いや、これってもう巻き付いたというより、俺がシロンさんに抱きついてる感じになってるぞ。
「暖かい~」
「シロンさん、毛並み良いですね。 特にここの耳とか……」
「あぁんん///」
「え?」
周りにいた一同は思わずシロンさに目が行く。
いつも毒舌のシロンさんが、なんかすごい声出したぞ。
「じ、迅雷くん。 猫科の耳は触っちゃだめ。 神経が多く通ってて敏感なんだから……」
「あ、ごめんなさ……」
「ひゃんんん/// 耳に息当てないで……」
シロンさんが頬を赤めて懇願している。
なんだこの状況は。
「え、じゃぁ……離れ……」
「ぃやぁ……」
ぎゅっと俺の腕を握りしめて、シロンさんは顔の毛を擦り付けている。
俗に言うマーキングというやつか?
「あらあら……シロンがそこまで気に入るだなんて……迅雷くん、マタタビでも持ってるんじゃないの?」
「あ、持ってます」
「「持ってるんかい!!」」
全員が見事に声を揃えて俺に言う。
そうだそうだ。
ポケットにいれっぱなしで忘れてた。
「雷オーナーがさっき落としたから拾ったんです」
「雷オーナーが?」
「ええ、私はマタタビを常時持ち歩いておりましてね。 こうしていると、なにか落ち着くんですよ」
なにがどう落ち着くのやら……。
「じゃあ、シロンさんは今……酔ってる?」
「いいえ、そこまで強力なものじゃないですよ。 どちらかといえば、猫科の獣人は少し興奮すると素が出てしまうものなのですよ」
「例えばこれとか?」
と、紅葉が懐から自分の小さいときの写真を取り出して雷オーナーに見せる。
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 紅葉くん最高!! あぁ、あの小さいお手手を一日中舐めまわしてたい……」
「ビリビリ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
紅葉が真顔で自分で効果音をつけて、写真を破り捨てた。
そして雷オーナーは雪原に立たせると分からなくなりそうになるまでに真っ白になってしまったのだった。
空に映えるカーテンが美しくなる位の暗さになった頃、俺たちは南極大陸で野宿をすることになった。
まさか、この極寒の地に来てまでこうなってしまうとは……。
とはいっても、雷オーナーが持参した水陸両用の船の上だけどね。
今は南極大陸のとある海上……空の景色を見ながら、みんなで晩御飯を食べていた。
いやまあ、本当ならばすぐにでもハスキー先輩たちを探しに行くのが普通なのだろうけど……。
「いやぁ、凄いね……ブリザード」
と、船外の一定区域を白で埋め尽くすそのさまを見て紅葉は言う。
そうなのだ。
今、南極大陸は全域にブリザード……つまりは、猛吹雪が襲っている。
この船の周りをシロンさんが魔法で覆っていなかったら、今頃はあの暴風雪の中に居たことだろう。
「いやぁ……それにしても、紅葉くん。 料理美味しいね」
シロンさんは、夢中になって紅葉の作った料理を食べている。
とても美味しそうに味わって、モグモグと。
その小さな口を動かしている。
「まあ料理人だし。 今回はみんなが温まるような料理を目指してみました」
「えへへ。 美味しい♪ 少なくとも、吹雪が作る料理とはレベルの差がハッキリ分かるのがいいね」
「一言余計よ、シロン!!」
「えー、だってお前の作った料理ってよく調味料間違えてるんだもん」
そんなドジっ娘なのか、吹雪さんは。
「あと、迅雷くんが作ってくれたこのお茶も……良い感じで温まるよ」
「ありがとうございます。 シロンさん猫舌だからってことで、シロンさんだけ少し温度を下げたものを出してますけど、大丈夫ですか?」
「うん、その気遣い本当に君は……素敵だね」
にこりと微笑むシロンさんに思わず俺は照れ臭くなって顔を隠してしまう。
なんだか、褒められるのって恥ずかしいな。
「あらあら、シロンが珍しく口説いてるわね」
「ば、バカ!! 別に口説いてなんか……」
「えへへ、ありがとうございます。 シロンさん♪」
そう笑顔で返すと、シロンさんは顔を真っ赤にしてそそくさと外に出ていってしまった。
そんなシロンさんを見て吹雪さんは笑っていた。
からかわれやすいんだね、シロンさん。
こうして、南極大陸の夜は更けていったのだった。




