希望は未来を照らす
あれから1週間経った。
未だに雷オーナーは戻ってこなかった。
ハスキー先輩たちが誘拐された直後、俺たちは迅凱仙に急ぎ帰った。
あの場にいたら、また水無月たちが襲ってくると考えたからだ。
そして、雷オーナーはすぐに情報を集めに出掛けた。
なにせ相手は行方知れずの魔法使いだ。
すぐに見つからないとは思ったけど……雷オーナーの情報網ですら中々ヒットしないのかな?
「紅葉……二人きりだねぇ~」
「うん……なんか、二人きりだとお店が広く感じるね」
「そうだね……いつものように、ハスキー先輩が酒飲んで、彼岸がドジして、雷オーナーが変態で、それでも平和なレストランだったのに……」
はぁ……と二人揃ってため息をついていた。
こんなにも人が居なくなると、とたんに寂しくなってしまうものだ。
当然ながら、この状況下ではお店は出来ない。
だから、臨時休業という扱いにしている。
「雷オーナー遅いね……」
「だねぇ……」
「うーん……紅葉……」
「なに、迅雷……」
「もふもふしていい?」
「暇だし、心寂しいから是非是非……」
俺は紅葉を膝の上にのせて、ぎゅ~っとした。
服の袖などから出ている毛が、顔に擦れてなんというかこちょばしい。
でも、悪い気はしない。
むしろ、気持ちよかった。
「あー、迅雷にもふもふされるの落ち着く……」
「ブラッシングもしようか?」
「うん、してして♪」
スッと、どこから取り出したのか分からないが、紅葉はくしを俺に渡した。
紅葉のブラッシングポイントは、耳元と首筋だ。
その辺をうまい具合にしてやると……。
「にゃはは~ん♪ 気持ちいい♪」
という感じな猫なで声をあげるのだ。
まったく、狼の癖に。
「ねえ、迅雷。 甘えていい?」
「いいよ。 どうせ、誰もいないから……」
「えへへ♪」
こうしてたまに二人でいるときにやっていた、ナデナデしてあげる行為もなんだか馴れてきたな。
ちなみに、ナデナデワシャワシャもふもふが1セット分だ。
途中でやめたりなんかすると、紅葉は拗ねてしまうからな。
「あぁ……///」
「だから、エロい声を出すな。 まるでR-18な事してるみたいじゃないか」
「だ、だって……迅雷の……が、気持ちいいんだもん///」
「変なところで文を区切るな!! ますますR-18な感じがするわ!!」
とまあ、こんな感じでじゃれあっていると、カランコロンとレストランの扉が開く音がした。
そして、ボロボロの服装の雷オーナーが入ってきた。
「た、ただいま……」
そう言ってバタン、と雷オーナーは倒れてしまった。
そんなオーナーを気にせず、ずかずかと二人の獣人がレストランへと入ってきた。
一人は前に彼岸がレストランに招待していた白い狐獣人。
そしてもう一人が、黒い猫獣人だ。
白い狐獣人の方は巫女服を。
黒い猫獣人の方はいかにも魔法使いですという帽子に、民族衣装のような服装をしているのだった。
「わぁ♪吹雪お姉ちゃんに、シロンお兄ちゃんだ♪」
紅葉は目を輝かせて彼らのもとへと駆け寄って行った。
「あらあら紅葉♪久しぶりね♪」
和服越しでもわかるほどの巨乳な吹雪さんの胸に紅葉は抱き寄せられた。
しかしながら、すぐにぐいっとシロンさんは紅葉を吹雪さんから引き剥がし、自身の方に抱き寄せた。
「やめろよ吹雪。 紅葉が窒息しちゃうだろ!!」
「あらあら、スキンシップですし。 それに、小さいときからこうして胸の谷間に……」
「紅葉大丈夫か? あんなおばさんの胸に挟まれて苦しくなかったか?」
「誰がおばさんよ!! くそ魔法使いが!!」
「誰がくそ魔法使いだ!!」
あぁ……なんか喧嘩始まりそうな雰囲気。
しかしながら、ここで紅葉から鶴の一声。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……喧嘩はダメだよ」
うるっとした目で悲しそうに紅葉が言うと二人はピタリと動きを止め、紅葉にデレデレし始める。
いやはや、紅葉……恐るべし。
「おや、君は確か……迅雷くんだったね。 改めまして、私は吹雪。君のよく知る彼岸のお師匠様だ。 そして、こっちの黒猫がシロン。 友達ながら言うのもなんだが、天才的な魔法使いだよ」
「これはこれは、どうも……」
俺はペコリと頭を下げる。
スッと頭をあげると、シロンさんがすぐそばまで来ていた。
「ふんふん……」
「な、なにか?」
シロンさんは俺の身体の匂いを鼻を近づけて確認している。
「ふーん。 あの雷さんが言ってたことは確かなようだね。 半信半疑だったけど……」
「シロンさ……ひゃん!!」
ペロッと首筋を舐められて、思わず変な声が出てしまった。
え、なんで舐められたの?俺。
「ふむ、人間の身体だが間違いなく……あいつと同じ味ぃぎぃ!!」
「いきなり人様の身体を舐めるんじゃないよ!!」
ゴツン、と吹雪さんの拳がシロンさんにクリーンヒットし、シロンさんは目を回して倒れてしまった。
「あ、あの吹雪さん。 雷オーナーはなぜお二人を?」
「ん?あー、いやね。 たまたまシロンと会ってるところを雷オーナーが訪ねてきてね。 事情を聞いたら、私の弟子があの水無月に捕まったって言うじゃない。 だから、助っ人できちゃった♪」
「あー、そうだったんですね。 ちなみに、お二人はどこにいたのですか?」
「宇宙ステーション」
「え?」
「だから、宇宙ステーションよ。 ほら惑星の周りを飛ぶ人工物で……」
いやいや、それは分かるけど……。
「何故に宇宙ステーション?」
「まあ同窓会をそこでやる予定だったから行ってたのよね」
豪華な同窓会だな……。
「まあその宇宙ステーションも個人所有のものだったから、別に好きにさせて貰ってたけどね」
「個人所有の宇宙ステーションって……どんな資産持ってたらそんなことできるんですか!?」
「……まあ、それは置いておいて……」
と、吹雪さんはレストランの客席の一席に腰を下ろした。
「さてさて、状況は雷さんから聞かせて貰った。 まさか冷血の狩狗と天海の彼岸が一瞬でやられてしまうレベルの化け物になってしまったとは……相変わらず水無月一族は……。 だから、私たちが呼ばれた理由もおおよそ分かっている。 楓の死体に憑依してしまった水無月夫妻を引き剥がして無力化すること……そして、二人の救出と言うわけだね」
「ええ……そ、その通りです……」
雷オーナーは細々と声をだし、酷く疲れきった顔を床に埋めた。
というか、雷オーナーはどうやって宇宙ステーションにいったのやら。
ボロボロってことは、まさかまさかだけど……生身で宇宙にいって帰って来たとか言う訳じゃないよね?
流石に違うよね?
「まあ、任せてよ……お兄さん……それにおば……お姉さんたちは強いから」
今シロンさんおばさんっていいかけたよね。
吹雪さんからの一瞬でた殺気にビビって訂正したけど。
「それにしても、君は本当に楓と似たような匂いしてて……こうなんだろ……」
「ん?」
「落ち着くというか、安心するというか……」
そう言ってすり寄ってきたシロンさんの首もとをそっと撫でてみる。
おお、流石は猫獣人。
暖かくさわり心地が良い。
「ゴロゴロ~にゃあ♪」
「あはは♪ シロンがそうやって喉鳴らすのって楓以来見たことないわよ♪」
「はっ!! ついつい気持ちよくて……」
顔を赤めたシロンさんは深々と頭にしていた帽子を深く被った。
照れ屋さんなのですね。
なんだか、俺もこの雰囲気は初めてなはずなのにどこか懐かしい……そんな気持ちになっていたのだった。
白い毛並みをした狐獣人の女性……吹雪さん。
彼女は彼岸の獣人陰陽師の師匠らしい。
とはいっても、今の彼岸は彼女にひけを取らないほどに強くなっているはずとのこと。
しかしながら、彼岸にはまだ教えていない術がいくつかあるらしいとか。
ともあれ、霊に強い陰陽師が居てくれるのはありがたい。
そして、黒い猫獣人にして白い魔法を使う白魔導師シロンさん。
彼は見た目は少しおどおどしそうな雰囲気ではあるが、とてつもなく毒舌である。
「あー、おばさんの臭いと腐った虎の臭いがしてやだやだ」
先ほどからこの調子である。
吹雪さんはやれやれとした表情でスルーしているし、雷オーナーは相当の疲労からか言い返すことすら出来ずに椅子に腰かけだらーんとしている。
「シロンお兄ちゃん。 あんまり悪口とか言わない方がいいよ?」
「いいんだよ紅葉。 お兄ちゃんはこういうキャラなんだから。 昔からそうなんだよ?」
さすがの紅葉もそう言われてしまったら言い返せないようだ。
なるほど、思い当たる節があるというような表情をしている。
そして俺もそんな様子を自然だと感じていた。
俺の中にいる前世……楓が覚えているのだろう。
「さて、では早速だが……雷さん。 水無月の行方をご存じですかな?」
「いいや。 私の情報網でさえ撹乱されてしまっていて、現状分からずにいます。 あの夫妻にゆかりのある場所は優先的に探したのですけどね」
「なるほど……では分かっているのは、拐われたのが駄犬と泣き虫狐くんだけだということですね」
シロンさん本当に毒舌だな……。
「伝説の殺し屋【冷血の狩狗】こと、ハスキー先輩、そして最強の獣人陰陽師【天海】の彼岸……この二人が今水無月によって連れ去られたことは事実だ」
「では、水無月も必然的にそちらにいる……で間違いないですね?」
「おそらく…… 」
「では話は早い……」
そう言ってシロンさんは懐から緑色の本を取り出した。
なにかを念じながら本を開くと、中から光輝く文字たちが宙へと飛び出してきた。
「こ、これは……」
「迅雷くん。 これはシロンが持っている【魔導書】でね。 彼自身通常でも魔法は使えるのだけど、あの本を使うことによって更に能力を高めているのよ」
「でも、魔法っていったい……」
魔法……俺の知る魔法はおとぎ話やらファンタジーでよく聞く単語だ。
ありとあらゆる現象を引き起こせるもの。
悪魔との契約により発動できる力……などなど。
様々な諸説あれど、実在することは確認されていない力……それが魔法だ。
「でも吹雪さん……陰陽術とはどう違うんですか?」
「そうね……私たち獣人陰陽師が使う陰陽術は特定の工程を踏まなければ会得できない【技術】に対して、魔法とは元々この世界にある【技法】と言えば良いのかしら?」
「技術と技法……?」
「そう……陰陽術は特別な段階を踏まなければ使えない上に才能のあるもののみに継承される技であるのに対して、魔法は元々誰でも使うことができる技……つまりは、やり方さえ分かれば誰でも魔法を使うことができるってことよ」
誰でも魔法を使える……。
その言葉は、とても安易に聞こえるがそれは同時に脅威でもあるということだ。
誰でも……つまりは、正義や悪というものに関わらず誰でも……。
「とはいっても、勿論魔法の理論は現在この世界で使うにはそれなりの知識が必要だからね……水無月程度に扱えるものではないわ 」
「ですか……少し安心しました。 悪人の手に落ちたと考えると……特に、水無月たちに落ちていたらどうなっていたやら……」
「ええ。 前にあいつらは人間の陰陽師の術を会得して私たちに挑んできた……幸い、彼岸たちによって事なきを得たけど、あの当時はショックでそうとう精神的に堪えたからね……」
辛い記憶が呼び起こされたのか……吹雪さんは目元にうっすらと涙を浮かべていた。
きっと彼女は彼女なりに、なにかされたんだな……水無月たちに。
「おいおい、君たち。 というか、吹雪。 僕の魔法の解説はそろそろやめてくれ。 お前に説明されたのでは、肝心な部分が迅雷くんに伝わらないだろ。 バカめ」
「はいはい、わかりまーしたー」
「では、迅雷くん見たまえ。 これが僕の魔法だよ」
そう言ってシロンさんが本に手をかざすと、宙に溢れていた文字が列を組み、規則正しく並んでいく。
そして、その文字たちは大きな地図の形になって空間を埋めつくしたのだ。
まるでプラネタリウムのような光景に思わず息を飲んだ。
圧巻……と言うべき事象が目の前で起こると、こうも人は黙ってしまうものなのだね。
「標的探索……」
文字たちはシロンさんの声を認証し、その動きを活発化させる。
光の文字たちはまるで小さな台風のようにぐるぐると回転しながら、再び形を組み出していく。
「見つけた!!」
シロンさんは、空中に並び変えられた文字の形を見てそう言った。
いや、でもそこって……。
「二人は今、南極大陸にいる!!」




