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狼シェフと愉快なレストラン  作者: ただっち
第1部:水無月編
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回想禄~【冷血の狩狗その4】~

 先ほど俺や雷師匠が何故敵の接近に気がつかなかったのか。

 それは、奴らの特殊な服も関係している。

 この武装は、光学迷彩装置内蔵の最新戦闘スーツだ。

 俺は先ほど倒した兵士の服を剥ぎ取っ てその構造や仕組みを理解した。

 この光学迷彩と言うのは、俗に言う透明スーツ……すなわち、視覚による検知を不可にするものだと理解してくれればいい。

 勿論、その対策も奴等から奪い取っている。

 サーモグラフィー内蔵のスナイパーライフルだ。

 サーモグラフィーとは、熱源を色で表示するシステムで、このスコープを覗くと温度の変化を見ることができるのだ。

 いくら光学迷彩とは言え、温度までは隠すことができない。

 あとは匂いで調べることも可能だが、こちらはなにぶん反応が少し遅れてしまうのが難点だ。

 故に俺は視覚を選んだのだ。

 

 「待ってろよ、楓……」

 

 おそらく、楓を拐ったやつらは水無月の元へと向かったはず。

 俺は元来た道へと歩みを進める。

 瓦礫の山々がひしめく数時間前までは美しかった研究施設。

 楓が研究を行っていたラボや、その他の研究室にいたるまで、もはや原形を留めていなかった。

 ガラスの破片や、先ほどまで働いていた職員たちの死体、灰となった論文などどれもこれも通常の者たちならば目を覆いたくなる光景だろう。

 だが、それでも俺は進まねばならない。

 依頼人であり最愛の友となった楓を救うために。

 

 「……着いたな」

 

 俺は先ほど居た中庭が見下ろせるところまでやって来ていた。

 そこからサーモグラフィーで中庭を映し出すが、残念ながらやつらは既に居なくなっていた。

 

 「くそ……」

 

 俺はひとまず中庭へと降りる。

 楓と一緒に過ごしたこの中庭に立てられていた木は、すっかりガラス片が刺さり、傷だらけになってしまっている。

 だが、それでもこの木は倒れなかった。

 そのお陰で俺は、木に彫られたメッセージを見ることができたのだ。

 

 「この筆跡……楓だな」

 

 おそらく楓はここに連れてこられた後、どうにかこの木にメッセージを彫ったのだろう。

 恐らく追い詰められた状態で書いているせいか、文字が上下逆になっていた。

 首を横にし、改めて文字を見てみるとこう書いてあった。

 

 【under】

 

 アンダー……つまりは、下と言う意味になる単語だ。

 俺は以前、楓から施設について説明を受けたときの事を思い出していた。

 この研究施設の地下には危険な実験を行うための閉鎖された実験施設があるのだと。

 しかも、それは研究施設の主任以上のIDパスワードと指紋認証システムをクリアしなければ開かないようになっているとか。

 水無月の野郎のことだ。

 楓が持っている情報をすぐにでも聞き出したいはず。

 そして俺や雷師匠の脅威を知っている以上、下手に外に逃走することはまず無いだろう。

 ならば場所はもうここしかない。

 俺は地下にある研究施設へと向かう。

 確か入り口があるのは、今いる施設の正面ロビーだったな。

 だがその時、小さいガラスの破片が割れる音がこだまする。

 俺は直ぐ様、手持ちのサーモグラフィー付きスナイパーライフルを構える。

 おお、いるいる。

 目視では視認できていないが、熱源的にはやつらはここにいる。

 そう……水無月が生み出した合成獣人たちがな。

 

 「おい、貴様ら……楓を返してもらうぞ」

 

 そう俺が言うと、一斉にやつらは俺に向かって襲いかかってくるのだった。

 

 

 奴らの戦闘方法は無難な方法だった。

 数名が後ろに残り、銃弾で援護。

 そしてその他のメンバーは近接戦闘でナイフやら警棒やらで俺に襲いかかってくる。

 敵さんはサーモグラフィー系のゴーグルを着用しているらしく、恐らくお互いがきちんと見えている。

 だから、間違っても味方に弾を当てるだなんてことはしてこない。

 まあ、そんな風にしていてもまず俺に弾を当てることも、ましてやナイフやら警棒やらを当てることも叶わないがな。

 

 「どうした?終わりか?」

 

 俺は一切汗やら息切れすら起こしていない。

 だが、光学迷彩で隠れている奴等の息は途切れ途切れになっている。

 まず、近接戦闘でやって来ている奴らに対して俺はフットワークを駆使し、最小限の動きで完全に攻撃を見切りかわし続けた。

 敵がいることさえ自覚しているならば、敵が攻撃してくる際の空気の流れの音で動作や動きは予測できるからな。

 次に後方支援をやっている連中。

 こいつらには、サーモグラフィー付きスナイパーライフルを近接戦闘の攻撃をかわしながらお見舞いしている。

 もちろん奴らも撃って来てはいるが、弾丸を放つ銃の激鉄の音で場所はすぐにばれてしまう。

 そんなの俺にとっては、次に攻撃が来る方向をわざわざ教えてしまっているようなものだからな。

 位置と音さえ分かればそりゃかわせるってもんさ。

 まあ、こんな芸当できるの事態がそもそもおかしいから、良い子は真似しないでね。

 

 「んじゃまあ、そろそろとどめだな」

 

 そう言って俺はライフルを握ったまま、手刀を構える。

 そして、近接戦闘で近くに居たやつらの心臓目掛けて片っ端から突き刺していった。

 まるで串団子のように次々と兵士たちは俺の腕に刺さっていく。

 そうそう、刺さると光学迷彩装置が壊れちゃうみたいでさ。

 ご覧の通り……ほら、死体が俺の腕に貫通して突き刺さっただろ。

 そして俺は死体を後方支援をしてる奴らの方にぶちまける。

 いくら光学迷彩をしていても、その上から光学迷彩で落とせない別の色を重ねてしまえば、そもそも透明になっている意味はない。

 故に連中は、どこに誰がどのようにしているのか丸分かりだ。

 

 「じゃあな♪」

 

 俺は奴らに対して笑顔を見せ、次の瞬間地面から石を拾い上げ、奴らの頭目掛けて投げた。

 前にも説明した通り、俺の腕力は水無月によって異常なまでに強靭なものになっている。

 故に、その辺に落ちている小石ですら投げようものならマグナムの一撃と大差ない威力を発揮する。

 だから、連中は頭にぽっかりと穴を空け、赤色の液体や脳をぶちまけ死んでいった。

 悪いな。

 お前らになんの恨みもないけど、俺の邪魔をするってことはこうなる運命だったってことさ。

 ほら、人間だって邪魔くさいハエとか蚊をうざいからと言う理由でなんにも感じずに殺すだろ?

 それとおんなじことをしているだけだ。

 だから、俺はこの兵士たちが死のうが何しようが全然なにも感じない。

 俺が心配なのは楓の安否と、水無月を今回で殺せるかどうかと言うことだけだ。

 本当にそれ以外はどうでもよかった。

 本当に……本当に……。


地下施設には一体何があるのか……それを前に楓から何気なく聞いたことはある。

 そして、なぜ楓がそこに連れていかれたのかも……なんとなく分かっていた。

 

 「よし、ここだな……」

 

 一階フロアのロビー近くにある、地下施設への入り口。

 当然のようにロックがかけられている。

 しかもこのセキュリティは非常に高度なもので、容易に開けられるものではない。

 簡単なものなら、その辺にあるクリップでも使ってものの数十秒で開けられるのだがな。

 入り口をぶち壊すという手もあるが、この手のものだと、衝撃を検知したら別のセキュリティが何十にも使われそうだ。

 先程の爆発でもおそらく発生したのだろうが、1度この扉を正常に開けてしまえば、解除される仕組みになっているようで、異常時のランプは点灯していない。

 どうやら、楓のIDを使ったようだ。

 そして、なにより一番気になっているのは、この血の跡。

 致死量には至らないが、点々と地下施設へと向かっている。

 この血の匂い……楓の匂いだ。

 恐らく拐われ、無理矢理ここを開けさせられたのだな。

 安心しろ、楓。

 そんなことをさせた連中は、ちゃんと殺してやるからな。

 

 「しかし……ここをどうやって開けるか……ん?」

 

 ふと、地面に目をやると、瓦礫の塊の中から楓の匂いがした。

 急ぎ中を探ると、楓のIDカードが布に包まれて出てきた。

 流石は楓……抜け目ない。

 それに、IDカードの裏にパスワードまでご丁寧に。

 

 「よし、これなら……」

 

 扉に備え付けられたIDカード認証システムにカードをかざし、電子パネルにコードを入力する。

 ピーっという電子音の後、扉は開かれ地下への道が開かれる。

 俺は躊躇なく、地下へと向かう。

 勿論手ぶらだ。

 武器なんか特にいらないからな。

 

 「……しかし、なんだここは……」

 

 そこは、俺の予想より上をいく施設だった。

 というか、俺は恐怖していた。

 この施設はなんというか、かつて俺が捕らえられていた軍事施設のような場所に似ていた。

 ものは入っていないが、怪しい色をした液体の容器がズラリと並べられ、通路には破られた論文、そして楓の血の跡が奥へと続いていた。

 楓……お前たちは、ここで何をしていたんだ。

 いや、何を研究していたのだ。

 

 「この施設は、楓を助けた後に破壊だな……」

 

 胸くそ悪いこの場所は、本当を言えばすぐにも消し去りたい。 

 だが、楓を助けなければ。

 そして、事情を聞かなければ。

 考えないように、最悪は考えないように……そう思いながら、前へと進んだ。

 時折現れる兵士も、光学迷彩で隠れていた敵も、躊躇なく殺した。

 俺の手は血まみれだが、そんな事は気にもならない。

 今は、楓だ。

 そして、水無月を殺すこと。

 それしか、頭にない。

 

 「楓!!」

 

 最後の扉を勢いよく開ける。

 そして俺は目を見開いた。

 そこには、鎖で縛られ、痛め付けられ、何か怪しい薬を首筋の刺された管から流し込まれている楓と、その前で優雅に紅茶を飲みながらそれを眺めている水無月の姿があったのだ。

 

 

 「やあ、遅かったねぇ。 検体01号きゅん。 君の大事な親友はぁ、見ての通りぃ……薬を飲んで貰ってるよぉ」

 

 にこりと微笑みながら、水無月は紅茶を飲む。

 俺は怒りで身体が震えていた。

 また……また、この男は……。

 

 「水無月ぃぃ……今すぐ楓を解放しろ……」

 「あはっ♪ そう驚くことも無かろう……君に関わってしまった以上、彼にはお仕置きが必要だからね……。私の最高傑作である01号きゅんに触れていいのは私だけだ……私だけのものなのだよ、君はね」

 

 そう言うと水無月は、持っていた紅茶の入ったカップを投げ捨てる。

 そして、俺の方へと歩み寄ってくる。

 

 「ふふっ……検体01号きゅん……」

 「や、やめろぉ……く、くるなぁ!!」

 

 あの時の恐怖を思い出した俺は一歩下がってしまった。

 そして、注意力が一瞬落ちたため、隠れていた敵への反応が遅れてしまった。

 光学迷彩で隠れていたその兵士は俺になにかを打ち込んだ。

 途端、俺の視界は歪み始める。

 

 「な、なんだこれは……」

 「うふふっ……やだぁ、効き目早すぎぃ……」

 「水無月ぃ……何を……」

 

 なんだこの薬は。

 身体が異常なまでに熱い。

 

 「それはねぇ……獣人の発情を促す薬なんだぉ。 私はねぇ、この楓きゅんを捕らえて最初は殺そうとしたんだけど、どうせなら面白い余興が見たくなってねぇ……」

 

 パチン、と水無月が指を鳴らすと、一斉に光学迷彩を解いた兵士たちが現れ、その鍛え上げられた肉体を露出した……そして、これからが地獄だった。

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