9 そらのはて
クノール村のカノン、アリシア両名は『同盟者』の手紙を発見した模様。
―――手紙の内容を翻訳しますか? 承認。
手紙の内容を別ウィンドウに保存しました。ご確認ください。
「はいはい、と」
文章内において契約違反、禁則事項に抵触する恐れのある事案を発見。
リストアップを開始します―――完了。
「っげ。あんの野郎……。両名の詳細を頂戴」
承認。カノン・サクラダ。性別、女性。身長―――。
「それはいらん。欲しいのはふたりの力量と装備、それとこの後の予測進路。あとついでにクノール村周辺のカルマ濃度と巫女の木、御大樹の場所の情報も空撮で頂戴」
承認。検索を開始します。
現在の両名の力量、両名ともに『BAR』の基礎を習得。装備、木符のみを取得。『同盟者』の手紙から『BAR』の鍛錬を開始する模様。また、三つ目の手紙から木符オプションパーツ『ホルスター』を取得。装備情報を更新しました。
「ん。あー。バルってなんだっけ?」
解答。BAR。木符を利用し、アルマエネルギーを活用する三大基礎能力。ブーストのB、一時的な身体能力向上。エリアのA、範囲内影響行使力。リアライズのR、物質の実体化。その基礎が現地住民によってバルと呼称されています。より詳細の情報が必要であれば―――。
「あ。いらない。ちょっと思い出してきた。どうせこっちは使えないし別に良いんだけど、まだ記憶曖昧なのかなあ」
警告。治療の継続を推奨します。
「うるさい。これ以上寝てなんかいられるか!」
夜のように暗く、薄い明かりだけが優しく照らす空間にひとりの女がいた。
女は広い空間の中心に位置する巨大な球体の前で椅子に座る。
赤い髪は長く、座していると床にまでつきそうなほどである。
『カルマの発生ポイントを特定。及び、巫女の木、御大樹の情報を更新しました』
球体から音声が届く。
「ありがと。それじゃとりあえず朝ごはん食べるわ」
女は椅子を立つ。
椅子は空中に浮いており、女が立つと自動で球体下部に収納された。
『現在時刻をクノールと統合。修正完了。朝食パッケージを用意しました』
「…………またあったかい飯が食べたいな」
「宇宙食のため、熱処理は完了しています」
「ちがうんだよなあ」
ボソっと呟いた女の言葉に、機械の応答が虚しく響いた。