8 ニホンゴ2
「それって―――生きてますの?」
「うーん。たぶん大丈夫でしょ。自分から消えるかもって書き置き残すくらいなんだし」
「まるで不安しか感じませんわ」
「わかるけどそれ以外の言い方、思いつかんもん。そもそも全部が師匠の妄想かもだし」
ひらひらと紙をたなびかせながらカノンは言った。
「なにはともあれ。消える可能性があって、どこから来てるかもわかる書き置きまで置いてったんだから、あとはたどり着いて一発殴ってやるだけでしょ。消えるかもしれないんなら事前に言っておけ! って」
眠たそうな瞳で悪戯に想像を膨らませて笑顔を歪ませるカノンに、アリシアは膨れっ面を作りながら、
「納得いきませんわ!」
「うぉう。なにが」
「わたくしだって翻訳くらいしてみせますわ! 資料をよこしなさい!」
「あー。そっちね」
ひとりだけ理解を得ているカノンに嫉妬したのか、いつもの怒声に変わったアリシアがカノンからふたたび情報の紙をぶん取った。
「わかった。じゃあちょっとボクは御茶いれてから寝る。昨日から寝ないでホンヤクしてたからそろそろ無理ぃ」
ふらふらとした足取りで、カノンは日の当たらない家の奥へと消えていく。
アリシアはその背中を妹でも見るかのように見届けるのであった。
日本語で書かれた紙が朝日に乗った風ではためく。
文章の一節には『太古の科学』という文言が添えられていた。