6 ここまでたぶんプロローグ
「ずっこいですわ」
「うん。あれはずるい」
帰り道の道中、男は延々と背中から針のような視線を突き立てられていた。
「あんな化物いるなんて聞いてないし」
「そもそも化物がいることをご存知ですのに隠していることがイヤラシイですわ」
「そんなことないですぅー。これが教育というものですぅー」
老け顔の男が負けじと返すと、少女ふたりは真顔になって、
「爺さん。年齢考えて」
「威厳の欠片もありませんわ」
ひどい言い草だった。
「いやちょっと待って欲しい。なんどか言ってるけど、俺は老け顔になっているが実年齢はそこまで爺さんではない」
「じゃあおっさん」
カノンが畳み掛けるように言った。
「いや、おっさんでも……いやおっさんでもないとは言い切れないけどまだギリセーフだと思うんだけど。ダメかな」
「知りませんわよ」
逃げるように男はアリシアへと話題をふるが、冷たく切り払われた。
「俺も色々秘密が多いのよ? 君らと会って一年ちょっとだけど、武道場の師匠のほかに色々やってんだから」
「だから、いつも聞いてるじゃないですか。なにをしてるんですか? って」
「……言えない」
「そうやって濁すから爺さんって呼ぶんですよ」
カノンが拗ねるような口調で男に返した。
「いや。こっちだって言えるなら言いたいけどさあ。契約とか禁則事項とかってもんがねえ」
なおもうだつが上がらず、うだうだと繰り返す男を連れて、一行は村へと帰還するのであった。
そして、その日を境に、男は村から姿を消した。