5 こうぎ
「最後もーらい!」
「ああ! ずっこいですわ!」
アリシアが木符を飛ばした直後、カノンが切り込み3体のカルマをひと振りで浄化させた。
「ずっこいですわよ! 横取りですわ!」
「のんびりしてるほうが悪いんですー」
ぎゃあぎゃあと口喧嘩をする少女たちに、男はゆっくりと近づいて行く。
「うん。君らホント強くなったよね。危険度Fとはいえ傷ひとつなく課題をクリアできるくらいだし」
取っ組み合いを始めていた少女たちは、絡み合ったまま顔だけ向けると誇るように笑顔を浮かべた。
「もう一人前だからねー」
「当然ですわ! このわたくしからすればこの程度、造作もないこと!」
「あー。うん。ホント、強くはなったのにね。だから舐めてかかると―――ほんとに死ぬぞって口酸っぱく言ってんのにね」
「「え??」」
男の言葉にふたりが疑問符を脳裏に浮かべた直後、背後から寒気と悪寒が風に流れて身体を障った。
ヒュゥゥゥ、と。背後の風が慌ただしく渦巻いている。
ただ、時間にしてそれはおよそ1秒にも満たない。ナニカを感じ取るだけで、それがナニカを判別する思考すら追いつかない。文字通りの、
「あっ」
っという間である。
振り向くとそこには、遺跡の地下から飛び出してきた巨大なカルマ、馬の足に人の上半身を付け替えたような、奇妙な姿のカルマがその切っ先を伸ばしていた。
怖いという感情や逃げなきゃという恐怖心の前に、認識という思考が先走る。
馬の足、4本足。
胴体から上は人型のようで、腕がふたつある。
顔のような形をしているが、やはり眼も口も耳もない。
その腕から、槍のように尖った切っ先が背後を襲う。
身体を貫かれる光景が脳裏をよぎった。
真っ暗闇のなかで、バンっ! と、壁に衝突するような鈍い音がふたりの少女の耳に届いた。
どうやら恐怖で瞳を閉じていたらしい。
カノンとアリシアが恐る恐ると視界を広げると、そこには見えない壁に激突し、すべての足を糸で拘束されたカルマがいた。
「というわけで、今回の講義は命の危険もあることを身を持って知ってもらうことでした。……なんども言ってるでしょうが。お家に帰るまでが任務だぞ」
男は展開していた木符に念をこめる。すると糸を通して淡い光がカルマの身体を包み込み、人よりも大きなカルマは空虚に溶けて消えていった。