15 最後の力技
「ハイブースト――アイン、ツヴァイ、ドライ」
三枚の木符を取り出して、身体強化の下地を作る。念をこめた木符は発光し、それらをすべて『ホルスター』へとセットする。最後の強化、三重の強化を終える。
身体は光に包まれ、一時的な身の軽さは常識を凌駕する。
あとは右腕の『ガントレット』から、アルマを直接コアへと叩き込むのみ。
『――いまです!』
アリシアの声、それに答えて床を蹴り上げた。
跳躍は数メートル先まで届く。身体強化と鍛えた身体は軽く、3メートルの巨体であるカルマの中心も安々と届く。
――コアは頭部下、胴上部。
「らあああああああああああああああ!」
床から柱へ飛び移り、そしてコアへ。
右手に力を込め、その全力を叩き込んだ。
バシィン! という鈍さと亀裂が割れる高さが混じる音が響く。
「――波動弾!!」
叩き込まれたカノンの手甲から、アルマの力が光の矢となり、一直線に貫いた。
ピシりと、カルマのコアに確実な亀裂がはいる。
「やった―――いやまだだ!」
勝利を確信した直後、違和感に襲われる。
カルマのコアは破損することで消滅し、すべての実体を無くすはず。それがまだ始まっていない、となれば。
ギギギギギ、という重苦しい音を伴い、カルマの腕が抱き寄せるようにカノンへと近づく。
「だっ。くっそ! 抜けない!」
全力の踏み込みと打撃はカルマの身体を貫いた。そして、カノンの右手はカルマの体内に残ったままだ。
「なら――直接握りつぶしぃぃい!!!」
ぐぐぐいっと、身体ごと全体重をかけるように手を伸ばす。
――くっそ! あとちょっとで届くのにっ!
「任せなさい……!!!」
後方支援を専門に扱うアリシアはカノンに比べてブーストの扱いに慣れてはいない。さらに長引いた戦闘によりブーストの木符が切れかけており、ただ息もキレキレに、よろよろと近づいてくる。
カルマの身体がコアへの接触を拒絶するかのように痙攣を起こし、その魔の手がさらにカノンへと伸びていく。
「―――ひぅっ!!?」
その手がカノンの首へと触れ、全身の毛が逆立った。
けれどカノンは動かない。その手を伸ばし続ける。
「はやくっ、しろぉ!!」
「サンドイッチ、ですわぁ!!!!」
カルマの身体から辛うじて透けて見えるアリシアの姿が、カルマの背後へヨタヨタとたどり着いた。
そして。
実体化された白金の杖を大きく振りかぶり―――。
「―――ええええええええいいいい!!!!!」
どがん、と。背中を押し込んだ。逆方向から押し込まれた力により、カルマコアがカノンの手まで近づき。
「届いた!」
その手にカルマのコアが触れ、カノンが最後の力を込める。
木符で生み出されたガントレットによりアルマが流れ込み、カルマのコアは静かに黒い霧を残し、小さな白い球体を残して消えていった。