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現代魔法と未来科学は区別がつかない  作者: arsmgn
一章 クノール遺跡
14/38

14 錬成術と漫画とひらめき

ちょっとだけながめ



『そもそも、カルマって眼も鼻もないのにどうやって見分けてるのかね?』


 作戦会議中に素朴な疑問として上げた言葉を思い出す。

 

 キン! ――キン! ――ガキィンン!!


 剣戟のような音が礼拝堂に幾重にも拡がり響き渡る。密閉された遺跡地下の礼拝堂で、多節棍と木符の氷槍、そして巨大な斧が木霊こだまを作り続けていた。



 



 礼拝堂の戦闘では、少しずつではあるが確実に、カルマの体表に亀裂が広がっていた。

 亀裂からは黒い霧が人の血のように漏れ出しているが、生き物のように痛みを感じる様子などもなく、カルマはただひたすらに目の前の敵性勢力であるふたりへ攻撃を繰り返していた。


 亀裂が走り、コアまで届くのも時間の問題。

 しかしそれよりも先に、カノンアリシア両名の体力、アルマエネルギーの残量に限界が訪れようとしていた。


「はあ……はあ……」

「うくっ……」


 戦闘時間にしておよそ20分程度ではある。

 しかし、実戦での全力疾走および全力打撃の積み重ね、そして休む間など与えてはくれないカルマの攻撃に、体力と精神のふたつが徐々に削られていた。


 焦りを必死に押し殺し、戦いの中の勝機の糸を無我夢中で手繰り寄せる。


「――――はあっ!!」


 カノンの一撃がさらに直撃する。ピシッ! という音が確かに感じられ、亀裂と亀裂が交差する。


「――――作戦を開始しますわ!!」


 その連鎖を見落とさず、アリシアが声をあげた。


「おうさ!!」


 空元気でも元気がでれば、と。へとへとな身体にムチを打ち声をあげる。


「―――エリア。ミストドレス!!!」


 アリシアの操る木符が、ふたりの足元へと一枚ずつ寄ってきた。声とともに発光した木符から冷たい冷気が放出され、ふたりの周囲だけを覆い出す。


「―――エリア」


 冷やされていく身体に心地よさを感じつつ、カノンもまた『エリア』の木符を発動する。

 それはすでに床に散らばされた木符。

 得意種目ではない『エリア』であれど、なんとか習得したものだ。


 ―――慣れちゃいないけど、やるっきゃない。


 それこそアリシアに任せられれば楽である。

 『エリア』はアリシアの得意種目で、カノンはその足元にも及ばない。

けれどいま、アリシアは既に発動している『ミストドレス』の調整を失敗するわけにはいかないのだ。


『そもそも、カルマって眼も鼻もないのにどうやって見分けてるのかね?』


 また、この話を思い出す。

 これが打開策になればと思う。いろいろなことが繋がって、無駄ではないのだと信じたい。


『それは――わかりませんわ。ただ人や動物の動くモノに対して反応するとしか』

『けどさ、眼はないわけじゃん。鼻も、口も。あと気になるのは、カルマって夜でも見えてるみたいに襲って来るし、隠れても見つけられちゃうっていうじゃん』

『なにか、感知しているとしか。それこそ生き物ではないのですし、うーん』

『生き物じゃない、んだよねえ。だったらなにかって話だけど、無機物、植物? ―――あ、それとも機械とか』

『機械?』

『そ。師匠が置いてった漫画とかに出てくるんだけどさ。ロボットとか、人が乗ったり自動で動いたりして、なんかれーだー? っていうので、熱が見えるとかでなんでもお見通しなんだと』

『れーだー……。……ねつ!! カノンさん、その話、というかその本を読ませてくださいまし!』



「―――ファイアトーチ!」



 カノンの呪文で、床に散らばった木符から炎が舞い上がる。その数はおよそ5枚。

 慣れていないため本来『ファイアトーチ』が持つ安定した炎で明るく照らすという機能を備えておらず、すべてがバラバラに揺れ動く。ただ、それが良いのだとアリシアは言った。


 ―――ぐいん。


 カルマの動きが、手足がバラバラに動き出す。右へ左へ。突如現れた熱源反応に呼応するように巨体を揺らし、


どん! どどん!! と。


炎を起こす木符をモグラたたきのように攻撃しだした。



「よっしゃ!」

「大正解っですわ! さっすがわたくしぃ!」



 氷霧のドレスに身を包み、体温を隠しながらふたりは喜びの声をあげる。

 カルマの身体には眼はなく、鼻もない。ならばどうやって探知しているのか。

 ふたりの憶測は、コアによるレーダー、熱探知である。そしてその憶測は正しいものであった。



「そんじゃ。仕上げというか、最後の賭けにいきますか」

「ええ。拘束時間なんて短いですわ! 出し惜しみはしませんことよ!」


 最後の活力を振り絞るように、気合を入れる。

 カノンはポケットから新たな木符を取り出し『リアライズ―バスターガントレット!』木符が生み出す光の輪から右手が現れると、そこには光り輝く手甲が装備されていた。


「―――ハイエリア」


 その様子を確認して、アリシアもまたモグラたたきを続けるカルマを見据える。


「―――アイスコフィン!!」



 動きが止まり、その場で停止し燃え上がる炎を叩いていたカルマの周囲を徐々に氷が埋め尽くす。ただの氷漬けではすぐにほどける靴ひものように頼りない。

 だが、少しの時間をかけて外堀から埋め尽くす限りの氷で覆い続ければ、強度はさらに乗算される。



「……んぐぐぐぐ!!!!」



 杖を持つ手に力がはいる。杖と手で簡単に操作をしているように見えはするが、高い集中力と我慢強さが錬成術の根幹である。


 カルマはいつの間にか忍び寄られていた氷の世界に閉じ込められる。

 腕から上は届きはしなくとも、足を固定し、カルマの動きが完全に止められた。

 


「―――いまです!」


 

 最大の好機、アリシアの掛け声で、カノンは光り輝く右手を握り締め、突っ込んだ。


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