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妖 のゐる国で  作者: 七星
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第四話【紅斗の仕事が】

八桜)前回までの依頼報告、大ぐも妖魔事件を無事解決。そして紅斗、あんたをいつか必ず倒す!

紅斗)まったく物騒な……。それに正しくは「俺が人間に危害を加えたら倒す」でしょ、俺の目的上それはないと思うけど。

八桜)そういやあんたの目的って一体何なの?

紅斗)俺の目的は妖魔具を全て回収すること。そのために、妖魔具を売りさばく「幹部妖魔」ってのを見つけて倒すため、人間の情報網が役に立つってわけ。

八桜)そんな奴がいるのね……あ、私もう行かなきゃ

紅斗)え、何処に?

八桜)朝から依頼が入ってるのよ。じゃあね。

紅斗)なんか最近俺の知らない依頼多くない⁉

八桜)気のせいじゃない? とにかく、幹部妖魔も登場し始める第四話をどうぞ! そして行ってきまーす。

第四話【紅斗の仕事が】




 最近……仕事が少ない。いや、語弊があるか。“俺への”仕事が少ない。八桜が来てから一週間近く経つが、あいつが優秀すぎて怖いのだ。あいつが言ってた俺を倒すって物理的なことじゃなく、仕事的なことだったのか。

 今日も八桜は朝から、とある道場の建築の手伝いに行っている。俺ができることは藤垣庵で借りた本を読むことくらいだ。

「依頼をー、俺に依頼をくれー」

 誰もいない祟組で一人叫ぶが、当然返事はない。

「依頼が欲しいー!」

「すみません、依頼をしたいんですが……」

 その時ちょうど祟組の暖簾をくぐって来たのは20代くらいの男性だった。

「はい、来た依頼! ほーらやっぱりね! だいたい俺が代表なのに依頼が来ないわけ……」

 一瞬、祟組内に冷たい空気が流れる。……気まずっ!

 依頼が来て舞い踊ったせいか、人が入ってきたのに気づかなかった。いや気づいた上で舞い踊ったんだけど。

「……どうも。立ち話もなんですし、おかけください」

 依頼者を長椅子に座らせ、俺もその向かい側に腰掛けた。

「私は魚を売り歩いている陽一郎(よういちろう)というものです。よろず屋さん、「光源氏流薙刀道場」というのをご存じですか?」

「ええ、今改築工事をしているところですよね」

 さらに言うと、八桜が朝から行っているところだ。

「そこの道場がどうかしたんですか?」

「その道場に、妹のお(きり)がこの間から入門したんです。護身術としては自分も賛成なんですが、師範の人が遊び人として有名なので心配で……できれば辞めてほしいんです」

 もう道場の名前が遊び人だもんね、光源氏て。

 俺はもちろん承諾し、さっそく道場へと向かった。





 光源氏流道場では、大工さんが何人か作業していた。とは言っても、ほぼほぼ完成しているらしい。

「妹さんを辞めさせればいいんですよね?」

「はい、できれば自然なかたちで……」

 後ろに付いてくる陽一郎さんに話しかけながら、大工さんの間を縫って入り口へと向かった。

「ちょっといいですか」

 道場に入り靴を脱ごうとした俺たちの前に、屈強な男が立ちはだかった。

「何でしょう?」

「当道場は師範の指示で、男性の入場を禁じています。お引き取りください」

「少し見るだけでも……」

「だめです」

 食い下がってみるが、男は道場の中へ頑なに俺たちを入れようとしない。

「じゃあ師範に合わせてください」

「師範は急な来客、しかも男性を快く思われないのですが」

「いえ、師範の方から依頼を貰ったんです。よろず屋祟組から用がある、と言えば伝わるでしょう」

「……少々お待ちください」

 男性は師範へ確認を取りに行った。俺の後ろにいた陽一郎さんは少し驚いている。

「よろず屋さん、ここの師範から依頼を貰ったんですか?」

「まあ、そんなところです。ちょっと待っててくださいね」

 しばらく玄関で待っていたところで、最近よく聞くようになった声が聞こえた。

「あれ、紅斗。何してんの?」

 汗を拭いながら八桜が聞いてきた。最初は日本語に違和感があったが、最近はほとんど違和感ない。

 八桜はついでと言わんばかりに大工依頼の依頼料を渡してきた。ちなみに依頼料の内訳は共通で、五割俺、四割八桜、一割貯金だ。

「何って、依頼に決まってんじゃん。こちら、依頼者の陽一郎さん」

 八桜に依頼について話し終わった頃、道場からさっきの男性と、師範と思わしき青年が出てきた。

 何で青年なのに師範と思ったかって? 理由は簡単、道場に「光源氏」って名付けそうな顔してるから。

「これはこれはよろず屋さん、私は師範の(とおる)と言うものです。して、どういったご用件でしょうか?」

「少し中を見せてほしいなぁと思いまして……」

「すみません、わが道場は私と弟の(つとむ)以外男子禁制なんですよ。まあ、女性なら大歓迎ですが」

 融さんは八桜を見ながら答えた。

「禁制なら仕方ないわね、お桐さんって人に話を聞けばいいんでしょ。ここは私に任せなさい」

「ではどうぞ中へ」

 八桜は融さんに連れられ、道場の中へと入っていった。

「あいつまた俺の仕事を……!」

「よろず屋さん、大丈夫ですか?」

 陽一郎さんは後ろで心配している。

「ええ大丈夫です。陽一郎さん、妹さんについて詳しく教えていただけませんか」

 話を聞くためによろず屋に戻ったが、結局陽一郎さんから大した情報は得られなかった。





「でさぁ、もう散々なわけよ」

 お昼になり、俺はご飯を食べに大江屋に来ていた。昼時になると、愉快な仲間たちはだいたいここにいる。

「百姓ならあっしが調べたんですけどねぇ」

「まあそんな日もあるって。ほれ、大江そばお待ち」

「ありがとう河田兵衛さん、おっちゃん」

 河田兵衛さんは隣で、ズルズルと音を立てながらそばを食べ始めた。ちなみに俺は、蕎麦を食べるときに音を立てない派だ。

「しっかし女のよろず屋なかなかのもんだな。元気があって真面目だから客からの評判も上々だよ」

「本当、飲み込みが早くて助かってますよ。うちもこの間収穫を手伝ってもらったりして……」

「……何その依頼。二人の所に八桜が行ったこと、俺知らないんだけど」

 二人共しまったという顔をしている。

「結局八桜じゃん」

 ていうかあいつ、俺に隠れてどんだけ依頼受けてんだ……。

「いやいや、だんながちょうど居なかったんだよ、な!」

「そ、そうですよ。あっし以外の百姓もよろず屋さんのことはとても信頼していますから!」

 二人は必死に弁解しているが、正直わからんでもない。俺も新しい物好きだし、類は友を呼ぶとも言うし。

「そうだだんな、近くの川で最近亡霊が見えるって噂があるの知ってるかい?」

「亡霊?」

「あっしも聞きましたよ。青白い火の玉が五六個宙を舞ってるって」

 うまく流されてる気がするけど亡霊……また妖魔かな。

「特に被害は出てないらしいが、気味が悪くてな。調べてくれないか」

「しょうがないなぁ……後でちゃんと依頼料貰うからね」

「おう、美味い蕎麦食わしてやるよ」

「いよっ、日本一のよろず屋さん!」

 蕎麦や会話を楽しんだあと、まんまとはめられた俺は近くの川へと向かった。綺麗な川だ。山から流れてきた落ち葉が趣を出している。亡霊が昼に出るわけ無いってことは、しばらくしてから気づいた。

「ほんとに愚痴をかわされただけか。川だけに」

 他にやることもないし道場に戻るか。


────────────


「はっ、はっ!」

 道場の中に薙刀を振る女性たちの声が響く。紅斗から仕事を奪ったのが一時ほど前で、昼に寿司を食べに行った以外はずっとここにいる。お桐さんや他の人にも特に異変は見当たらない。強いて言うなら……

「お桐さん、もう少し脇を締めてください」

「あっ、わかりました」

 お桐さんは頬を赤くして答えた。今朝紅斗たちを止めた男、勤さんと話すときお桐さんは照れているようなのだ。本当、人間どこでも変わらないなぁ。

「よし、では少し休憩を取りましょうか」

「はい」

 融さんの声を聞き、練習していた人たちはその場に座ったり、水を飲んだりと休み始めた。

 じゃあ今のうちに……

「すみません、ちょっといいですか?」

 私は近くで休んでいる女性の方へ向かった。

「はい、何でしょう」

「私はよろず屋祟組で働いている者です。少しお話を伺いたいのですが、よろしいですか?」

「ええいいですよ」

 私は門下生に、入門した理由を聞いて回った。何かお桐さんを辞めさせる理由が見つかればと思ったが、正直無駄だったようだ。誰に聞いても師範が強いから、師範がかっこいいから、師範に憧れて……と同じ事しか言わない。まあ確かに、あの師範はかっこよかったけどね。

「すみません、ちょっといいですか?」

「はい」

 最後にお桐さんだ。どうか師範以外で答えますように。

「私はよろず屋祟組の者です。みなさんにも聞いたのですが、あなたがここに入門した理由を教えていただけませんか?」

「私が入門した理由は、強くなって兄を守りたいと思ったからです」

 お桐さんは迷うことなく答えた。

「それだけですか?」

「それだけです。練習が始まるので、失礼します」

 お桐さんは自分の薙刀を持ち、練習に戻ってしまった。聞き込みはしばらく休憩ね。

 やることも無いので私は外を見て回ることにした。外はどんどん寒くなってきている。後で生地の厚い着物を買いに行こう。

 道場の周りを探索していると、入り口の真逆くらいの位置で話し声が聞こえてきた。

「これを使えば、お前の恨みもはらせる。なに、そんな高価なものではないさ」

 商人か。しかしいったい何を売って……

「さあ、この妖魔具を手に取るんだ」

 妖魔具⁉ まさか紅斗が言ってた幹部妖魔ってやつじゃ……?

 私は角から、声の主の様子をうかがった。声の主は全身黒いコートで顔もわからない。買い手のほうは手しか見えない。とにかく止めないと!

「そこの妖魔、ちょっといいかしら?」

 私の声を聞いた買い手は奥の方へ逃げていった。私が妖魔と呼んだほうは逃げる素振りも見せない。

「おいおい、商売の邪魔をしないでくれ」

「妖魔具を売ってたみたいだけど……あんた、幹部妖魔ってやつ?」

「幹部……お前らはそう呼んでいるんだったな」

 お前らってことは紅斗の事も知っているのか。だめじゃん、敵に身元バレてたら。

「男のほうが居ないようだが、お前一人で俺に勝てるのか?」

「奇遇ね、ちょうど私も後悔していたところよ」

 私じゃこいつに勝てないし、やっぱり紅斗呼んでくればよかった……

「後悔しながら散るがいい、妖怪大変化」

 そう言うと、魔法陣のようなものが幹部の体を包んでいく。右手には変なマークの付いた本を持っている。

「あらためて名乗ろう、俺はソーサラー妖魔。お前らの言葉を借りるなら、幹部妖魔の一人だ」

 ソーサラーって……! まあ確かに妖怪みたいなものかもしれないけど、何で海外の力が?

「その妖魔具、一体どうやって⁉」

「そんなこと、ここで散るお前には関係ないだろ?」

 ソーサラー妖魔は空中に尖った氷を作り出し、先端を私の方へ向けた。その攻撃が私に当たる瞬間、私は道場の縁の下へ押し飛ばされた。

「その攻撃……大ぐも妖魔のときに邪魔したのはお前か」

「来たか、男のよろず屋」

 私を飛ばしたのは、傘をさしたままの紅斗だ。

「俺が暇になってよかったね。それと貸しニ個目」

「ありがとう。紅斗、あいつ幹部妖魔ってやつらしいわ」

 それを聞いた紅斗の目つきが変わった。

「その妖魔具の紋章……やっと見つけた!」

「この紋章のことを知っているのか。他の幹部とあったことが?」

「そんなこと、お前には関係ない、妖怪変化!八桜、道場の人たちをお願い」

「わかった!」

 私は急いで道場に向かい、中の人へ危険を伝えた。しかし大丈夫だろうか、紅斗の妖魔態がヴァンパイアだとしたら今は……


────────────


 今は、時間的相性が悪い! 俺はソーサラー妖魔とかいうやつと必死に戦っていた。ただでさえ相手は幹部なのに、俺は日光を避けながら戦わなくてはならない。

「どうした、動きが鈍いな?」

 ソーサラー妖魔が岩を風で飛ばしながら聞いてくる。

「うるさい、祟流奥義『超時空切り』!」

 衝撃波を飛ばして応戦するも、守ってるだけじゃ勝てない。

「祟流奥義『スカーレット……」

 俺が刀を構えた瞬間、急にソーサラー妖魔の周囲にだけ、雨が降り出した。思わず後退ってしまう。

「くっ……」

「ただの狐の嫁入りだ。怖がることもあるまい」

 こいつ、俺が流水苦手だってことも知ってるのか。急いで別の技を……!

「祟流奥義」

「超時空切り、なんてな」

 ソーサラー妖魔は風を使い、俺に似た攻撃をしてきた。なんとか避けたものの、そこまでやられたらもう負けじゃね⁉

「お前、俺の技を!」

「わかりやすいんだよ。この程度の技じゃ俺に勝てない、さっさと失せろ」

 くそっ、祟流を馬鹿にしやがって……! 余計負けるわけにはいかない。

「俺が逃げると思う? 祟流奥義『龍の咆哮』!」

 妖気を飛ばしてすきを作る技だ。これでなんとか……。

「太陽の火!」

 突如、雨の中から強い光を放つ玉が現れた。その光はまるで太陽のように、俺の体に突き刺さる。

「くわぁっ!」

「命まで取る気はない、少し寝てろ」

 熱い、痛い、力が入らない。妖怪変化を保つ力も無くなった俺は、そのまま地面に倒れ込むしかなかった。





 目が覚めると、目の前には木目があった。叫んでる人に見える特徴的な木目、間違いなく祟組だ。

「俺は……」

「ああ、やっと気がついた。道で寝てたら風邪ひくわよ」

 祟組の長椅子から起き上がると、俺がいつも座る席に八桜がいた。

「そこ俺の席なんだけど」

「助けてもらって第一声がそれ?」

 悔しいが八桜に助けられてしまったのか。

「ありがとう……ってもう夜じゃん! ソーサラー妖魔はどうなった?」

 八桜いわく、倒れている俺を発見したときにはもうソーサラー妖魔の姿はなかったらしい。

「そっか……。ところで八桜、まだここに居る?」

「あんた起きたし、もう帰ろうと思ってるけど何で?」

「俺今から依頼だから、よろず屋閉めるよ」

 俺は日中おっちゃんから聞いたことを八桜に話した。

「負けたのに意外と元気ね」

「まあね」

 正直言いうとかなり落ち込んでる。祟流が全く効かなかったし、俺自身の弱点も突かれた。依頼でもやってないと身体がなまりそうなんだ。なーんて、八桜には言えないけどね。

 軽く身なりを整えたあと、俺と八桜は祟組を出た。

「そういやお桐さんはどうだった?」

「依頼者さんが過保護すぎるのよ。お桐さんももう子供じゃないし……明日陽一郎さんと話させて。それと多分、ソーサラー妖魔以外にも妖魔が居るわ」

「まじで⁉」

「ソーサラー妖魔が誰かに妖魔具を渡してたのよ。一応注意しておいて」

「了解」

 幹部じゃない妖魔なら楽勝だ。

「じゃあ俺向こうの川に行くから、じゃあね」

「ばーい」





 八桜と別れた俺は、大江屋近くの川に向かった。すると噂通り、青い人魂が何個か漂っている。

「この感じは……妖魔だな」

 それもかなり弱いやつだ。

「ちょうどいい、俺の鬱憤はらさせてもらう! 妖怪変化アーンド祟流奥義『幻想剣ー黄昏の連撃』!」

 俺は人魂妖魔を片っ端から切っていった。案の定、おもしろいほどさくさく切れる。全ての人魂妖魔を切り終え、辺りに夜の闇が戻ったところであることに気づいた。

 妖魔の変身者が何処にも居ないのだ。


────────────


 紅斗と別れた私は、夜の光源氏流道場に来ていた。そして私の目の前にはソーサラー妖魔がいる。

「さて、女のよろず屋。お前の頼みというのは何だ?」

 倒れた紅斗を見つけたとき、実はそこにソーサラー妖魔もいた。だから私は、ある頼みのために、夜もう一度ここで会う約束を取り付けたのだ。

「私の頼みは一つよ。あんた妖魔具を売ってるのよね?」

「ああ。それが仕事だからな」

 私が紅斗を倒すと言ったのは、仕事のことだけではない。

「だったらその妖魔具、私に一つ売ってくれないかしら?」




【今回の妖怪紹介】人魂

 丸くて先っちょが「ぽうっ」ってなってるあれ。死んだ人の魂であることがほとんどで、川辺に出ることが多い。

 余談だが、四話のこのコーナー、四話初投稿時には無くて後から付け足したものである。

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