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妖 のゐる国で  作者: 七星
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第二話【「よろず屋さん」とは】

八桜)前回までの依頼報告、私が日本に来た!

よろず屋さん)なんで俺の名前のとこが「よろず屋さん」になってるの? 一応、主人公だよね⁉

八桜)あんたがまだ名乗ってないからでしょ。と言うわけで、やっと「よろず屋さん」について、いろいろ分かる第二話をどうぞ!

第二話【「よろず屋さん」とは】




 次の日、両替商に行った私は長屋への帰りがてら、近くの貸本屋に寄った。昨日の妖魔やら妖怪やらを調べるためだ。

 アメリカやオランダにまで行って読んだ日本の資料には、それらのことは書かれていなかったし、妖魔や妖怪に興味がないと言えば嘘になる。

 「藤垣庵」と言う貸本屋で、少しの間本棚と睨み合っていたが、どれを借りればいいのか、全くわからない。

 さて、どうしようか……と悩んでいると隣から、しわがれた声で

「お嬢さん、ちょっといいかな」

 と話しかけられた。見ると、杖を持った白髪のおじいさんが、曲がった腰を押さえながら佇んでいる。

「なんでしょう?」

「ここの本棚の一番上の本を取ってくれんかね。腰のせいで手が届かんもんで……」

 おじいさんが指差した場所には〈信濃希勝録〉と書かれた本が2冊置いてあった。

 私は少し背伸びして1冊取り、おじいさんに手渡した。

「これですか?」

「おお、そうです。ありがとうございます」

 おじいさんは嬉しそうに本を受け取り、カウンターへと向かって行った。

 さあ、私も早く選ぼう。あらためて棚を見上げると、さっきおじいさんに渡して一冊残っている〈信濃希勝録〉が気になった。背伸びしてもう一冊も取り、中身を確認する。どうやら伝承なんかを集めたショートストーリーのようだ。さらにその中には、探していた妖怪が出てくるものもある!

 海外では全く知られていない妖怪についての本がこうもあっさり見つかるなんて、嬉しいけど、同時に怪しいわね。まあ、これ借りるけど。

 私がレンタルの手続きを済ませ、出口の方へ向かおうとすると、この国では珍しいコートを着た少年が、傘を畳みながら入口の暖簾をくぐるところだった。

「お、昨日の……八桜だっけ」

 先に向こうが話しかけてきた。この同い年くらいの少年は……あれ、名前なんだっけ?そういやずっと「よろず屋さん」って読んでたんだ。って、それどころじゃない。

「どうも、アレって今日の夜までですよね……?」

 私は恐る恐る尋ねた。アレとはこれから先私がよろず屋で働くか、関所破りを密告され、お縄につくかの選択のことだ。日本に来て三日でピンチに出くわすなんて、ついてないなぁ……

「うん、何もなければ今日の夜に長屋行くからそのときに」

 そのときに居れば職を決められて、居なければ見つかり次第、密告か。

「わかりました……それで「よろず屋さん」はなぜ貸本屋に?」

「今受けてる依頼の資料探しです。ここ、品揃えが良いんですよ。」

 昨日から思ってたけど、急に喋り方が変わるの何なんだろう。

「それじゃあ、良い返答を期待していますよ」

 「よろず屋さん」は軽く手を振りながらさっきまで私の居た辺りへと向かった。

 さっきの会話でわかったことがある。それは妖怪とか、関所破りとか以前に、私は「よろず屋さん」について知らなければならないということだ。妖魔を嫌っている様子だったのに自分も妖魔になっていたり、イングリッシュのことを知っていたり。

 てか、自然に使ってるけど妖魔って具体的に何? まるでSFの世界に投げ出されたような感覚だ。なんか頭痛くなってきた。

 頭の痛みと戦いながら、今日やるべきことについて考える。

 とりあえずは「よろず屋祟組」について調べよう。「祟組」の規模と、最低でも妖魔退治以外の仕事内容、それに「よろず屋さん」の性格とかも。

 私は貸本屋を出て、店先から見える江戸の町を見渡した。そして、心の中で意気込んだ。

「こういうときは、やっぱり聞き込みね!」


────────────


「こういうときは、やっぱり聞き込みか……」

 行きつけの貸本屋「藤垣庵」の一角で、俺はため息をついた。

 今回の依頼は今朝、よろず屋祟組に一人の女性がやってきたことから始まる。店内の掃除をしていた俺は、素早く箒を片付け、来客用の席に彼女を案内した。

「いらっしゃいませ、どういったご依頼でしょうか?」

 あらためて見ると女性は顔立ちが整っており、着物もなかなか良い生地を使っている。旦那の職業はさしずめ武士……いや、奥さんが直接出向くのを見ると、下級武士くらいだろうか?

 どちらにせよ、決して低い身分の者ではない筈だ。ってことはどんな依頼かは大方予想がつく。

「実は、主人が変り病にかかってしまって……」

 やっぱり。うちが普通のなんでも屋や、奉行所と違う点は、いわゆる「妖魔事件」でも引き受けている点だろう。身分の高い人からの依頼は十中八九、妖魔事件だ。

 妖怪、妖魔の発見および妖魔具の回収のために紹介状や看板に書いた文句だが、それが効を成し、だんだんと依頼が増えてきただけでなく、多くの人と知り合う事ができた。

 今では江戸中で、身分をこえて、俺の名は知れ渡っている。

「変り病とは、どういった症状ですか?」

「昨日の朝から主人が急に苦しみだしたんです。すぐにお医者様を呼んで風邪の薬を貰ったんですが、その日の夜……」

 奥さんが厠に行こうと廊下を歩いていると、主人の部屋からうめき声が聞こえてきたと言う。もしや風邪が悪化したのでは、と急いで駆けつけると、主人が顔をしかめながら奥の障子を指差して「蜘蛛が……蜘蛛が……!」とうわ言のように繰り返していたらしい。

「最初は、悪夢にでもうなされているのかと思ったんですが、声を聞いていると、その蜘蛛がだんだん近づいてくるようなんです。奥の障子は庭と繋がっているんですが、主人が苦しそうに庭を指しながら「蜘蛛が……そこに……!」と言うのを聞いているうちに怖くなって……。主人と一緒に自分のことも落ち着かせようと、枕元に座って「大丈夫ですよ、大丈夫ですよ」と声をかけていたんです。しばらくして主人も落ち着いたんですが、今朝庭に出てみると裏の塀から主人の部屋に向かって、大きい何かが通ったような跡が着いていて、これはただ事ではないと……」

「なるほど。ちなみにご主人の職業は?」

「位が高い訳ではありませんが、武士をやっています」

「過去に誰かの恨みを買ったとか、思い当たりますか?」

「そんなことあるわけ無いです。主人は本当に優しい方で……田舎から出てきた私を、なんの差別もなく受け入れてくれたんです」

 奥さんの話なので確証はできないが、どうやら相当優しい人のようだ。

「わかりました。その依頼、お受けいたしましょう。早速調査を始めますが、今夜、ご主人の部屋にお邪魔してもよろしいですか?直接退治した方が速いかもしれないので」

「ええ、よろしくお願いします」

 そう言って住所を教えてもらったあと、席を立とうとした奥さんは、何か思い出したような表情をして懐から布袋を取り出した。

「あの、依頼料は……?」

「ああ、うちは成功払いですので、解決したあとに頂きます」

 奥さんは「わかりました」と布袋をしまい、よろず屋を出ていった。

 その後、蜘蛛の妖怪の資料を集めるため、俺は藤垣庵を訪れた。

 この店を経営している一家は江戸きっての妖怪好きで、貸出している本の多くも妖怪や、それに関連するものについて書かれた本だ。江戸一の妖怪本コレクターと言っても過言ではないだろう。

 しかし、今回は何故か目ぼしいものが見つからず、かれこれ半時くらい店内を歩き回っている。

「探していた資料、見つかりましたか?」

 話しかけてきたのは俺より三つか四つ小さい、この店の看板娘「お藤」だ。妖魔事件の資料探しにはいつもここを使うので、すっかり顔馴染みになっている。

「うーん、蜘蛛の妖怪について探しているんだけど、何かない?」

「蜘蛛って言うと、土蜘蛛や女郎蜘蛛なんかじゃ駄目なんですか?」

 妖魔は人間が妖怪の力を纏った姿である。故に、起こされる事件は、もとの妖怪の影響を多かれ少なかれ受けるのだ。土蜘蛛や女郎蜘蛛だと、ちょっと違う気がするんだよなぁ。

「やっぱそれくらいだよね……」

「うーん……あ! もう一匹いますよ、蜘蛛の妖怪!」

 お藤が元気よく答えた。

「「大ぐも」って言うんですけど知ってました?」

「大ぐも……ああ、聞いたことあるような。どんなのだっけ?」

 俺がそう聞き返すと、待ってましたと言わんばかりに、お藤は一つ咳払いをしてゆっくりと語りだした。

「昔、病気の子を持つ母親がいました。病気の子は熱があるだけでなく、夜になると「蜘蛛がくる……蜘蛛がくる……」とうわ言のように繰り返すのです。ただ、蜘蛛は病人にしか見えませんでした。しかし、母親が子の安全を祈っていると、なんと蜘蛛が見えるようになったではありませんか。母親が蜘蛛を捕まえようと飛び掛かると、蜘蛛も糸を出して身を守ります。隣が騒がしいことに気づいた隣人が、母親を助け、蜘蛛を殺すと、それはとても大きな大ぐもでした。蜘蛛を殺したおかげで子の病気も治りましたが、子の体はボロボロで、杖なしでは生活できませんでしたとさ、めでたしめでたし」

「めでたいかなぁ、それ」

 彼女はよく子供のための読み聞かせをやっているので、語りは上手だ。しかし、話のオチがちょっとズレていたりする。

「めでたいんじゃないですか? 妖怪は退治できたし。それよりこの話、役に立ちますよね?」

 お藤が身を乗り出して聞いてきた。

「うん、役には立ちそうだけど……その話、どの本に載ってる?」

「今ちょうど貸出中なんですよね、二冊とも」

「二冊とも無いなんて……。わかった、ありがとう」

 俺はお藤に礼を言って店をあとにした。

「またのお越しを〜」

 店の軒下から空を見上げるとお天道様はまだ高い所にある。依頼時刻の前に八桜のいる長屋に寄るとして、あと二時くらいか。

「団子でも食べて、そば屋で小遣い稼ぐか」

 俺は、傘を差して日光を遮りながら一番近い茶屋へと向かった。


────────────


「よろず屋祟組……ああ、よろず屋さんのことか、知ってるよ。どんな人か? んー、ちょっと変わってるけど良い人だよ。この間も仕事を助けてもらったんだ」

「よろず屋さん? たしか四、五年くらい前から川沿いで店をやっている人よね。友達が化け物を倒してもらったって言ってたわ」

「おお、知ってるよ。一人で頑張ってる人だろ。江戸に出てきた俺に奉公先を紹介してくれたのはあの人だ。名前? いやぁ知らないよ、みんなよろず屋さんって言ってるからな」

 よろず屋さんの情報を求め、日が落ちるまで江戸中を歩き回った私は、長屋に帰り、聞いたことを整理していた。

 よろず屋祟組についてはあらかたわかったが、よろず屋さん自身については、まだ少し謎が残っている。実は危険なことを隠してるかもしれない、という気持ちは拭いきれない。

 やっぱり逃げようか……とも考えた。しかし、謎が多いが評判は悪くないわけで。特に妖魔退治の実績は江戸一らしいし、それ以外の仕事も十分信頼できる良さだ。

 私は日本に来るとき、誰かを助ける仕事がしたいと思っていた。半分脅しとはいえ、そういった仕事を紹介してもらえるなんて、こんなチャンスもうないかもしれない。だったら答えは一つだ。

 ……さて、ここに残ると決めたわけだし、貸本屋で借りた本でも読むか。妖怪の話は初めて読んだが、どれも興味深いものばかりだ。アメリカだと病院に行ってすぐ解決しそうなことを、妖怪の仕業だとする構成は思わず笑みがこぼれる。

 ただ、昨日見た妖魔と、妖怪は別物らしいがどっちも似たようなものじゃないか。まあ今のとこ、本物の妖怪は見たことないけど。

 妖怪について学んでいたところへ、「よろず屋さん」がやってきたのは、三十分ほど経ってからだった。

「おっ、いたいた。ってことは?」

 ガラガラと戸を開け、今朝と同じ出で立ちの「よろず屋さん」が、立ったまま聞いてきた。

「はい、これからよろしくお願いします」

 そう答えた瞬間、「よろず屋さん」の顔がパッと明るくなった。

「いやー良かった! うちも、動ける助手が欲しかったんだよねー」

 スカウトの理由がちょっと気になっていたけど、運動ができることだったのか。

「じゃあ早速、今から依頼だから支度してついてきて」

「今から⁉」

 すぐに聞き返したが、「よろず屋さん」はすでに外へ出てしまっていた。支度と言っても心の準備くらいだけど、仕事ってそんなすぐに始まるものだっけ?

 私は焦りながら着物を整え、「よろず屋さん」に続いて夜の江戸を進んだ。


────────────


 月がはっきりと見え始めた頃、俺と八桜は依頼者の家にたどり着いた。

「結構広いわね……」

 後ろで八桜が、ぼそっと呟いた。確かに御家人や庄屋の家ほど広くはないが、俺たちとは無縁の広さだ。

「さあ入るよ。夜分失礼します、よろず屋祟組です」

 戸を叩いて用を告げると、中から下人と思わしき男性が出てきた。

「あ、どうも。奥さんから依頼を受けて来ました」

「承知しております、どうぞ中へ。傘はお預かりしましょう。」

「ああ、かまいません。汚れてないんで、自分で持っときます」

 傘も大事な商売道具だしねぇ。

 承知しました、と答えた男性は俺たちを、少し歩いた先にある八畳ほどの部屋に通した。

 その部屋は正面に庭と繋がる障子があり、右手には書院造が、左手には別の部屋へと通じる襖がある。いわゆる客間のようだ。

「少々お待ちください」

 そう言って男性が退出すると、俺と八桜は部屋中央に置いてあった羊羹と緑茶の前に腰を下ろした。

「おお、羊羹。そうだ、知ってる? ここで出された羊羹は……」

「来客用に使いまわすから、食べちゃ駄目なんですよね。向こうにいた頃、本で読みました」

 八桜はすらすらと答えた。なんだ、知ってたのか。自慢できると思ったのに。

 俺たちが緑茶を二、三口飲んだ頃、依頼者である奥さんが、俺たちと同じ襖から入ってきた。

「どうもお邪魔しています、よろず屋祟組です」

 俺はその場に立って、奥さんに頭を下げた。

「依頼を引き受けてくれてありがとうございます。向かいの襖が、主人の寝室になっております。何かありましたら、下人を一人待機させているので、そちらに言ってください。どうか主人をお願いします。」

 てっきり少し座って話をするものだと思っていたが、奥さんは立ったまま要項を話し、すぐにもと来た廊下に帰っていった。

 妖魔と戦う前に依頼者と談笑するのも、一つの楽しみなのに。

「あの……今日ってどういう依頼ですか?」

 少し不満を感じていた俺に、八桜が質問してきた。

「ああ、言ってなかったっけ。今回は……」

 俺は朝からの出来事を順に話した。そのうち、さっきの不満もすっかり気にならなくなっていた。

「そして、隣人が蜘蛛を殺して……」

 大ぐもの昔話まで終わったところで、八桜が口を開いた。

「その大ぐもの話、知ってますよ」

「え、本当⁉」

「はい、今日、藤垣庵って貸本屋で借りた本に載ってました」

 お藤が言ってた内の一人はコイツだったのか。

「ねえ、その本に載ってた話と、俺が言った話に何か違いなかった?」

「だいたいそんな感じだったと思います」

 だいたいならいいか。これで大ぐもが絡んでいることは間違いなさそうだ。

 さて、どうやって倒すか。俺は対妖魔への作戦を考え始めた。


────────────


 私たちが来てから一時ほど経過したが、一向に大ぐもが現れる様子はなかった。隣を見ると、「よろず屋さん」は寝っ転がって畳の目の数を数えている。

 流石に何もやることがないので、失礼かもしれないが、今日わからなかったアレについて聞くことにした。

「あの、「よろず屋さん」、昨日から思ってたんですけど、何でイングリッシュが分るんですか? 誰でも知ってるってわけでもなさそうなのに」

「ん、ああ、それね」

 「よろず屋さん」は起き上がって顔をこちらに向けた。

「母さんが使っていたらしいから、ちょっとわかるってだけだよ。発音とかは全然……」

「え、「よろず屋さん」のお母さんって外国の人なんですか?」

「うん、何処出身かは覚えてないけどね。あと、外国の()じゃなくて正しくは外国の妖怪(・・)

 私はその言葉に耳を疑わずにはいられなかった。

「外国の妖怪……? ってことはあなたは……」

「ああそうか、一応うちで雇ったんだし、ちゃんと自己紹介しないとね」

 この会話の流れで自己紹介なんて、じゃあやっぱり……。

 「よろず屋さん」は私の目を見ながら口を開いた。

「俺の名は……」

 が、すぐにその声は、隣の部屋から聞こえたうめき声によって、掻き消されることになる。

「やっと来たか」

 「よろず屋さん」は置いていた傘を掴み、静かに襖の前で構えた。すぐにでも飛び出さんとする構えだ。

 一応、私もそれに続ける位置に立つが、さっきの話が気になりすぎる。でも今は仕事に集中しないと。

 一瞬で部屋に満ちる空気が変わったのが分かった。今日で一番長い数分が過ぎた頃、言葉になっていなかったご主人の声は、だんだんと「蜘蛛が……蜘蛛が……」とうめく声に変化していた。

 そのうめき声が「来るな……来るな……!」といった叫び声になった時、ついに「よろず屋さん」が動く。

「妖怪変化」と呟いた「よろず屋さん」は左手を襖に添え、右手に刀を持って、私を横目で見ながら頷いた。

 突入するってことか。大丈夫だ、やるべきことは分かってる。まずはご主人の安全確保、それから妖魔とか言うのをぶっ飛ばす。

 「よろず屋さん」は勢いよく扉を開き、ご主人の寝室へ駆け込んだ。

「⁉」

 部屋を覗くと、寝室と庭を隔てる障子に、八つの足を持った大きな影が映し出されていた。

 それを見て思わず足が止まった私を他所に、「よろず屋さん」はご主人のもとへ……ではなく、その影のもとへと向かっている。

「祟流奥義『龍星の剣』!」

 「よろず屋さん」はそのまま技をくり出し、障子ごと妖魔を庭に切り飛ばした。

「えっ、ちょっ……ご主人の安全確保は?」

「え? まあそれも大切だけど、俺は妖魔退治の方が大切なの」

 縁側に立つ「よろず屋さん」が答えた。まるで安全は二の次と言わんばかりだ。

「ご主人の命に関わるかもしれないのよ⁉」

「半分はそうなんだけどね。やっぱり自己紹介しとこうか」

 半分? 一体どういうこと? 頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、私の思考は確実に一つの答えに向かっていく。

「俺の名は紅斗。ヴァンパイアの母親と人間の父親との間に産まれた、いわゆる半人半妖ってやつ」

 「よろず屋さん」……いや、紅斗は私に向かってそれだけ言うとすぐに、庭で砂埃をあげている妖魔に視線を戻した。

「さあ、こっからは妖怪(俺たち)の時間だ!」




【今回の妖怪紹介】吸血鬼

 西洋ルーマニアあたりが発祥の妖怪。強い割には、日光に弱かったり流水に弱かったり、弱点が多い。紅斗は半分人間なので一部の弱点は克服している……はず。

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