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妖 のゐる国で  作者: 七星
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プロローグ【泰平の】

プロローグ【泰平の】




 1853年、琉球国の海に大きな黒い船が止まっていた。戦争でもするつもりなのか、船には大きな大砲が付いている。船員の外見や、当時の技術力からこの船が日本の船ではなく外国の船だということが分かるだろう。

 しばらくすると船員の一人が船長と思わしき人に駆け寄り、少しとまどいながら口を開いた。

「Perry commander, foggy is in the vicinity of Japan. Today's voyage seems to be difficult

(ペリー司令官、霧が日本の近くにあります。今日の航海は難しいようです)」

 ペリーと呼ばれた男は表情を変えることなく答えた。

「Fog is not a problem.It is departure today as planned(霧は問題ではない。今日は計画どおりの出発だ)」

 彼の独断で霧の中、日本へ向かったこの船は数日後、海のもくずとなり発見された。

 この事はすぐに彼の母国、アメリカに伝えられ別の船が日本に向かった。アメリカだけでなく多くの国が日本に船を向かわせたが、一艘もたどり着く事は無かった。中にはオランダなどの幕府が認めている貿易船もあった。

 時は経ち、飛行機が開発されると上空からの入国が試された。衛星が開発されるとGPSを使った入国が試された。しかしそれらが日本の大地を踏むことはなかった。

 そして2044年現代、世界中では日本の存在そのものが伝説となっていた……



  ―――――――――――――――――――――



 月明かりに照らされ、江戸の路地裏を走る2人の男の姿があった。前を走る男は着物とげたという走り辛い組み合わせのなか、後ろの男から逃げるように走っている。歳は20後半だろうか、その動きには力強さと若々しさが見えた。後ろを走る男は江戸では珍しい外套に身を包み、軽やかな動きで迫ってくる。前の男ほど体ができあがっていないように見えるが、体力は負けず劣らず、二人の差は縮まるばかりだ。

しばらくして前の男が外套の男をまこうと長屋の角を左に曲がった。しかし曲がった先に見えたのはそびえ立つ大きな壁だった。

「さあ、観念しな」

 外套の男は逃げ道を塞ぐように立ち、高圧的な態度で言い放つ。この状況で逃走を続けるのは不可能だろう。

「こんなところで……捕まってたまるか!」

 しかし前の男は諦めていなかった。着物の袖をめくり、右手首に巻いている腕輪を掲げ、勝ち誇った笑みで宣言する。

「妖怪変化」

 次の瞬間、腕輪から出た黒い煙が男の体を包み始め、ついには全身が見えなくなった。

 数秒すると足元から煙が晴れてきたが特に変化は見えない。しかしそんな感想も男の顔を見たら吹き飛ぶだろう。なぜなら、煙から現れた男の顔には目、鼻、口が無いからだ。

「どうだ! 人間をこえた力に恐怖しろ!」

 誰もが逃げ出すような状況だが、外套の男は悠然と立ち尽くしていた。

「〈のっぺらぼう〉に恐怖しろって言われてもねぇ……」

 この姿に驚かないどころか、呆れているようにも見える外套の男に〈のっぺらぼう〉になった男は怒声をあげながら突進した。その力強さはさっきまでとは比べものにならない。

「うおおお!」

「ほら、突っ込むことしかできないし」

 外套の男はどこからか取り出した傘を開きその攻撃を防いだ。

「何⁉」

 傘で攻撃を押し返したあと、外套の男は表情を変えずに宣言した。

「こっからは俺たちの時間だ。妖怪変化」

 傘から出た煙が外套の男を包んでいく。

「させるか!」

 変化を阻止しようと男が再度突進してきた。しかし、その攻撃は空を切ることになる。

「⁉」

「ほーら、弱すぎて恐ろしい」

 いつの間にか外套の男は壁を背に立っていた。その手には傘に変わって、月夜に似合う白銀の刀が握られている。

 男は一瞬たじろいたが、すぐ本来の目的を思い出し路地裏の方へ逃げ出した。

「祟流奥義……」

 外套の男は地面を思いきり蹴ると、逃げる男に狙いを定めた。持っている刀が紅い気を纏う。

「『スカーレットタブー』!」

 刀は、男の背中に深紅の十字架を描き、周囲を紅く照らした。

「うああああ……」

 男はうめきながらその場に崩れ落ちた。その姿――というか顔――が人間のそれへと戻っていく。

 外套の男は路地裏に転がる男が付けていた腕輪を回収し、そこで初めて、通りの向こうがにぶく光っていることに気付いた。

「岡っ引きか、説明面倒だな……」

 そう呟くと外套の男のは持っていた刀を傘に戻し、岡っ引きにばれないよう、足早にその場を立ち去った。




同時に1話、2話も投稿しています。良ければ見ていって(あわよくば感想も)ほしいです。

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