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たかが運命  作者: 仮初。
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第1話

携帯のアラームで目が覚めた。枕元で鳴るそれを手に取ると時間は11時をまわったところだった。


特に用事があるわけではなかったから、俺はとりあえずもう一度ベッドに倒れこみ無意識のうちにもはやルーティンワークといえるSNSのチェックを始めていた。


友達のカップルがお洒落なカフェ巡りをするみたいだ。アルバイトの愚痴を吐いている人がいたり、あとは芸能人の浮気発覚のスキャンダルがトレンドのトップを飾っている。


どれにも大して興味があるわけではないのだが、ここで大事なのはそれを見ることなのだから、俺の欲求は満たされていると言っていい。


そうやってずっと指をスライドさせていると、メールの着信を知らせる通知が画面上部に現れた。


「もしヒカルと一緒にいたら、12時からの約束に遅れないように伝えてほしい!」


中学時代の友人のマユからだ。


続いて、「成人式の後の2次会の打ち合わせがある」と送られてきた。


年明けに、俺たちの成人式がある。その後に行われる2次会の件みたいだ。


まあそんなことでもない限り、およそ5年も連絡をとっていなかった相手からいきなり連絡が来ることなんてないだろうし、実際2次会の話については最近なにかと耳にしていたところだった。


まだ8月なのに、すでに数ヶ月前には会場をおさえてくれていて、催し物の内容などについても数少ない有志の人たちが動いてくれているらしい。


しかし今はそれよりも当のヒカルだ。その数少ない有志の1人であるはずのヒカルは、いま俺の隣で呑気に寝ている。


小さな寝息を立てて、あまりに呑気に寝ているものだから、このままほっといてやろうかといたずらな考えも一瞬よぎったが、わざわざ俺のところにまで連絡が来た以上、ここで起こさないと後々面倒くさい気もしてさっさと起こすことにした。


名前を呼びながら軽く身体を揺すると、ヒカルはしばらくもぞもぞと動いたあと

「ん〜〜〜」とうなり声を発しながらゆっくりと目を覚まし身体を起こした。


なかなか焦点が合わないような、ぼーっとしているヒカルにマユから連絡が来た旨を伝えると、自分の携帯で時間を確認し、そこで自分の置かれている状況を理解したようで慌ててシャワールームに飛び込んでいった。


ヒカルの慌てように思わず笑ってしまった。



ヒカルの支度が終わるまでどう時間を潰そうかと、俺はとりあえずテレビをつけた。


家のテレビと違って映る内容のほとんどがアダルティなもので、チャンネルを進めていっても悉く裸の女性が喘いでいるものだから、テレビで時間を潰すのは失敗だと思ったが、ようやくニュース番組が映ったのでそれを見ることにした。


どうやら大きな交通事故のニュースが緊急で差し込まれているようで、車が横転している様子を上空から撮った映像が流されている。


こういうものを見ると自分に関係がなくても心が痛む。そう思える人間であるべきなのだろうが、俺はそうではないのかもしれない。

少なくとも今に関しては、何を思うことも、感じることもなくただそれを眺めていた。


そうやってすっかり空っぽの状態だった俺の頭の中にふと、ある夢の光景が浮かんできた。



もうひと月も前に見た夢の光景だ。



大雨のなか、ひしめき合う傘たち、雨に打たれるあの女性、そして俺に迫るトラック、身体が宙を舞った瞬間まで、いまでも鮮明に覚えている。


ひと月経っても忘れないような夢なんて、俺はほかに知らなかった。


あの夢を見た日の朝、ただの夢だと分かっていても、俺はなんとも言えない気持ち悪さと不安に駆られ、携帯のメモ機能に夢の内容を打ち込んだ。



いまとなっては、あんなのたかが夢で、馬鹿馬鹿しいとも思うが、いまそう思うからこそ、あのときの自分がそのたかが夢に大きく動揺していたことに改めて驚く部分がある。


結局のところ、それ以降今日に至るまで、何ひとつ変わらない日常を送っているし、さっきみたいにフラッシュバックのように思い出すことがない限り、あの夢についても気にすることは一切なくなった。



でもだからといって、メモを消去する気になれない自分がいることも確かだった。

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