プロローグ
大学からの帰路に着いた途端、大雨が降り出した。
防ぐ術を持ち合わせていなかった俺はすぐにずぶ濡れになってしまったが、
乗っている自転車が愛用のロードバイクではなく兄の自転車であることがせめてもの幸いだと思った。
通りかかったスーパーでは、面の駐輪場から出入り口にかけて人がごった返していて、ぶつかり合う傘がとても窮屈そうに見える。
そんな様子は横目にさっさと帰らなければと思っていたとき、ひしめく傘の群れから少し離れたところにひとり、じっと雨に打たれる女性の姿が目に入った。
見たところ傘は持っていないようだが、雨宿りできる場所を探すようなそぶりは見られず、ましてやスーパーに買い物に来たようにはとてもじゃないが見えない。
ただじっとその場で、空を見上げているように俺には見えた。
身長が高く、すらっとした細身の体型が服の上からでも分かる。見た目だけで判断すれば年も近いように思えるが、濡れて乱れた短い黒髪が艶やかで、大人びた雰囲気を纏っている。
無意識のうちに足を止めて見惚れてしまっていた自分に気づき、慌てて自転車を走らせ始めたそのとき、クラクションの大きな音が鳴り響いた。
音の鳴る方を向くとトラックがほんのすぐそこまで迫ってきていて、そのまま俺は鈍い音と同時に宙へ放り投げられた。
プツッと糸が切れたように視界が真っ暗になった。