【13】エルフの町—————
エルフの町—————
目の前には幻想的な景色が広がっている。
切り株の中だと言っても、完全に頭上が塞がれている訳ではなく、巨大な穴が開いていて、そこから太陽の光が差し込んでいる。
幹の隙間からは無数に光の帯が伸び、頭上には優雅に羽ばたく大きな鳥。
凄いとしか言いようが無い。
筆舌に尽くし難いとはこういう事なんだろう。
「レイア、いい所だな」
「そうですか?」
「うん、凄くいい所ね」
「あ、ありがとうございます。故郷を褒めてもらえると、なんだか嬉しくなりますね」
照れて顔を赤くしているレイアの案内に従って、先に進んで行った。
広さは町くらいありそうだが、建物の数などの規模は村と言った方が良いかもしれない。
「馬車はここまでです」
「馬はどうすればいいんだ?」
「少し先に放牧できる場所があるので、そこまで乗って行きましょう」
俺はレイアと一緒に馬に乗って放牧地に向かって行った。
ヒトミ達はもう1頭の馬に乗って付いて来ている。
柵に囲まれた小さな放牧地に着いた所で馬から降り、そこで馬を放しておいた。
「餌とかはどうする?」
「生えている草を食べるので大丈夫ですよ。水も誰かが用意してくれます」
「勝手に食ってもいいのか?」
「ええ、すぐに生えて来ますから」
ここからは歩いてレイアの家に向かうようだ。
小さな川に沿って、町の中に入って行く。
切り株の中に流れていても、川と呼んでいいんだろうか?
まぁ、レイアも川って言ってるからいいとしよう。
「ここが私の家です」
「わぁ~、綺麗です~」
「少しここで待っていてください」
そう言って玄関に向かって歩いて行くレイアを見送った。
木の板の柵で囲まれた中に、ログハウスのような丸太で作られた建物を2つくっつけたような大きな家。
庭に生えた1本の木が綺麗な花を咲かせていた。
「ただいま」
「あらレイアじゃない、もう帰って来たの?早かったのね」
「はい、お友達を連れて来ました」
家の中からレイアの話し声が聞こえてくる。
こっちを見て手招きしているレイアに従って家の中に入ると、目の前には綺麗な女性が立っていた。
肩まで伸びたレイアと同じ銀色の髪。
背格好もレイアによく似ている。
「私の母です」
—————母!?
どう見ても姉妹だ、、、
驚いているのは俺だけじゃない、みんな唖然としている。
「こちらの方達が、旅先で出会ったお友達です」
「は、初めまして」
レイアに紹介されて、少し頭を下げた。
お母さんは俺を見て目を丸くし、口をポカーンっと開けて放心している。
「お、お父さん!ちょっとこっちに来て下さい!」
急にお母さんが後ろを向いて、大きな声を上げた。
「なんだ?どうした?」
「レ、レイアが男の子を連れて帰って来たわ!」
「—————何だとー!」
バタバタと廊下を走る騒がしい足音が、だんだん大きくなってきた。
勢いよく開いたドアの向こうから、顔を真っ赤にしたイケメンのエルフが現れた。
「うおおおおお!!!」
勢いよく俺の目の前まで来たと思ったら、そのまま手を握って大きく上下に振り始めた。
お父さんは金髪のロングヘア。
背は俺より少し高く、見た目はレイアの兄妹と思えるくらい若い。
だが声と仕草は完璧におっさんだ。
勿体無い、、、
大きく目を見開いたまま、俺の顔を嘗め回すように見ている。
「母さん!今日はご馳走だ!」
「もちろんです!」
「レイア、買い出しに行くぞ!お前も来い!」
「ちょ、ちょっと待っ—————」
レイアはお父さんに引きずられていった、、、
元気なご両親だ、、、
嵐のような出来事を前に、頭がついて行かず、呆然と立ち尽くしかなかった。
「みなさん、こちらにどうぞ」
ポカーンっとしていた俺達に、お母さんが声を掛けてくれた。
隣の部屋に案内され、木で作られたベンチのような椅子に座り、出されたお茶に口を付けると、少し落ち着きを取り戻せた。
「旅でお疲れでしょうから、ゆっくり休んでいて下さい」
「お、お世話になります」
俺は渡し忘れていたお土産を渡して頭を下げた。
ニコニコしながら部屋から出て行くお母さんを見送って、みんなと顔を見合わせる。
「凄いご両親ね、、、」
「びっくりしました~」
お茶を飲みながらしばらく待っていると、フラフラになったレイアが帰って来た。
椅子に座るなりテーブルに突っ伏して、大きなため息をついている。
「・・・・・お騒がせしました」
「ちょっと驚いたけど、まぁ大丈夫だ」
「私もあんな父と母は初めて見ました」
「なんで俺を見て驚いていたんだ?人族って珍しいのか?」
「・・・・・男性だからだと思います」
「どういう事だ?」
「私は今まで全然男っ気が無かったので、、、」
「な、なるほど、、、」
今日はこのままゆっくり休んで、明日米を見せてもらいに行く事になった。
作っている場所と保管してある蔵に連れて行ってくれるらしい。
「みなさん、夕食の準備が出来ましたよ」
レイアのお母さんに呼ばれて行くと、テーブルの上に所狭しと食べ物が置かれていた。
リワンとラーニャの目が輝いている。
「ごめんなさい、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はレイアの母でクレメイアと言います。こっちが父のレイネリオです」
「よく来てくれた!これからもレイアと仲良くしてやってくれ!」
「は、はい、、、こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、食事にしましょう。遠慮なくたくさん食べて下さいね」
俺の隣に座らされたレイアは、俺に食事を取り分けたり、お酌をしたりしている。
レイアの両親はそれをニコニコしながら眺めていた。
リワンとラーニャは肉にかぶりつき、ヒトミは俺とレイアの様子をチラチラ見ている。
たらふく飯を食わされ、しこたま酒も飲まされてしまった。
夕食後、今日は泊まっていくように言われたので、お言葉に甘える事にした。
「今日はここで休んで下さい」
「すみません、ありがとうございます」
「ちなみにレイアの部屋はあそこですから」
「そ、そうですか、、、」
「鍵は付いていませんので、自由に入れますよ」
そう言ってクレメイアさんは俺の肩をポンポンと叩いて戻って行った。
案内された部屋に入って、そのまま倒れ込むように寝転がった。
今日はもう動けない、、、
リワンとラーニャは俺より食ってたのに、元気にアルギュロスと遊んでいる。
「・・・・・食い過ぎた」
「す、すみません。うちの親が、、、」
「・・・・・あんた、、、レイアのご両親にえらく気に入られてたわね」
「気のせいだろ、、、」
「ふん!」
今日は旅の疲れよりも、気疲れの方が大きい、、、
このままゆっくり休んで明日に備えよう。