【12】勇者だな!
「レイア、大部屋なら空いてたよ」
「わかりました」
「じゃあ、またね」
「ありがとうございました。後で会いに行きますね」
馬車を預けて、レイアの後に付いて行くと、冒険者のような格好をして弓を背負ったエルフが村の中を行き交っていた。
エルフだらけの長閑な村をのんびりと歩いて行き、村の真ん中にある建物に入った。
泊まる部屋に案内してもらって、ゆっくり腰を下ろす。
「少し出掛けて来ます。夕食までには帰って来ます」
「ああ、行ってらっしゃい」
たぶんアヴィーに会いに行くんだろう。
「やっとここまで来たわね」
「ああ、もうすぐだ」
「長かったですね~」
1ヶ月以上も旅をしたのは初めてだ。
メラゾニアまでの転移魔法が無かったら、2ヶ月近くかかっていたところだ。
帰りはフェンに飛べば、そこから3日程でヴァルアに着く。
転移魔法は本当に便利だ。
移動に時間がかかるから、有るのと無いのとでは大違いだ。
米と家を手に入れたら、俺も転移魔法を習いに行こう。
「お待たせしました。夕食に行きましょうか?」
夕食はアヴィーの家でご馳走してくれるらしいので、アルギュロスも連れて行った。
家の裏手に回ると、すでに食事の準備が終わっていた。
かまどの上に大きな鉄板が置かれ、大皿に大量の肉と野菜が盛りつけられている。
「レイア、もう食べる?」
「はい」
鉄板の上の肉をつつきながら、簡単に自己紹介をしていき、最後にレイアがアヴィーを俺達に紹介した。
「私と同じ歳でお友達のアヴィーです」
「初めまして、アヴィーって言います。よろしくね!」
そう言ってアヴィーは俺にニコッと微笑みかけてきた。
—————な、何だ?
アヴィーは俺に気があるのか?
「・・・・・ダメですよ」
「—————へっ?」
「アヴィーはもう結婚しています」
「べ、別にそんな事は考えていないぞ」
「嘘ですね。目を見ればわかります」
危ない、危ない。
アヴィーは人妻エルフさんだったのか、、、
—————ん?
アヴィーはレイアと同じ歳だって言ってたよな?
レイアはまだ結婚していない、、、
・・・・・ふむ、この話はここまでにしておこう。
「レイアお姉さんは結婚しないんですか~?」
—————リ、リワン!?
自ら地雷に足を突っ込むとは、、、
勇者だな!
「わ、私は、、、その、、、良い人がいなかったので、、、」
「いなかったって事は、今はいるのかなぁ~?」
アヴィーはニヤニヤしながら、レイアを突っついている。
「アヴィー!」
「んー?な~に~?」
「それ以上言うと—————」
「ご、ごめんなさい!」
アヴィーはレイアに睨まれて小さくなっている。
レイアみたいな美人に冷たい目で睨まれるとゾッとするんだよな、、、
みんなで騒がしく夕飯を食べ、ご馳走してくれたアヴィーに礼を告げて宿に戻った。
ここからエルフの森まで半日程度らしいから、明日は少し遅く出発しても大丈夫だろう。
◇
次の日の朝、出発する俺達をアヴィーが、見送りに来てくれた。
「レイアをよろしくお願いしますね」
そう言って、アヴィーは俺にパチンとウインクをした。
それを見たレイアがあたふたと慌てながら、早く馬車を出してとリワンにお願いしている。
みんなでアヴィーの見送りに手を振り返しながら、ジェロイを後にした。
目の前に見える山のような丘を越えれば、ついにエルフの森に到着する。
「リワンさん、そこを左に行って下さい」
「わかりました~」
「真っ直ぐじゃないのか?」
「こっちは徒歩や馬で行く道です。馬車は向こうの道をジグザグに登って行くんです」
草原に延びる土の道を、ゆっくりと登って行く。
丘の頂上に到着した時には、もう昼過ぎだった。
ジグザグに進んで来たから、思っていたよりも時間がかかってしまったようだ。
「あれがエルフの森なのか?」
「そうです」
目の前には広大な森が広がっていた。
森の周りを岩山が囲み、向こう側には大きな湖が広がっている。
森の中心には茶色い山があり、そこに向かって道が伸びていた。
—————ん?
あの茶色いのは山じゃないな。
たぶん、、、
「レイア、あれってもしかして切り株か?」
「そうです」
「—————嘘でしょ!?小さな町くらいあるんじゃない!?」
「大きいね!」
「凄いです~」
「あの切り株の中に小さな町があるんです」
「切り株の中に住んでるのか?」
「そうです」
切り株の中に町とは、これぞファンタジーだな!
「それにしてもデカイ切り株だなぁ」
「ユグドラシルと呼ばれています」
「ユグドラシル!?」
「あんた、知ってんの?」
「—————世界樹だ」
出た、出た!
これぞファンタジーの代名詞!
切り株だけってのが気になるが、、、
「はるか昔、折れて倒れてしまったと伝わっています」
「あんな大きな木が折れたの?」
「森の向こうに湖が見えますよね」
「見えます~」
「あそこに折れたユグドラシルが倒れたらしいです」
「そこに水が溜まって、今は湖って事か?」
「そうらしいですが、、、」
「どうした?」
「私は信じていません」
「何でだ?」
「本当にあんな大きな木が倒れたなら、もっと大きな湖になっているはずです」
「言うな!」
「周りも相当な被害を受けるはずです」
「それ以上言うんじゃない!」
あそこは世界樹が倒れた跡地に出来た、神秘的な湖って事でいいじゃないか。
細かい事は考えるな!
「先に進むのは、昼飯を食ってからにするぞ」
「はーい」
丘の頂上で昼食を食べながら、レイアからエルフの森について話を聞いた。
小麦や米だけでなく、野菜なども作られていて、牛や豚などの家畜も飼育されている。
森で鳥や鹿などの動物、湖では魚や貝も取れるそうだ。
どれだけのエルフが住んでいるか分からないが、食に関してはほとんど自給自足なのだろうか?
それと何故か森の中だけは魔物がいないとの事だ。
それでも熊や狼などの動物はいるらしいから、危険な事には変わりない。
服や雑貨などの足りない物はサザランドの町で買っていて、その時にジェロイにいた人達が護衛や運搬に出るらしい。
アヴィーのように森から離れた人達がジェロイに住んでいるようだ。
離れたと言っても半日程度の距離だから、別荘みたいな感じなんだろう。
ジェロイと森をよく行き来しているみたいだし。
エルフ以外の種族がここまで来る事はほとんど無く、森に生えている薬草目当ての人達がたまに来る程度だと言う。
サザランドでクエストを出せばエルフが取って来てくれるだろうから、実際はほとんど他種族は来ないんだろう。
昼食後、今度は丘をジグザグに下って行った。
丘のふもとからは切り株に向かって、一直線に道が伸びていた。
その道を進むにつれて、改めてこの切り株の巨大さに目を見張った。
どこから見ても山にしか見えない。
町への入り口には誰もいなかった。
熊などはいると言っていたから、見張りくらいはいるかと思っていたんだが、、、
「ヒトミさん、明かりをお願いします」
「はーい」
ヒトミとレイアが幹に開いた穴に向かって光魔法を撃ち込んだ。
穴というよりも、洞窟とかトンネルと言った方が良さそうだ。
中に入ると、遠くに小さな光が見えた。
あそこまで行けば、ついにエルフの町だ。
出口の光が大きくなるにつれて、俺の鼓動も早くなっていく。
こんなにワクワクするのはいつ以来だろうか?
自分でも興奮しているのが分かる。
長いトンネルを抜け—————
ついにエルフの町に到着した!