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異世界ナラティブ  作者: SW
第五章
95/105

【09】「じゃんけん?」


「ラーニャ、馬車は初めてか?」

「うん、凄く楽しい!町の外に出るのも初めて!」


ラーニャは景色を見るのに夢中だ。

首が痛くなりそうなくらい、キョロキョロ辺りを見渡している。

馬車の揺れも気にならないようだ。


それ程モンブリーから離れていないから、前にも後ろにも馬車が連なっている。

それでも進むにつれて、いろんな方向に馬車が分かれて行った。

俺達と同じ方向に進んでいる馬車はそれ程多くない。

次の目的地であるサザランドはあまり大きな町ではないのかもしれない。




他の馬車が見えなくなった所で、今日は少し早めにキャンプをする事にした。

ラーニャは初めての馬車で疲れているかもしれないと思ったが、元気に夕食の手伝いをしている。

リワンと馬の世話をしてからみんなの所に戻ると、もう夕食の準備が終わっていた。

大皿に山盛りの肉と魚介、それに少しの野菜。

かまどの上には大きな網が乗せられていた。


「ラーニャちゃん、好きな物を焼いて食べてね」

「たくさんあるから選べないよ」

「取り敢えず、全種類食うぐらいの勢いでいけ。じゃないと全部リワンに食われるぞ」

「・・・・・う、うん」

「リワン、野菜も食え」

「食べてま()よ~」


リワンは肉をレアで頬張り、レイアはじっくりと焼いている。

それぞれの個性と言うか性格が出ている。

俺は軽く焦げ目が付くぐらいまで焼くタイプだ。


「主様、これ美味しいね!」

「ん?タレの事か?」

「この美味しい汁」

「汁じゃなくてタレだな」

「わかった、タレだね!」


ラーニャはタレが気に入ったのか、肉がベチャベチャになるまで付けている。

あんなに付けてたら、肉が冷めてしまいそうだ。




「う~、お腹一杯です~」

「・・・・・あたしも」


2人は馬車の中で大の字に寝転がっている。

リワンはいつも通りだが、ラーニャがこうなってるのは初めてみた。

遠慮せずに食べるようになってきた。


俺は2人の周りをパタパタ走り回っているアルギュロスを抱きかかえて風呂に向かい、外で体を洗ってから、一緒に樽に入った。

アルギュロスはとろけ顔で風呂を堪能しているように見える。


ゆっくりと風呂を楽しみ、アルギュロスが体をブルブル震わせて水を飛ばしたのを確認してから、タオルに包んで馬車に戻った。

他の4人も風呂に行ったのか、馬車には誰もいなかった。

マットを敷いて寝床の準備を済ませ、まだ乾ききっていないアルギュロスをタオルでゴシゴシ拭いてやった。




「ご主人様~、私の髪も拭いて下さい~」


風呂から帰って来たリワンが、アルギュロスの体を拭いている俺を見て、面倒な事を言い出した。

嫌な予感がする、、、


「あたしも拭いて欲しい!」

「待って、順番決めるよ」

「では、ジャンケンで決めましょう!」

「じゃんけん?」

「ラーニャちゃん、教えてあげるからこっち来て」


みんなでラーニャにジャンケンを教えているが、俺がみんなの髪を拭く事は決定事項なのか?

アルギュロスをワシャワシャ拭きながら考えていると、向こうから『ジャンケン、ポン』と元気な掛け声が聞こえてきた。


「やりました!」

「・・・・・負けちゃった」

「む~、次は勝ちますよ~」


最初に勝ち上がったのはレイアだった。

そしてラーニャ・ヒトミ・リワン。

言い出しっぺのリワンが最下位とは、、、


「何で俺が拭かなきゃならんのだ?」

「アルちゃんだけじゃなく、たまには私も構って下さい」


湯上がりレイアの匂い立つ色気にクラクラしながら、長く綺麗な銀髪をタオルで優しく包み込む。

丁寧に拭きながら、ほんのりと赤く色付いたレイアの横顔をじっくりと眺めていた。


「ちょっと見過ぎじゃないの!」

「レイアは美人だからな」

「む~、私も美人ですか~?」

「リワンは美人というよりも可愛いかな?」

「主様、あたしは?」

「ラーニャも綺麗だぞ」

「私はどうなのよ?」

「ヒトミは美人とか可愛いとかよりも、ナイスバデ—————」

「—————スケベ!」


飛んで来たタオルを顔面で受け止め、レイアと交代したラーニャの髪を拭いていく。

ラーニャはニコニコしながら、気持ち良さそうに目を閉じていた。


「はい、そろそろ交代な」

「えー、もう交代?」

「乾くまで拭いてたら、リワンが風邪をひきそうだからな」


残念そうな顔でラーニャはヒトミと交代した。

ヒトミは首元のシャツの隙間を手で押さえながら、俺の前にゆっくり座った。


「変なとこ見ないでよね!」

「ここからだと、うなじしか見えねぇよ」

「み、見ないでよ!」

「見られるのが嫌なら、自分で拭いてくれ」


(うつむ)きながらブツブツ文句を言うヒトミの髪を拭いていく。

ヒトミは首元を抑えたまま、たまにチラチラ後ろを振り向いている。


「髪を下ろすだけで、かなり雰囲気が変わるもんだな」

「・・・・・どっちがいい?」

「自分が好きな髪型でいいんじゃないのか?」

「どっちか聞いてるの!」

「う~ん、ポニーテールかな?」

「ふ~ん、そうなんだ、、、」


最後にリワンが俺の方にパタパタ駆け寄ってきて、そのまま座り込んだ。

俺の顔をニコニコしながら見つめている。


「なんでこっち向いてるんだ?」

「ご主人様を見たいんです~」

「後ろ向かないとちゃんと拭けないぞ」

「後で自分で拭きます~」


それなら最初から自分で拭いてくれと思ったが、今からリワンだけ拭かない訳にもいかない。

頭を胸元に引き寄せて、髪を拭いてやった。

リワンは目を閉じて満足そうにしている。




全員の髪を拭き終え、そのまま横になるとアルギュロスが腹の上に登って来た。

撫でてやると大人しくなったので、俺もそのまま目を閉じた。


悪いが明日からはお前の体を拭くのは控えよう。

他の人に拭いてもらってくれ。

こんな事を毎日させられるのは御免だ。


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