【08】もはやため息も出ない、、、
—————どうしてこうなった?
いや、理由はわかっている、、、
昨日、こいつらの買い物に付き合うと言ってしまったからだ。
ラーニャが着せ替え人形になっているのはわかる。
なんで俺まで試着させられてるんだ?
「だってあんた、全然服を持って無いじゃない」
「普通の服なんて町中でしか着ないからいいんだよ」
「そうだとしても少なすぎるの!」
「私達が選んであげます」
「ご主人様~、次はこっちを着てみて下さい~」
服なんか白と黒のシャツとズボンがあればそれでいいんだよ、、、
向こうではラーニャもいろんな服に着替えさせられていた。
ラーニャは渡された服を着て、モデルのようなポーズを取っている。
俺とは逆に、楽しそうだ。
「はい、次はこれよ」
「もうさっきのでいいよ、、、」
「ダメです!ちゃんと選んで買わないといけません!」
レイアは生地や縫い目を細かくチェックしている。
ヒトミもこれだと色の組み合わせがダメだとか、ブツブツ考え込んでいる。
リワンは何着も服を持って来る。
きっと俺をマネキンか何かと勘違いしているんだろう。
何回も試着した後で、やっと俺の服が決まった。
この服はみんなが俺にプレゼントしてくれるらしい。
ラーニャも何着か買ったところで、近くの店に入り、お茶とお菓子を頼んで少し休憩した。
「ラーニャの服は昨日買わなかったのか?」
「昨日も買ったわよ」
「違うお店で買いましたよ~」
「昨日は時間が少なかったので、1件しか行けなかったんです」
昼頃から夕方までで、1件しか行ってないのか、、、
冒険者登録とかしていたとしても、少なすぎるだろ?
「そろそろ次のお店に行きましょう」
「そうね」
「俺はもう帰っていいか?」
「まだダメですよ~」
少し休憩したら、また次の店に入って買い物を始めた。
もはやため息も出ない、、、
「あんたはどっちの香りが好き?」
「・・・・・こっちかな?」
「ふ~ん、こういうのが好きなんだ」
「主様~、どっちのリボンが似合ってる?」
「・・・・・青いの」
「じゃあ、これにする!」
「ご主人様~、どっちの靴が可愛いですか~?」
「・・・・・赤い方」
「私もそう思ってたんです~」
「どっちの下着がお好みですか?」
「—————お、おい!」
「ちょっと、レイア!」
し、しんどい、、、
みんな元が良いんだから、どれでも似合うだろ?
自分が好きなの買えよ、、、
ここでの買い物の後、隙を見て逃げようとしたが、リワンとラーニャがガッチリ腕を捕まえていた。
次に入った店で、4人はいろんな小物を買い始めた。
「可愛い!」とか「綺麗!」とか騒いでいるが、あれをどこに置く気なんだ?
俺から見たら要らない物ばかり買った後で、ようやくこの地獄から解放された。
もう晩飯の時間だった、、、
宿に戻り、アルギュロスに飯を食わせた後で、夕食に出掛けた。
今日もリワンは肉、ラーニャは魚を食べている。
夕食を食べて宿に帰って来た俺は、そのままベッドに倒れ込んだ。
やっぱり女の買い物に付き合っても、何一つ良い事が無かった。
「楽しかったですね~」
「ええ、たくさん買い物できました」
「あたし、こんなにたくさん買い物したの初めて!」
「また来ようね」
「うん!」
「ご主人様~、また一緒に買い物しましょうね~」
俺は枕に顔をうずめたまま、リワンの発言に耳を塞いだ。
◇
次の日。
俺はラーニャと一緒にアイテムボックスを取りに向かい、他の3人には食料などの買い出しを頼んでおいた。
「終わったよ」
「じゃあ、馬車に戻ろうか?」
「うん!」
手続きを済ませたラーニャと一緒に店を出て馬車に向かった。
俺と手を繋ぎながら、アイテムボックスから武器を出し入れしている。
上手に使えている、これなら大丈夫だ。
たまに俺の顔を見て、得意げに笑っている。
馬車に戻ってしばらく待っていると、買い出しに行っていた3人も帰って来た。
「じゃあ、出発するぞ」
後ろではヒトミとレイアがアルギュロスと遊んでいる。
御者台で馬車を操縦する俺の両隣には、リワンとラーニャが座っていた。
「後ろに行ってもいいんだぞ、俺が真ん中に居たら話しにくいだろ?」
「ご主人様の隣がいいです~」
「うん、あたしも!」
「あんた、モテモテじゃないの?」
「あれだけ優しくされたら、懐かれますよ」
「2人には優しいもんね」
「アイテムボックスもプレゼントしています」
「私達も何か買ってもらおっか?」
「・・・・・」
仲間が1人増え、さらに騒がしくなった馬車を、次の目的地サザランドに向けて走らせた。