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異世界ナラティブ  作者: SW
第五章
90/105

【05】外堀はすでに埋められている、、、


「ラーニャ、おはよう」

「お、おはようございます」


起きてきたラーニャと一緒に朝食を食べて、この後奴隷商館に行こうと伝えた。

ラーニャはちょっと困った顔をしながら、小さく頷いてくれた。


馬車に乗って町に行き、奴隷商館の場所を教えてもらい、みんなと一緒に奴隷商館に向かった。

入る前に万が一に備えて、ラーニャをPTに加えた。

誘った時びっくりしていたが、大丈夫だからと伝えると、そのまま素直に入ってくれた。


「ヒトミ、いざとなったら転移魔法で」

「うん、わかってる」


少し緊張した面持ちのラーニャを促して店の中に足を踏み入れた。




「いらっしゃいませ、今日はどういった奴隷をお求めでしょうか?」

「奴隷を買いに来たのではなくて、少し尋ねたい事があって来たんです」


出迎えてくれた店員にこの事を説明すると、奥の部屋に案内された。

そこでしばらく待っていると、1人の老紳士が部屋に入って来た。


「どうぞお掛け下さい」

「失礼します」

「私はここの責任者でガランと申します。先ほどの詳しい話をお聞かせ願いますか?」


ソファーに座り、このガランという男に、昨日の事を詳しく説明した。

俺の話が終わると、ガランは近くにいた商人に耳打ちをしていた。


「この子は先月ある商人にお譲りした奴隷です」

「はい、そう聞いてます」

「今から使いを出して、その商人に知らせます」

「・・・・・そうですか」

「ご心配なさらずに、悪いようには致しません。こちらにお越し下さい」

「わかりました」

「お嬢様方はここでお待ちください」


そう言って立ち上がったガランと一緒に隣の部屋に向かった。

向こうはヒトミがいるから大丈夫だろう。

何かあった時、戦力的にはどう考えても俺の方が危険だ。


隣の部屋でガランと話をしながらしばらく待っていると、急に扉が開いて1人の男が飛び込んできた。

チョビ髭を生やした肥満体型の若い男だ。


「ここに俺の奴隷がいると聞いたが」

「はい、奥の部屋で治療中です」

「・・・・・治療?」

「かなり衰弱しています」


その話を聞いて、男は苦虫を噛み潰したような顔になった。

後ろめたい事があるんだろう。

ラーニャは隣の部屋でそこそこ元気にしているが、俺は口を挟まずに話を聞いていた。


「先月、そちらにお譲りした時とかなり様子が変わっていました」

「・・・・・」

「新しい傷だけでなく、古傷も見受けられます」

「・・・・・」

「奴隷をお譲りする時にお話した事を覚えておいででしょうか?」

「・・・・・ああ」

「奴隷に暴力をふるう事はもちろん禁止されています。衣食住も保証しなければなりません」

「・・・・・何が言いたい?」

「彼女は満足にそれらを与えられていないと思われます」


男は脂汗を流しながら、ガランを睨みつけている。

しかしガランは何処吹く風と言わんばかりに、その視線を受け流して話を進めていく。


「あの奴隷は返却していただきます」

「な、何だと!」

「ご不満がおありなら代官様に掛け合って下さい」

「・・・・・代官」

「この事はすぐに代官様のお耳にも届きますので」


男は黙ったまま拳を握り、わなわなと震えながら立ち尽くしている。


「あ、あんな役に立たん奴隷など、こっちから叩き返してやる!」

「わかりました、奴隷契約の解除はこちらで済ませておきます」

「二度とこの店で奴隷は買わん!」


そう吐き捨てて、男はドタドタと部屋から出て行った。

しばらくするとヒトミ達のいる隣の部屋から、歓声が上がった。


「これで大丈夫でしょう。おそらくあの男には何かしらの査察が入ると思われます」

「そうなんですか?」

「今回の件だけではなく、かなりあくどい商売をしているという噂もありますから」


扉が開き、笑顔のヒトミ達が部屋に入って来た。


「これでご用件はお済みでしょうか?」

「ええ、ありがとうございました」

「では今度はこちらからお客様にお話があります」


ガランはニコニコ笑いながら話を続けた。


「ここに我が商店自慢の奴隷がおります」

「・・・・・えっ?」

「よろしければお客様にお譲りしたいのですがいかがでしょうか?」

「・・・・・はい?」

「頑張り屋さんのとても優秀な子です」


ヒトミ達は笑顔で大きく頷き、ラーニャもジッと俺を見つめている。

—————これじゃあ断れない

外堀はすでに埋められている、、、


「・・・・・わかりました」

「ありがとうございます」


ガランはラーニャの黒いチョーカーを外し、新しく持って来た白いチョーカーを付けた。


「奴隷契約の方法はご存知でしょうか?」

「はい、知っています」

「では、お願いします」


俺は顎を少し上げて目を閉じているラーニャに近付き、チョーカーに触れて魔力を流した。

チョーカーの色が白から黒に変わっていく。


「これで契約は完了です」

「それでお代は?」

「お代はすでにさっきの男から頂いていますので、今回は必要ありません」

「・・・・・いいんですか?」

「もちろんです」


話が終わると、ガランはわざわざ店の外まで見送りに来てくれた。


「またのお越しをお待ちしております」

「ありがとうございました」

「その子をよろしくお願い致します」


店の外で俺達に手を振るガランに、みんなも笑顔で手を振り返していた。


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