【05】外堀はすでに埋められている、、、
「ラーニャ、おはよう」
「お、おはようございます」
起きてきたラーニャと一緒に朝食を食べて、この後奴隷商館に行こうと伝えた。
ラーニャはちょっと困った顔をしながら、小さく頷いてくれた。
馬車に乗って町に行き、奴隷商館の場所を教えてもらい、みんなと一緒に奴隷商館に向かった。
入る前に万が一に備えて、ラーニャをPTに加えた。
誘った時びっくりしていたが、大丈夫だからと伝えると、そのまま素直に入ってくれた。
「ヒトミ、いざとなったら転移魔法で」
「うん、わかってる」
少し緊張した面持ちのラーニャを促して店の中に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ、今日はどういった奴隷をお求めでしょうか?」
「奴隷を買いに来たのではなくて、少し尋ねたい事があって来たんです」
出迎えてくれた店員にこの事を説明すると、奥の部屋に案内された。
そこでしばらく待っていると、1人の老紳士が部屋に入って来た。
「どうぞお掛け下さい」
「失礼します」
「私はここの責任者でガランと申します。先ほどの詳しい話をお聞かせ願いますか?」
ソファーに座り、このガランという男に、昨日の事を詳しく説明した。
俺の話が終わると、ガランは近くにいた商人に耳打ちをしていた。
「この子は先月ある商人にお譲りした奴隷です」
「はい、そう聞いてます」
「今から使いを出して、その商人に知らせます」
「・・・・・そうですか」
「ご心配なさらずに、悪いようには致しません。こちらにお越し下さい」
「わかりました」
「お嬢様方はここでお待ちください」
そう言って立ち上がったガランと一緒に隣の部屋に向かった。
向こうはヒトミがいるから大丈夫だろう。
何かあった時、戦力的にはどう考えても俺の方が危険だ。
隣の部屋でガランと話をしながらしばらく待っていると、急に扉が開いて1人の男が飛び込んできた。
チョビ髭を生やした肥満体型の若い男だ。
「ここに俺の奴隷がいると聞いたが」
「はい、奥の部屋で治療中です」
「・・・・・治療?」
「かなり衰弱しています」
その話を聞いて、男は苦虫を噛み潰したような顔になった。
後ろめたい事があるんだろう。
ラーニャは隣の部屋でそこそこ元気にしているが、俺は口を挟まずに話を聞いていた。
「先月、そちらにお譲りした時とかなり様子が変わっていました」
「・・・・・」
「新しい傷だけでなく、古傷も見受けられます」
「・・・・・」
「奴隷をお譲りする時にお話した事を覚えておいででしょうか?」
「・・・・・ああ」
「奴隷に暴力をふるう事はもちろん禁止されています。衣食住も保証しなければなりません」
「・・・・・何が言いたい?」
「彼女は満足にそれらを与えられていないと思われます」
男は脂汗を流しながら、ガランを睨みつけている。
しかしガランは何処吹く風と言わんばかりに、その視線を受け流して話を進めていく。
「あの奴隷は返却していただきます」
「な、何だと!」
「ご不満がおありなら代官様に掛け合って下さい」
「・・・・・代官」
「この事はすぐに代官様のお耳にも届きますので」
男は黙ったまま拳を握り、わなわなと震えながら立ち尽くしている。
「あ、あんな役に立たん奴隷など、こっちから叩き返してやる!」
「わかりました、奴隷契約の解除はこちらで済ませておきます」
「二度とこの店で奴隷は買わん!」
そう吐き捨てて、男はドタドタと部屋から出て行った。
しばらくするとヒトミ達のいる隣の部屋から、歓声が上がった。
「これで大丈夫でしょう。おそらくあの男には何かしらの査察が入ると思われます」
「そうなんですか?」
「今回の件だけではなく、かなりあくどい商売をしているという噂もありますから」
扉が開き、笑顔のヒトミ達が部屋に入って来た。
「これでご用件はお済みでしょうか?」
「ええ、ありがとうございました」
「では今度はこちらからお客様にお話があります」
ガランはニコニコ笑いながら話を続けた。
「ここに我が商店自慢の奴隷がおります」
「・・・・・えっ?」
「よろしければお客様にお譲りしたいのですがいかがでしょうか?」
「・・・・・はい?」
「頑張り屋さんのとても優秀な子です」
ヒトミ達は笑顔で大きく頷き、ラーニャもジッと俺を見つめている。
—————これじゃあ断れない
外堀はすでに埋められている、、、
「・・・・・わかりました」
「ありがとうございます」
ガランはラーニャの黒いチョーカーを外し、新しく持って来た白いチョーカーを付けた。
「奴隷契約の方法はご存知でしょうか?」
「はい、知っています」
「では、お願いします」
俺は顎を少し上げて目を閉じているラーニャに近付き、チョーカーに触れて魔力を流した。
チョーカーの色が白から黒に変わっていく。
「これで契約は完了です」
「それでお代は?」
「お代はすでにさっきの男から頂いていますので、今回は必要ありません」
「・・・・・いいんですか?」
「もちろんです」
話が終わると、ガランはわざわざ店の外まで見送りに来てくれた。
「またのお越しをお待ちしております」
「ありがとうございました」
「その子をよろしくお願い致します」
店の外で俺達に手を振るガランに、みんなも笑顔で手を振り返していた。