【04】—————黒色のチョーカー
「ご主人様~、誰か倒れてます~」
馬車を預けに向かう途中、道脇の小さな木の下で、人が木にもたれ掛かっていた。
リワンに馬車を止めさせ、馬車から飛び降りてその人に駆け寄った。
無造作に伸びた赤色の髪、三角の耳と細長い尻尾。
【 ラーニャ 16歳 Lv.1 猫人族(奴隷) 】【 気配感知 】
よかった、ちゃんと息はある。
少し雨に濡れてぐったりしている女の子を抱きかかえて、馬車に戻った。
「レイア、この子の治療を」
「はい!」
「ヒトミ、終わったら体を拭いて、着替えさせてやってくれ」
「わかった」
「リワン、俺が馬車を操縦するから、向こうを手伝ってくれ」
「はい~、わかりました~」
広場に馬車を止めて手続きを済ませ、馬の世話を頼んでから馬車に戻った。
女の子は着替えさせられて、布団に寝かされている。
「どうだ?」
「小さな傷は治しました。でも体が少し弱っています」
「さっき抱きかかえたけど、軽かったな」
「古傷もあります。こっちは今の私では、すぐに治せません」
「・・・・・そうか」
「何日か続ければ、治せると思いますが」
「ねぇ、この子、、、」
「ああ、奴隷だな」
—————黒色のチョーカー
つまりは奴隷という事だ。
この子がどんな扱いを受けていたのか、何となく想像出来てしまう。
「俺がこの子を見てるから、3人は宿を取ってきてくれ」
「私達も残る!」
「・・・・・じゃあ、飯を買ってくる」
ヒトミとレイアにこの子の世話を任せて、リワンと一緒に買い物に出掛けた。
ここから町に向かっている馬車に乗り、夕飯を買って戻って来た。
夕飯を食べてから、温かいスープとサンドイッチを作っておく。
この子が目を覚ましたら食べさせよう。
「この子どうするの?」
「こういう時はどうするんだ?」
「そんなの知らないわよ」
「リワンは知ってるか?」
「ごめんなさい~、知らないです~」
「となると、また奴隷商館で聞いてくるしかないかな?」
夜は3人を先に寝かせて、俺はこの子の横に座って様子を見ていた。
「・・・・・うーん」
ウトウトし始めた頃、小さな声が聞こえてきた。
慌てて目を開けると、女の子が寝ぼけ眼のまま、上半身を起こしていた。
目をパチパチさせながら、辺りを見渡している。
髪をただ伸ばしているだけでバサバサなのが原因なのか、リワンと同じ歳なのにちょっと幼く見える。
前髪が長くてよく見えないが、可愛いというよりも綺麗な顔の女の子だ。
俺の姿を確認して、体を小さく丸めてしまったこの子に、優しく話しかけた。
「おはよう、大丈夫かい?」
「・・・・・」
「大丈夫、大丈夫、怖くないから」
怖がらせないように笑いながら頭を優しく撫でてやると、チラチラと俺の方を見始めたので、小さな声で話しかけた。
「体は大丈夫かい?」
「・・・・・」
「痛くは無い?」
「・・・・・うん」
「名前を教えてくれるかい?」
「ラーニャ、、、」
「昼間の事は覚えてる?」
「えーと、お使いに行って、、、。わっ、帰らなきゃ!」
慌てて立ち上がろうとするラーニャを抑えて、今は夜中だから帰るのは明日にしようと言い聞かせた。
最初はすぐに帰ると暴れていたが、一緒に行って説明してあげるからと言って説得したら、やっと大人しくなってくれた。
「お腹は減ってるかい?」
「・・・・・少し」
さっき作っておいたスープとサンドイッチをラーニャに手渡したが、なかなか口に入れようとしない。
「食べないのかい?」
「・・・・・」
「じゃあ、俺と一緒に食べようか?」
もう1つスープとサンドイッチを取り出して食べて見せると、ラーニャも恐る恐るスープを口に運びだした。
ゆっくりだが、ちゃんと食べている。
食欲はあるみたいだ。
サンドイッチを食べた時は大きく目を開き、俺の顔をジッと見ていた。
お代わりもしっかり食べた所で、ラーニャの事を聞いてみた。
ラーニャの主人は港の倉庫で仕事をしている人で、お使いの帰りに気分が悪くなってあそこで休んでいたらしい。
主人のいる場所はわかったが、そのまま連れて行くのは気が引けたので、予定通り奴隷商館へ連れて行って話を聞こうと思う。
「今日はここでゆっくり休もうか?」
「・・・・・うん」
「このまま寝てていいから」
「・・・・・ありがとー」
立ち上がって、自分の布団に戻ろうとしたら、パッと手を捕まれてしまった。
「ここに居て欲しいの、、、」
「・・・・・いいよ、一緒に寝ようか?」
「うん、、、」
ラーニャの横に布団を移動させて横になると、ラーニャも俺の方に体を倒して、目を閉じた。
◇
次の日の朝、目を開けると3人がラーニャの周りに座っていた。
体を起こそうとしたら、ラーニャが俺の手をしっかり握っているのが見えたので、起きるまで俺もそのまま横になっていた。
「優しいんですね」
「ん?」
「昨日の夜、その子と話をしているのを聞きました」
「ご主人様は私の時も凄く優しかったです~」
「リワンも起きてたのか?」
「はい~」
「ああやってリワンちゃんを誑かしたのね」
ヒトミを軽く睨んでから、朝食の準備を頼んだ。
ラーニャとの話はみんなに聞かれていたようだ。
変な事を言わなくて良かった。