【26】—————突っ込んだら負けだ
ギルドで暦を確認してみた。
ヒトミが言っていた通り、指定クエストの受付に貼られていた。
数字だけが書かれているから、曜日の概念は無いのかもしれない。
カレンダーを作って、家に置いておくのもいいだろう。
元の世界でいう所の大晦日の前日まで狩りを続けた。
年末と年始3日はのんびり過ごそう。
◇
そして今日は12月30日。
こっちは1ヶ月が30日だから、元の世界では大晦日になる。
昼からみんなで買い物に出掛けた。
大きな土鍋、それに大量の食材と酒を買っている。
なんか嫌な予感がするが、見なかった事にした、、、
今日の夕飯は鍋にすると言うから、俺はタレを作る事にした。
定番のポン酢とごまだれ。
見よう見まねで、それっぽい調味料を混ぜ合わせると、それなりの味になった。
風呂に入ってテーブルにつくと、鍋が運ばれてきた。
カセットコンロなんかは無いから、鍋だけがそのまま置かれている。
これは寄せ鍋かな?
肉、海鮮、野菜など、様々な種類の具材が煮込まれている。
立ち昇る白い湯気、ぐつぐつ煮える音と美味そうな匂いが、胃袋を刺激する。
「このお団子が美味しいです~」
「それは魚のつみれよ」
「さっぱりとしていて、とても美味しいです」
「ポン酢だな」
「こっちも美味しいですよ~」
レイアはポン酢、リワンはごまだれがお好みのようだ。
アルギュロスもテーブルの下で、美味そうに食べている。
あっという間に空になってしまった鍋を台所に持って行き、再び材料を入れて煮立たせる。
テーブルの上で火が使えないのが、こんなにもどかしいとは、、、
鍋の時に酒が進むのは俺だけじゃないらしい。
酒乱の3人も、コップ片手に鍋をつつき始めた。
「ちょっと飲み過ぎじゃないのか?」
それを聞いて、3人の動きがピタッと止まった。
顔を見合わせながら、ゆっくりとコップをテーブルに置いている。
—————今日は大丈夫そうだ。
明日からしばらく休む予定だし、せっかくの年越しだ。
今日は夜更かしをしよう。
みんなもまだ寝るつもりはないみたいだ。
腹一杯で動けないのか、床に座り込んでアルギュロスと遊んでいる。
夜も更けてきた頃、ヒトミが台所で何か作り始めた。
出来上がった料理をテーブルに置いて、みんなを呼んでいる。
夕飯に食べた鍋の出汁に、白い麺が入っていた。
「ヒトミお姉ちゃん、これは何ですか~?」
「年越しうどんよ!」
「・・・・・」
「私がいた所では、年が変わる時にこれを食べるの」
きっと蕎麦がないから、うどんにしたんだろう。
—————突っ込んだら負けだ
鍋から皿に取り分けられたうどんを、レイアとリワンも上手に箸を使って食べている。
「本当はおじやも食べたかったんだけどなぁ」
「来年はできるんじゃないのか?」
温かくなってきたら、今度はエルフの森に行く予定だ。
レイアの話だと、森には米がある。
今から楽しみだ。
◇
「・・・・・また1つ年を取ってしまいました」
次の日の朝、レイアが小さな声で呟いていた。
「レイアはどうしたんだ?」
「たぶん年が明けて年齢が増えたから、それで落ち込んでるんでしょ?」
自分のステータスを確認してみると、年齢が18歳になっていた。
—————本当に増えている
年が変わると、年齢も加算されるらしい。
どの世界のどんな種族でも、女性は年を取る事を嫌うようだ。
年が明けてから3日間、暖かい家の中でのんびり過ごしたからか、久し振りに狩りに出た時、体が重くて大変だった。
ヒトミ達も自分のスタイルを気にしてか、最近はよく出掛けるようになった。
ゴロゴロしていた付けが回ってきたんだろう。
それにしてもアルギュロスは全然大きくならない。
もっと成長が早いと思っていたのに、まだまだ小さくて可愛いままだ。
◇
だんだん寒さが和らいできて、クエストの報酬が元に戻った頃、エルフの森を訪ねる計画を立てた。
レイアがメラゾニアに来た時は、森の近くの村から商隊について行っただけだから、道がよくわからないらしい。
なのでまずはメラゾニアに行って、ギルドで情報を集める事になった。
俺とヒトミは食材を、レイアとリワンはその他の雑貨を買いに出掛けた。
エルフの森の近くの村からメラゾニアまで、約1ヶ月かかったと言っていたから、最低でもそれだけの食料が必要になる。
かといって、ヴァルアで1ヶ月分の食材を買う訳にもいかないから、途中立ち寄った町などで買い足していかなければならない。
今回の旅の目的はもちろん米だが、ついでに住む所も見つけたいと思っている。
報酬が上がった冬の間、ここぞとばかりにクエストをこなしたおかげで、かなり懐が潤っている。
家を買うのは無理だと思うが、借りる事は出来るだろう。
クラリー達もあの家は借りていると言っていた。
ならば他の町でも、家を借りられるはずだ。
買い出しを終え、家に帰って夕飯を食べて、布団に横になった。
遂に明日、エルフの森に向けて出発する。
やっと米に出会えるかもしれない。
だがもし無かったら、、、
—————どうしてくれよう!